2025年1月、ドナルド・トランプ氏が第47代アメリカ大統領に就任(再任)しました。アメリカばかりでなく世界にとっていろいろ影響が出てくると思われますが、それはさておき昨年秋の大統領選挙戦のときに私の印象に残っていることがあります。それは大統領選挙討論会の場でトランプ氏が、不法移民の人たちがペットの犬を食べている、と突然述べたことなのです。
その際にアメリカでは当然不法移民の人たちが犬を食べているのが真実かどうかの議論が沸き起こりましたが、トランプ氏独特のディベートの仕方には恐れ入りました。犬を食べていることで不法移民を揶揄したのでしょう、それもあってかトランプ氏は大統領選挙に勝利しました。犬を食べることはアメリカの日常習慣として馴染まないことですので、移民に対する嫌悪感を煽るのにはもってこいの発言だったと思います。
私がこのことを聞いてすぐに思い出したのが、インドネシアのスマトラ北部に住んでいるバタック族のことです。バタック族のことは「第2話多様な音楽」で触れましたが、私が勤務していたインドネシアの合弁会社で、あるときたまたまジャワ族とバタック族の社員とが居合わせた際に、ジャワ族の社員がバタック族の社員を指して「こいつらは犬を食べるんですよぉ・・・」と笑いながら話していたことです。特にこれで喧嘩するでもなく笑って戯れあっている感じで、他愛もないことだったのですが私の記憶に残ったシーンです。「第15話禁断の豚肉」で触れましたが、イスラム教徒は犬を嫌っていることもあり、イスラム教徒のジャワ族の社員は、キリスト教徒の多いバタック族の犬を食べる習慣を冷かしたのでしょう。
(バタック族の伝統舞踊)
ただ犬食(けんしょく)文化は世界各地にあって、アジアではよく聞かれます。「羊頭狗肉」という言葉から想像するに、犬の肉はあまり美味しいものではないようですが、アジアの農耕民族にとっては犬の肉は貴重なタンパク源だったことは事実でしょう。一昔前に日本でペットとして人気があった大型犬のチャウチャウも食用犬のひとつでした。日本では仏教文化の影響下にかかわらず、赤犬が美味いと言われて犬を食べていたことがあり、古くは縄文遺跡からもその形跡が見られるようです。
(バタック族の高床式建物)