封印された英雄伝説 ターミネーター外伝 第6章 「再現」 | 与太郎の館 - 短編小説・SF小説・随筆など -

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第6章 ~再現~

 

 

焼き芋を金庫にしまい、山田会長が席に戻ると、芋屋与兵衛はもうそこにはいなかった。

タイムマシンはまだ試験段階で、5分間しか転送先に滞在させることができなかったのだ。

芋屋与兵衛は自分が時空移動したことも知らず、900年未来に焼き芋を3本届けて1970年に戻っていった。

 

山田

あれ? 鉄人はもういないのか。

ロボットは愛想がないね。用事が済んだらサッサと帰りやがる。

俺には変な格好のオヤジにしか見えなかったけど、チップが手に入いれば、それで十分だ。

 

翌朝になった。

いよいよQ太郎が東京タワーのアンテナを折りに来る日だ。

山田は3本の焼き芋を金庫から出し、ジュラルミンケースに入れた。

似合わないサングラスをかけ、東京タワーの下で、ジュラルミンケースを両腕で抱えながら、Q太郎が来るのを待った。

 

すると後ろから、

「あら、次郎ちゃん、サングラスなんかしてどこいくの?」

と肩をたたき、声をかける派手な女性がいた。

釣り仲間と一緒によく行く、クラブのママ、明美だった。

 

山田

なんで俺だと分かった?

 

明美

え、変装のつもり?

誰が見ても次郎ちゃんだって分かるわよ。

お店の女の子が、山田会長が似合わないサングラスをして立っていたって、教えてくれたの。

最近、来てくれないから誘いにきたの。今日は絶対来てね♡

でもどうしたの?変装なんかして。

変な物を売買をしているんじゃない?

 

山田

違うよ!

 

山田は誤解をとくため、明美に今までの経緯をすべて話した。

 

明美

わーすごい! ターミネーターみたい。

 

明美は、山田と同じように機械音痴だが、映画が好きだったので、ターミネーターのことはよく知っていた。

 

山田

きのう、オヤジみたいな変なロボットが来てなぁ、チップというものを預かったんだ。

 

そう言って、山田はジュラルミンケースからチップ(焼き芋)を3本出して、明美に見せた。

 

山田

「Q太郎の頭の後ろにあるチップを抜いて、これを差し込め」と言うんだよ。

チップって、もっと固い物かと思ったけど、やわらかいんだな。

本当にこれで大丈夫なのかなあ。

 

明美

あら、次郎ちゃん知らなかったの?

未来のロボットって柔らかいのよ。

ターミネーターに出てくる未来のロボットなんか、体がグニャグニャなんだから。

だからチップも柔らかく作っているのよ、きっと。

 

明美は映画好きだが、山田と同じで機械音痴のため、SF映画となると内容をほとんど理解していない。

フィクションと現実の区別さえついていないようだった。

 

山田

ああ、なんだ、そういうことか。

 

山田も山田である。明美の説明を鵜呑みにした。

2870年の未来都市に生きる人間の会話とはとても思えないが、この意味不明の会話が、気が合う二人には心地よかった。

 

すると、東京タワーに向かって、Q太郎がまっすぐに歩いてきた。
 
山田
おおっ、来た来た。
 
山田は建物の影に身を隠し、ジュラルミンケースから、焼き芋を取り出して構えた。
 
明美
次郎ちゃん、かっこいい!
なんか「007」みたい。
 
Q太郎が目の前を通りかかった時、山田はQ太郎に向かって走り寄り、「それ!」と言って、Q太郎の背中にはめ込まれていたVHSビデオのようなチップを、素早く引き抜いた。
そしてすかさず、チップが入っていた穴に焼き芋を無理やり押し込んだ。

Q太郎の動きは止まった。
・・・・・・そのまま動かない。
 
山田
あれ、どうした?
動きが止まった・・・・・。
 
山田会長は不安にかられた。
「俺は何か手違いをしたかも知れない・・・・・」
もしもQ太郎がこのまま動かなければ、「機械音痴の山田が、公共ロボットのQ太郎を壊した」とみんなに思われてしまう。
山田会長がもっとも恐れること。それは、みんなから機械音痴と言われることである。
 
「チップはすでに抜いてある。100年後にQ太郎が蘇って、東京タワーのアンテナを折るようなことは、もうないだろう・・・。」
そう思った山田は、密かに釣り仲間に頼んで、人目につかないように、引き抜いたチップといっしょにQ太郎を無人島に投棄してもらった。
 
<2970年 白い巨塔大学研究室>

舞台は100年後の2970年、白い巨塔大学の財前教授の研究室に移る。
まだ酔いが残ったまま、白い巨塔タワー付属大学の財前六三郎教授と、物体保存会の森田添削当番は、性懲りも無く新たな計画を立てていた。
 
財前
そうだ! いいことを思いついた。
 
森田
いや、もう信じない。
ろくなことにならない気がする。
 
財前
こんどは大丈夫だ。私は大学教授だよ。
まあ、聞きたまえ。
今からテレビ局に行って、「白い巨塔大学からタイムマシンの微調整に来た」と言って、タイムマシンのある部屋に忍び込む。
そして大学の研究室にある鉄人あずさ28号を、2年前の無人島に送り込み、Q太郎が蘇る前にチップを入れ替えさせる。
今度は大丈夫だ。
 
森田
実は私も同じことを考えていたんだ。
もうそれしかないな。
 
100年前、Q太郎のチップは、すでに山田によって引き抜かれ、石焼き芋に入れ替わっていることを、財前と森田はまだ知らない。
二人は肝心なことを怠っていた。
丁半太郎のミスにより、1970年から2870年に何が送り込まれたのか、タイムマシン電話で山田会長に確認するべきだった。
 
チップの代わりに、石焼き芋を詰め込まれたQ太郎は、このまま何もしなければ蘇ることはない。
当初の計画とは違ったが、「東京タワーのアンテナを折るQ太郎の行動を止める」という役割を、山田会長は果たしていたのだ。
 
そうとも知らない財前と森田は、テレビ局にタイムマシン研究チームを装い、タイムマシンが置かれている部屋に潜入した。
 
財前
今度は失敗しないぞ。
 
財前は事前に、大学の研究室にある「鉄人あずさ28号」に、Q太郎のチップを差し替える指示を済ませてある。
あとは、タイムマシンをミスなく操作するだけだ。
三度目の正直。ミスなく操作は終わった。
Q太郎が蘇る前、約2年前の無人島に、鉄人あずさ28号を送り込んだ。
そして財前と森田は早足でテレビ局を後にした。
 
タイムマシンの操作にミスはなかった。
しかし、財前と森田の計画そのものにミスがあった。
Q太郎のチップを差し替える必要があったのは100年前の山田会長に送り込んだ場合である。
Q太郎を街の巡回監視ロボットに戻せば、誰にも何の疑いもかからずに全てを処理できるからだ。
しかし2年前の無人島のQ太郎は、すでにスクラップになっているのだから、チップを抜くだけで良かった。
 
さらに最も大きなミスは、チップを交換することを鉄人あずさ28号に指示しておきながら、チップを鉄人あずさ28号に渡していなかったことだ。
 
<2968年 無人島>
 
タイムマシンで2年前(2968年)の無人島に送り込まれた「鉄人あずさ28号」は、すぐに投棄された「Q太郎」を見つけた。
しかし、Q太郎の頭の後ろに差し込まれているはずのチップがない。
かわりに、何か乾いたものが穴の中にこびりついている。
 
そう、100年間経過して乾ききった石焼き芋である。
鉄人あずさ28号は、指の先から強力なエアーを穴に吹きかけて洗浄した。
 
しかし、差し替えるべき肝心のチップを渡されていない。
でも、鉄人あずさ28号は優秀なロボットで、指示内容に不備があっても、それを補って解決できる能力を備えていた。
 
Q太郎の脇に、山田が一緒に投棄した「東京タワーのアンテナを折る」というミッションをプログラムされた、VHSビデオテープのような「チップ」が置かれていた。
鉄人あずさ28号は、それがQ太郎のものだと即座に判断し、そのチップをQ太郎の頭の後ろの穴に差し込んだ。
 
28号が無人島についてから、すべての作業を終えるまで1分もかからなかった。
鉄人あずさ28号はすぐに、財前と森田が待つ、2970年の大学の研究室に戻った。
 
財前
あれ? もうもどったのか!
さすがは、鉄人あずさ28号だあ。
よくやった!
 
財前はそう言って、鉄人28号の右腕を両手でしっかりつかみ、ほめたたえた。
しかし鉄人あずさ28号は、丁半太郎と違って愛想がない。
「わたし、失敗しないので」
そう言うと、定位置に戻り動かなくなった。
 
<2970年 無人島>
 
それから約1年が経過し、無人島に雷が落ちた。
OFFになっていた電源がONになり、Q太郎の右目が赤く小さく光った。