封印された英雄伝説 ターミネーター外伝 第5章 「時空移動」 | 与太郎の館 - 短編小説・SF小説・随筆など -

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~ 第5章 ~ 「時空移動」


 

50%の確率で失敗する「丁半太郎」に、タイムマシン起動の最後の操作をまかせて逃げた財前教授と森田当番。

二人は教授の部屋に戻り、はぁー、はぁーと息を切らしながらも、満足気な顔をしていた。


森田
はぁー、はぁー、息が切れる。
さすがは財前教授だ。
ロボットに指示して逃げるなんて、機転がきくねー。

財前
はぁー、はぁー、まあ、そのくらいの機転がきかないと、教授戦には勝てないからなあ。

と、財前教授は、まんざらでもない様子だった。

森田

危なかったけど、成功したねー。
これで会長復帰だあ!

財前
その通り!
計算上、明日になれば、東京タワーも、あなたの会長職も、全部元に戻っているよ。
だから私も、テレビで何も言わなかったことになっているはずだ。

すべては元に戻るってことよ。
前祝いをしようじゃないか!
ブランデーでも飲むか?

上機嫌になった財前教授は、世界に数本しかない最高級のブランデーの栓を開けた。

森田
ああ、これはありがたいねえ!
それにしても大学というところはすごいね。

高級なブランデーもあるし、鉄人あずさ28号の他にも、ちゃんとしたロボットがいるんだね。

財前
何を言っているんだ。そんなロボットいるわけないだろう。
鉄人あずさ28号さえいれば、超高性能ロボットは他にいらないからな。

森田
え? さっき財前さんが指示したロボットは、鉄人あずさ28号だったっけ?

財前
そんな訳ないだろう。

あんたも、分かりきったことを何度も聞くねー。
鉄人あずさ28号は、山田次郎のところに送り込むロボットだよ。

指示などできるわけないじゃないか。
あの部屋には28号は1体しかないんだから、他のロボットに指示するしかないだろう。
そんなことよりなぁ、このブランデーは世界に数本しかない超高級のブラ・・・・・。
今なんと言った?

 

森田
さっきのロボットは、鉄人あずさ28号か?って聞いただけだけど。

 

財前
まずい!すぐ戻ろう!

財前と森田は、息切れがおさまらないうちに、また研究室に向かって全力で走り出した。
警備員がいないことを確認し、二人は研究室に入るなり、息切れの限界で倒れ込んだ。

鉄人あずさ28号は、まだそこにあった。
「ということは、丁半太郎は、まだ何も操作をしていない!」
という期待を込めて、タイムマシンのモニターを確認した。

遅かった・・・。
すべての設定は完了し、作動は終わっていた。
「丁半太郎」に急いで頼んだ、送り元の日時は現在の日時のはずだったが、
なんと、1000年前の、「1970年11月25日 午後8時」になっていた。
未来から鉄人あずさ28号を送り込むつもりが、1000年過去から「何者」かを送り込んでしまったかも知れない。

丁半太郎は、
「2970-11-25-08」
と入力するところを、
「1970-11-25-08」
と、1000の位に1と入れてしまったのだ。

研究室の隅で、「丁半太郎」が得意気にクルクル回っていた。
丁半太郎の存在価値は、まわりの人にかわいがってもらうことにある。
丁半太郎は、初めての任務をやり遂げたことを、指示をした財前にほめてもらおうとしているらしい。

このプロジェクトは、人間の目から見たら失敗だが、丁半太郎の自己評価は違っていた。

10個の数字のうち、押し間違いは1つだけで、10%しか間違っていない。
「50%の確率で失敗する丁半太郎にとって、失敗率10%は最高のパフォーマンスである」

と、内蔵されたAIは認識したのだ。
丁半太郎は、ほめてもらおうと、いつまでもクルクルと回り続けた。

しかし財前と森田は、丁半太郎どころではなかった。

財前
なんてことだあ!

森田
あんたがターミネーターの話なんかするからだろう。

財前
あんただって一緒にターミネーターの話にのったじゃないか。

森田
まあいい、そんなことを言い合っている場合じゃない。

もう一度タイムマシンを使って、鉄人28号を送り込もう。

財前
そうだな。すぐに再操作をしよう。

財前教授は、すぐに前回と同様の操作を行った。

1番目に送る場所を設定し、2番目に送る先の年月日と時刻を設定し、3番目に送る元の場所を設定し終えた。

そして最後に、先ほど「丁半太郎」が間違えて設定した「送る元である現在の年月日と時刻」、つまり財前と森田がいる現在の2970年11月25日、午後8時をセットしようとした。

するとそのとき、こんどは森田が余計なことを言った。

森田
財前さん、今、思ったんだけどね。
何も、100年前の山田会長のところに、鉄人あずさ28号を送り込まなくても良かったんじゃないの?
Q太郎が蘇ったのは今年だよ。

だから、Q太郎が蘇る少し前に、鉄人あずさ28号を無人島に送って、チップを交換させればよかったんじゃないのかなあ?

財前
それを早く言ってよー。
確かにその通りだ。
山田次郎にチップを渡しても、あいつは機械音痴だから、何をしでかすか分からないからな。
それは良いアイデアだ。

今までの入力データを全部消して、もう一度設定し直そう。

財前教授はそう言うと、今までの入力データを全部消した。

とその瞬間、こんどは5~6人の足音と人の声が聞こえ、すぐ近くまで来ているようだった。


財前
ああ、あれはタイムマシン研究チームのやつらだ!

二人は慌てたが、もう走って逃げる体力は残されていなかった。
急いで物入れの中に身を隠した。

するとタイムマシン研究チームが5~6人、部屋に入ってきた。
リーダーが手早く皆に指示した。
「明日、タイムマシン完成の記者会見を開くことになったから、このタイムマシンを、今から急いでテレビ局に運ぶぞ!」
そう言って、5分ほどでタイムマシンが運び出されてしまった。

財前
・・・ああ、もうこの計画は終わったな。

今のはあんたが悪いよ。

森田
そんなことはない。

いいアイデアだって、あんたも言ったじゃないか。

財前
アイデアの中身じゃなくて、言うタイミングだよ。
もう少し前に言ってくれたら完璧な計画になったけど、あのタイミングで言うから、すべてがダメになったじゃないか。
山田次郎にまかせていれば、成功の可能性はまだあったんだ。

でも仕方ない、ここにいるのが分かったら、俺はクビになる。

とにかく急いで部屋に戻ろう。


部屋にもどると、財前は、世界に数本しかない超高級ブランデーを棚にしまうと、トリス・ウイスキーを出した。

二人はほとんど泥酔状態になりながら、しょうこりもなく、次なる策を立てようとしていた。


<1970年>
時代は1000年さかのぼる西暦1970年、日本は高度成長期で、大阪で万国博覧会が開かれ、街は勢いづいていた。

 

しかし、そういった時代の中で、時流に流されることなく、若い時から焼き芋一筋に生きているおじさんがいた。
名前は、「芋屋与兵衛」と言う。
浮世のことには興味がなく、大阪で万博が開かれたことも知らない。
一日中、焼き芋のことしか考えていなかった。


1970年11月25日 午後8時、与兵衛が屋台を引いていると、サラリーマンの男性が呼び止めた。

与兵衛は極度の近眼で、その日メガネを落として割ってしまい、お客さんの顔もよく見えていなかった。

でも熟練の腕を持っているため、焼き芋の品質は落ちていない。

おじちゃん、焼き芋2本ちょうだい。

芋屋

はいよ。売れ残りだから200円にまけとくよ。

それはありがとう。

しかし、男が財布から200円を取り出して渡そうと前を見ると、屋台と、焼き芋やのおじさんの姿は消えていた。
男は呆然として、その場に立ち尽くした。



<2870年>
西暦2870年4月28日午前10時。

山田次郎会長は、鉄人あずさ28号が送り込まれてくるのを、首を長くして待っていた。
将来、東京タワー遺跡の石碑に、「人類史上最大の機械音痴 山田次郎」、などと書かれたらたまったものでない。

Q太郎のチップを入れ替えるために、鉄人あずさ28号から早くチップを受け取って、安心したかった。

すると目の前で、「ピリピリピリッ」と放電する音が聞こえ、空中に稲妻が走った。

すると稲妻の中から、2つの車輪がある物体と、おかしな格好のおじさんが現れた。

そしておじさんは、20cmほどの茶色い物体を2本、山田会長に向かって差し出していた。

山田
おお、待ってたぞ。

あんたが「鉄人あずさ28号」か。
ずいぶん奇抜な格好をしたロボットだな。
まあ、そんなことはどうでもいい。

チップは?

芋屋

気を使わなくていいって。

ここは日本なんだから。

チップなんかいらないって、200円でいいよ。

山田
このロボットは、何を言っているんだ?
こっちがもらうんだよ。

芋屋
え?、わしがだんなにチップをやるんですか?
まあいいや、わしが渡せるチップは、これしかねえ。

芋屋は、できたての石焼き芋を1本おまけして、合計3本を山田会長に手渡した。

2870年の食文化は大幅に変わり、焼き芋というのものは存在しない。

したがって、山田会長は焼き芋というものを、今まで見たことがなかった。
さらに、機械音痴でチップを見たこともなかったため、差し出された3本の焼き芋を、プログラムが組み込まれたチップと勘違いしたのだ。

山田

これがチップかあ。ずいぶん熱いな。

こんなに柔らかいものとは知らなかった。

でも、これがあれば将来、「人類最大の機械音痴」などと言われなくて済む。
盗まれたら大変だから、しまっておこう。


そう言って山田次郎会長は奥の部屋へ行き、できたての石焼き芋を3本、

大きな金庫に、大切そうにそーっとしまい鍵をかけた。

 

<第6章へ続く>

 

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