

あらゆる治療法の中で最も激しい論争の的になっているのは恐らくショック療法でしょう。しかし医師たちはしばしばこの療法について,もう少し穏やかな響きのある,電気けいれん療法もしくはECTという名前を用います。「カッコーの巣の上で」などの映画の中ではこれが恐ろしく描かれていたので,人々は一般にECTに対する恐怖心を抱いています。それでも米国だけでも毎年推定10万人の患者がECTを受けています。精神病学者に関する一調査は,「普通は大量に投与され,多くの場合に精神療法と併用される薬が効果を発揮しない場合にのみ,[ECT]が圧倒的に多く用いられる」ことを明らかにしました。
ECTは大幅に改良が加えられていますから,多くの人が考えているほど恐ろしい方法ではありません。正しく施される限り,患者が恐怖症になることはありません。患者には麻酔をかけ,(骨の損傷を防ぐため)筋肉弛緩薬が投与されます。患者の頭には電極をつけ,少量の電気を脳に通して短時間だけ発作を起こさせます。
APA(米国精神医学協会)の情報局長ジョン・ボナージュは,APAの特別調査委員会の研究が,ECTが「うつ病の治療に最も効果的な方法の一つ」であるという結論を出していることに言及しています。ボナージュは「目ざめよ!」誌の編集部員に,「しかし,重症うつ病を併発していない限り,ECTは精神分裂病の治療にはもうほとんど用いられない」という情報を提供しています。
ECTがどのように,なぜ効果を発揮するのか,医師たちには全く分かりません。そのため反対者たちはこれを,「画像がよく映らなくなった時にテレビを足で蹴ることに相当する精神療法」と呼びました。しかし,ECTが精神病の薬に似た方法で神経の伝達に影響を及ぼしていると思われる証拠が幾らかあります。この療法を批判する人々はECTを,危険な治療,脳を傷付けるものと呼び,記憶喪失の危険や死をもたらす危険についてさえ指摘します。一方,この方法を支持する人たちは,方法が改良されてからそのような危険は大幅に減少したと言います。さらに,重症うつ病の患者に自殺を図る大きな危険が伴うことを考えれば,ECTがもたらす益はその危険を補って余りある,と論じます。