大川美術館の所蔵する松本竣介コレクションを中心に、竣介の画業を60点余りの作品とデッサンで辿る展覧会です。
松本竣介は1912年(明治45年)東京生まれ、岩手育ちの洋画家。13 歳で聴覚を失い 、17歳で上京して太平洋美術学校で絵を学びます。終戦後まもなく36歳で亡くなるまで、制作のほとんどは戦時下でした。
1938年に描かれた「街」を描いた油絵がとても素敵で、絵の前でしばし時間を過ごしました。
●「街」1938年
青緑の世界に浮かび上がる、美しい線で描かれた整然とした街、その上に重層的に描かれた人々。お洒落をして歩いている人もいれば働いている人もいる。中央の女性のすぐ後ろの男性は靴磨きをしています。人々の姿は背景に溶け込んではっきりしません。
東京の街を題材にしているそうなのですが、不思議なことに東京という感じはしません。パリと言われればそんな気もするし、ロンドンと言われてもそんな気もする。
横浜の風景を描いた絵の説明によると、竣介は街をそのまま描くのではなく、再構築して描いたそうです。そのせいなのでしょうか、地域や人の属性、時代はあまり頭に入ってこなくて、「街」というものの概念のみが伝わってくるような感じ。街というのは、そこに生きる人を含んだ存在なのだな、とふと思いました。
ありふれた情景を描いているようでありふれていない。静かで普遍的な画風にとても惹かれました。
● 「Y市の橋」1944年頃
● 「市内風景」1941年
展覧会に出ていた作品はデッサン中心で油絵はそれほど多くありませんでしたが、デッサンも美しかったです。
● 「都会」1938年
竣介は絵だけではなく、文章でも表現を試みる、思索を大事にする理知的な人物であったようです。会場には著作からの引用があり、東京の「街の雑踏の中を原っぱを歩く様な気持ち」で歩いた、とありました。
なぜ彼は街を題材にしたんだろう。街を通して、何を表現したかったんだろう。同郷の友人だったという舟越保武から見た竣介像も紹介されており、興味は尽きませんでした。
もっと松本竣介の絵を見たい、知りたいと強く感じた展覧会でした。
↓以前に松本竣介の絵を見た展覧会