森田子龍は1912年兵庫県豊岡市生まれの書家。1950年から60年代にかけて、海外で開催された展覧会に出品、前衛美術家として世界的に活躍しました。
ピエール・スーラージュは1919年フランスのアヴェロン県出身の抽象画家。生前にルーブル美術館で個展が開かれ、フランスの国民的画家として知られているそうです。
森田子龍とスーラージュ夫妻。
今展覧会では、兵庫県とアヴェロン県の友好を記念し、交流のあった二人の作品が紹介されています。森田子龍はスーラージュのことを「白黒の仲間」と呼び、彼の抽象画を自身が編集する雑誌「墨美」で紹介したり、直接会うなどの交流があったそうです。
●左 森田子龍「蒼」
右 ピエール・スーラージュ
スーラージュの作品は初めて見ました。
二人の作品はぱっと見た感じ、似ています。特に墨を紙に描いたスーラージュの作品は、柔らかさもあり、書のような雰囲気です。
ですが、見ていくうちに、前衛書と抽象画は見た目は似ていても全く別のものなのだなぁと感じました。
※撮影OKなのはスーラージュだけだったので、森田子龍は以前に常設展で撮影したものから。
●森田子龍「龍」 顔料・漆・紙
●森田子龍「圓」 墨・紙
●森田子龍「蕭々」 墨・紙
書は「文字」を描いているので、表現はその文字から広がるもの。形だったり、色だったり、質感だったり、見る側もその作品をその文字を含めて意味を見いだそうとします。私には森田子龍の作品は、漢字と共に頭の中でイメージが広がりわかりやすかったです。
●ピエール・スーラージュ クルミ染料・紙、カンヴァス
●ピエール・スーラージュ クルミ染料、木炭・紙、カンヴァス
●ピエール・スーラージュ 墨・紙、カンヴァス
一方、スーラージュの作品は、タイトルが「紙に墨 66.1x50.3cm、1961年」みたいな情報のみ。いくつか見て思ったのは、「黒」という色の表現を探求しているのかな、ということ。クルミのインクや墨を使った作品は艶のある黒だと思いました。
●ピエール・スーラージュ 油彩・布
●ピエール・スーラージュ 油彩・布
●ピエール・スーラージュ 油彩・布
油彩も青や赤、黄に黒を重ねていて、深みのある黒を探している感じ。
写真は撮れませんでしたが、表面に黒の縞が刻まれたような真っ黒な作品があり、黒に光が反射して存在感がありました。それまでの西洋絵画では、黒は光を吸収する存在として扱われていたのを、光を放つ存在として扱った、というようなことが説明で書かれていて、スーラージュの絵の世界をちらっと垣間見れた気がしました。
お互いに関心を持ち、恐らく影響し合ったと思われますが、どのように、というところまでは残念ながら分かりませんでした。ですが、会場ではよくわからなかったことを、帰ってから考えを巡らせるのが楽しく、久々に頭を使った感のある展覧会でした。