消えたソンタクホテルの支配人 | kanoneimaのブログ

kanoneimaのブログ

私的備忘録

書名:消えたソンタクホテルの支配人
著者:チョン ミョンソプ(鄭 明燮:韓国作家)
出版:影書房
内容:裵正根(ペチョングン)は16歳の少年。父を亡くしたうえに母まで亡くして通っていた外国語学校のフランス語科を中退した正根(チョングン)は、10歳年長の兄で皇宮を守る侍衛(シウィ)隊の参尉(さんい)である裵裕根(ペユグン)に連れられてソンタクホテルにやってきた。ホテルの経営者ソンタク女史の面接に合格した正根はボーイとして働くことになる。1907年春、性悪な先輩ボーイ黄万徳(ファンマンドク)の指導に耐えながら徐々に仕事に慣れてきた正根は、梨花(イファ)学堂の女生徒に下品なからかいをしたという濡れ衣を着せられそうになる。正根は何とか無実を証明し、真犯人の万徳(マンドク)はホテルを追放された。騒動がおこった数日後、伊藤博文統監(とうかん)主催の晩餐会が催される。ところが、翌日からソンタク女史の姿がホテルから消えた。突然の失踪に驚くボーイたち。その後、玄関の郵便受けからソンタク女史の手紙が見つかるが、正根は疑問を持つ。さらに追い出された万徳がホテル周辺をうろついていることに不審を覚えた正根は、ソンタク女史と親しい人たちを訪ねようと考える。しかし、正根は西洋人がおもに話す英語を話せない。困った正根が頼ることにしたのは、先の騒ぎで関わった梨花学堂の女生徒・李福林(イポンニム)。二人は協力して真相を究明し、ソンタク女史が高宗(コジョン)皇帝からあずかった信任状を、潜伏中の密使・李儁(イジュン)に渡す手助けをするが……。
※2018年初版
※物語の背景:本書は、日本の植民地支配(1910年の韓国併合)が始まる3年前を舞台に、史実をもとに創作された物語である。当時、日清戦争と日露戦争の勝利によって朝鮮(1897年から国号は大韓帝国)の属国化を進めた日本は、1905年の第二次日韓協約(乙巳〔ウルサ〕条約)によって韓国の外交権を奪い、漢城(ハンソン:現在のソウル)に統監府(後の総督府)を設置した。大韓帝国皇帝・高宗(コジョン)は、国の独立を守ろうと手を尽くし、1907年にハーグ密使事件が起きる。
※ソンタクホテルは1902年に建てられた西洋式ホテル。経営者のソンタク女史が皇帝高宗(コジョン)に下賜された慶運宮(キョンウングン)近くの土地に建ち、高宗や皇室と密接な関係にある外国人たちの泊まる宿舎、つまり迎賓館だった。
※ソンタク女史は、ロシア公使カール・イバノビッチ・ウェーベルの遠縁(ソンタク女史の妹と結婚したロシア貴族の妹がウェーベル公使と結婚したため姻戚)で、ドイツ・フランス・スイスの国境地帯であるアルザス・ロレーヌの出身。ウェーベルとともに朝鮮に来た彼女は、明成皇后(ミョンソン:閔妃〔ミンビ〕)の信頼を得て、皇后の死後に高宗(コジョン)の側近となり、皇室典礼官として活躍した。清と日本の干渉と圧力を受けていた朝鮮としては、ロシアの協力が必要で、公使の親戚であるソンタク女史は、皇帝と公使を結びつける役割を担っていた。
※梨花(イファ)学堂:小説当時、ソンタクホテルの隣に建っていた学堂は、1886年に米国の女性宣教師が設立した朝鮮で初めての女子教育機関。梨花学堂という名称は高宗がつけたと言われている。現在、梨花女子大学は世界で最も大きな女子総合大学として世界的にも有名である。

大韓帝国侍衛(シウィ)隊:朝鮮王朝末期に王を護衛した軍隊。
参尉:日本の少尉くらいの階級。