2017年、クリスマスイヴに | Tへ

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ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪


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わたしにとっての人生の優先順位は、


一番が仕事だった。


何故そう思うのか。


それは過去からの経験上自分の中で根付いてしまった事。


ひとに裏切られても、仕事は自分を裏切らないと


不確かな法則が宿ってしまった愚かさにもある。


大人になってから家庭を持ち、


そして子供を産んで新たに親としての人生経験をして


学んでいく道は、あったのかもしれない。


踏み外した歯車は、もう元へは戻らない。


わたしの思う普通の人生。


その路線とは外れた場所で


人は人、自分は自分と割り切ってずっと生きてきた。


過去の傷に蓋をすることで、凍った心を閉ざしたまま


表面だけは偽善者のごとく振る舞って他者と接してきた。


年中行事など意味のないものと


冷淡に仕事一途に過ごしてきた日々。


恋愛よりも私生活よりも仕事が一番大切だった。


がむしゃらとまではいかなくても、自分の日常は


すべてが仕事で占めている毎日だった。


家庭を持つ同僚たちが先に帰っていく様子を尻目に


待つ人のいない自分だから、定時に帰れることもなく


残務処理で居残り勤務をし続けてきた。


誰もいない部屋に帰宅する時間は日々遅くて、


夕食を作って食べるという気分も失っていた。


だからいつからか帰り際に、職場近くのスーパーで購入した


唐揚げやコロッケなどを帰宅電車を待つ駅のホームで


口にして、時にはアルコールの缶を片手に


寒空の下、ひとり飲んだりして空腹を満たしていた。


こんな日々は、わたしにとっての当たり前の人生と信じて


仕事に占められた日常に振り回されたまま


何年も走り続けていた。


繰り返される間違った状況に気づくことすらできないほどに


わたしの心は枯れていた。

 

そんな私の様子が純情でないことに気づいてくれたのは


医者でもなく、Tだった。


あの日、あの時、彼に手を引かれて病院へ行かなければ


いったい自分はどうなってしまっていたのだろう。

 


病気を知ってから、その療養で彼のもとで過ごす日々。


最初の頃は布団に横たわって眠ってばかりいたけれど、


彼に連れられて近くのスーパーまで


買い物に出かける気力もうまれてきた。

 

「 かのん、きょうは、いつものスーパーじゃなくて


  新鮮な魚のあるスーパーに行こう。」

 

Tに言われるがままに、その店へと向かう。


みごとに新鮮な魚が並んでいて見ているだけで楽しい。


大きな鯛や、まるごと水につかったなまこ。


大きな牡蠣やアワビやサザエが、むき出しのまま


水槽に沈んでいる。


そして色とりどりの新鮮なお惣菜が、


はち切れそうなほどに詰められて売られている光景。


彼の住む街は、どこのスーパーに行っても広々としていて


豪快で楽しかった。


色々と眺めていると、たくさんのお寿司が目に留まる。


そういえば彼のところに来た日、


彼の両親が届けてくれたお寿司を、Tとふたりで


頬張っていた記憶が思い出される。

 

 

 

 

 

 

今、目の前に、それに似たお寿司の詰め合わせが並んでいる。


とても新鮮で高級なネタなのに、驚くほどに安い。


美しく詰め合わされた寿司に目を落としていたら


その日がクリスマスイヴであることを思い出させられた。

 

「 これ、買っていってTのお父さんとお母さんに持っていこう。」

 

長年、年中行事に背を向けてきたはずなのに


何故か、この時の私は違っていた。


そんな気持ちにさせられた理由はよくわからないけれど、


Tといると、彼に関わる全ての人と


楽しみを共有したいような気持ちが生まれる。


クリスマスも誕生日もお正月もなく働いていた過去の自分。


我慢せず、もっと人生をラクに楽しく生きていくこと、


傍らにいる彼が、そんな幼いころの幸せな気持ちを


掘り起こしてくれたのだろうか。


それとも、彼といることで、わたしの中に


気持ちの余裕が生まれて来たのだろうか。


Tは黙ってお寿司を手に取りレジへと向かっていったけれど


彼の後について行きながら、


そんな、ささやかなクリスマスイヴに


満たされているわたしがいた。


車の助手席に腰かけて


ハンドルを握る彼の横顔を時折チラリと盗み見る。


気づいているのかいないのか、Tは無表情のまま


正面を向いて運転を続けている。


Tの長いまつげが時折、憂いを帯びて見える。


こんな頼りない私と過ごしながら


病魔を抱え彼は何を思っているのだろうか。


聞くだけ野暮な質問だから私は口を閉ざしているけれど


Tに問いかけたい、たくさんの思いが泉のように湧き出てくる。


彼の家に着いたら黙ってワインを口に含もう。


互いに抱える多くの難題など悩むだけ無駄だった。


クリスマスイヴだけれど


わたしも彼も、甘いケーキには興味がなかった。


せめてアルコールで乾杯して不安な心を麻痺させて、


イヴの夜を、いまTとふたりで過ごせることに


ささやかな喜びに浸ろう。


ぽつりぽつりと立ち並ぶ民家の外に


ライトアップされたクリスマスのイルミネーションが


煌びやかに点灯している。


そんな光景を遠めにTの横で赤いワインを口にしながら


わたしは優しい眠りに導かれていくようなイヴの夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

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