堀内重人 寝台列車再生論 | 金屋代かずおのお部屋

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周防大島町を拠点に鉄道旅行・鉄道もけいの活動を行っています.

(プラレールで製品化された,JR西日本の観光用夜行列車)

 

「WEST EXPRESS 銀河(WE銀河)」は予定より約4ヶ月遅れ,2020/9/11に無事,デビューすることができました.

京都駅で行われた出発式には夜間でありながら多くの人々が集まり,文字通りの満席では運行されていないとはいえ,初便には販売席数の53倍もの申し込みがありました.

(以上参考:https://www.westjr.co.jp/press/article/items/200911_00_ginga.pdf)

 

デビューできたのは良いのですが,これが継続して運行されていけるのかどうかという点はよくよく考えなければなりません.そこで,本日は,「北斗星」「カシオペア」「はまなす」の廃止直前となる2015年7月に書かれた,堀内重人氏の「寝台列車再生論─寝台夜行列車の存続・活性化に向けての提言」を紹介します.

内容

このような提言書は,理論的な考察が書かれておらず,実現性の低い提言ばかりが書かれている,いわゆる「筆者の戯言」しか書かれていないというお考えの方も多いかと思います.

しかし,この本は法制度・経済学理論を考察し,関係者の話を聞きながら議論を進めていたので,提言の実現性はともかく,議論の説得力が比較的高かったです.他業種・海外の事例も多く説明してあります.

筆者が特に気になった部分は以下のようなものです.

  • 285系は24系のB寝台車約3両分の利用者数しか運んでおらず乗車率が悪い.株主は「サンライズは失敗だった」と判断している(P50など).
  • 低賃金の非正規職員が増え,夜行長距離移動では安価なバスを使用せざるを得なくなっている(P53).
  • 「寝台特急の機関士に憧れて鉄道事業者に入社する若者が多く,このような若者が少なくなると鉄道事業者に入社する人がいなくなる」と労働組合が発言している(P94).
  • 夜行列車用の車両が昼間に活用されず無駄であるというのであれば,例えば「サンライズ瀬戸・出雲」では東京周辺の観光・ビジネス向け列車(実際の「サフィール踊り子・あずさ・日光きぬがわ」に相当)に間合い運用することを提案する(P115).
  • オーストラリアでは単独で採算が取れないという理由では夜行列車を廃止していない.これらは観光産業での広告塔であり,単独で赤字でも,国全体の便益は「正」になっている(P158).
  • 夜行列車の復活を行う場合,「しまかぜ」は良い参考となる(P210).
他にも,「ななつ星in九州」の他,当時開発中の「四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」に関する内容にも触れています.

あれから5年

(私見です)
しかし,世界はこの5年(特に直近の半年)で大きく様変わりしてしまいました.
個人の長距離移動(特に国際観光移動)や団体移動が慎まれ,ただでさえ少なくなった賃金はさらに少なくなり,夜間の保線に時間をかけるために終電を繰り上げる,鉄道事業者は収益を確保するために,時間帯別運賃を導入を検討するというような,夜行列車にとって逆風が吹き荒れる環境となっています.
しかし,だからと言って完全に消滅させると「交通権」の侵害になる他,鉄道・交通事業者のなり手がなくなってしまい,経済に更なるダメージを与えかねません.文化的にも,「このような文化が存在したことが伝わらなくなる」可能性が大きくなる大問題となります.
「瑞風」「WE銀河」がプラレールで発売されたのはこの点でも非常に嬉しいことです.前項の「寝台特急の機関士に憧れて〜」は嘘ではないと筆者は信じています.
 
「WE銀河」に関していえば,座席が一般発売され「山陰地方から『WE銀河』を使用し,関西空港から海外へ向かう」「関西空港から到着した外国人観光客に『WE銀河』を利用してもらい,宮島口へ乗り換え1回で向かう[*]」使い方ができるようになってからが本番と言えます.長距離・国際移動が何十年も慎まれるという状態にはなりませんし,なってはなりませんので,今のうちからできることは考え,実行できればと思います.
車両は更新工事も受けていますが,基本的には次の全般検査を受けれるかどうかというところでしょう.短距離でも積極的に利用し,後継の寝台列車(おそらく気動車)を見てみたいものです.
 
なお,「ブルートレイン」が非常に人気があることは当ブログのアクセスにも現れており,昨日の記事は既に3,000件以上のアクセスをいただいています.いつも当ブログをご覧いただきまして,誠にありがとうございます.
 
[*]:大阪駅・新大阪駅では梅田貨物線から東海道旅客下り線・北方貨物線に直接入ることはできません.関西本線の阪和貨物線(八尾〜杉本町)があれば,関西本線・奈良線経由で,京都駅から東海道本線下りに方向転換することなく,電車を和歌山方面から神戸方面に進めることができました.この点でも,安易な廃線は考えものと言えます.
(参考:「配線略図.net」

https://www.haisenryakuzu.net/documents/jr/west/tokaido/ )