【論点】

・「場所」に対する令状の効力が当該場所内にある「物」に及ぶか

・場所に対する令状の効力が令状呈示後に捜索対象場所内に搬入された物に及ぶか

・「必要な処分」の可否・限界

 

【答案】

第1 下線部①の行為の適法性について

1 警察官Pが、「場所」について発付された捜索差押許可状によって甲の携帯「物」を捜索することは許されるか。「場所」に対する令状の効力が当該場所内にある「物」に及ぶかが問題となる。

(1)ア そもそも、捜索・差押えの対象の特定がされる趣旨(憲法35条1項)は、捜査機関による捜索・差押えの権限を、裁判官によって「正当な理由」があることが事前に確認された範囲に限定し、権限の濫用を防止するとともに、処分対象者に対して受忍範囲を明らかにして処分の適法性を争う機会を提供することにある。

 かかる趣旨により、裁判官は、捜索差押許可状を発付するにあたり、捜査機関から請求された捜索・差押えの対象について「正当な理由」が認められるか否かを審査し、それが確認されたものだけを権限行使の対象として令状に記載する。

 そのため、捜査機関が捜索・差押えを行うことができる対象は、令状に記載されたものに限定される。

イ では、刑事訴訟法(以下略)222条1項・102条は、捜索の対象として、「人の身体」、「物」、「住居その他の場所」をかき分けていることから、それらの捜索には、それぞれについて別個の令状を要するのではないか。

(ア) この点、捜索場所に置かれた物については、保護される利益が場所について保護されるべき利益に包摂されていると考えられ、裁判官の「正当な理由」の審査も当然にそのことを前提にしているものと考えられる。

 そこで、「場所」に対する捜索令状によって、その場所にある「物」の中を捜索することは許されると解する。

(イ) 本件について検討する。捜索場所に置かれた居住者の物について保護されるべき利益が、場所について保護されるべき利益に包摂されていると考えられるため、当該物については、場所に対する捜索令状によってその中を捜索することができるといえる。そのため、A方居室内にある甲のキャリーケースは、本来A方居室にあることが予定されているものであるから、A方居室という「場所」にあることが予定されているものであるから、「場所」に含まれるといえる。そして、キャリーケースは場所に置かれたものではなく、甲が携帯している物であるが、人が携帯しているか否かでプライバシー等の利益に何らの変化もないから、問題とならない。

(ウ) したがって、キャリーケースの捜索にあたって、別個の令状を要しない。

(2) そして、甲は覚せい剤営利目的譲渡の拠点であるA方の同居人であることから、捜索の必要性(218条)も否定されない。

2 よって、下線部①の行為は適法である。 

第2 下線部②の行為の適法性について

1 まず、警察官Pが本件の捜索差押許可状に基づいて令状呈示後に捜索場所に搬入された物を捜索することは許されるか。「場所」に対する令状の効力が令状呈示後に捜索対象場所内に搬入された物に及ぶかが問題となる。

(1) この点、令状発付後にいつ捜索を行うのかは捜査機関の判断に委ねられているのであるから、裁判官が特定の時点を想定して要件を審査していると解することはできない。そのため、令状の効力は捜索の開始時点における場所ないしそこに置かれている物に限定されるわけではない。

 また、令状の呈示は、当該場所が捜索の対象となることを示すものに過ぎず、捜索対象を時間的に限界づける意味合いをもつ処分ではない。

 そこで、「場所」に対する捜索差押許可状の効力は、捜索開始後に当該場所に搬入された「物」にも及ぶことから、「必要があるとき」(222条1項・102条1項)であれば、当該物に対する捜索は許されると解する。

(2) 本件について検討すると、乙は、覚せい剤営利目的譲渡の拠点であるA方の同居人であり、差押え対象物である計量器や背景証拠を発見するためにボストンバッグ内を捜索する必要性は否定されない。そのため、「必要があるとき」に該当する。

(3) したがって、乙のボストンバッグにも本件捜索差押許可状の効力が及ぶ。

2 次に、警察官Pが捜索に際して処分対象者たる乙の身体に有形力を行使することは許されるか。「必要な処分」(222条1項・111条1項)の可否・限界が問題となる。

(1) この点、捜索の際の有形力の行使は、本体的処分に伴う付随的行為として当然に許容される処分であり、令状主義との関係でも裁判官は本体的処分を許可するに際し、この種の付随的行為も併せて許可したものと解される。

 もっとも、捜査比例の原則より、上記付随的行為は、許可された捜索等の目的を実現するために必要かつ相当な限度にとどめられなければならないと解する。

(2) 本件について検討すると、Pが再三にわたって任意でボストンバッグを見せるように求めたが、乙が拒否していることから、ボストンバッグ内に覚せい剤の密売に関する物が入っているとの疑いを抱くのは通常である。そして、乙がボストンバッグを両腕で抱きかかえていることから、ボストンバッグ内を捜索するには、乙を羽交い締めにする必要があったといえる。

 また、Pらは乙を羽交い締めにしてボストンバッグを取り上げて捜索しているところ、行為態様としては最低限であり、相当であったといえる。

 そのため、Pらの有形力行使は、必要かつ相当な限度にとどまっているといえる。

(3) したがって、上記行為は、「必要な処分」として許される。

3 以上より、下線部②の行為は適法である。

以上