文秀、順桂、王逸の三人が膝をつき西太后の出御を待っている。楊喜楨、醇親王、礼部尚書が付き添い、玉座の傍には永禄と李連栄が控える
李連栄「西太后陛下お成りです」
西太后玉座に座ると、三人は最敬礼する
西太后「たいぎじゃ、皆の者面を上げよ」
楊喜楨「光緒十二年、第一甲、状元 梁文秀、榜眼 順桂、採花 王逸にござりまする」
西太后「いずれも若い。かように二十歳ばかりの若者が三元に名を連ねたためしを余は知らぬ。これは善きことじゃ。多年にわたり光緒帝を助け奉ることであろう」
李連栄「太后陛下の有難きお言葉であるぞ、心して賜れ」
西太后「おや、醇親王、妙な顔をして居るが何か不満なことでもあるのか」
醇親王「いえ、永禄将軍がお側におられるとは思いがけぬことゆえ」
西太后「余が陪席を許した」
礼部尚書「軍機国政を総理なされる醇親王が将軍の復権をご存じないとはいささか不都合と思われますが」
西太后「おだまり!しれ者め。余の意に口をはさむものがあるか。意趣あらばここにおる大総管太監を通して上奏せよ」
玉座を立ち出て行く。永禄と李連栄らが続く
醇親王「あやつは以前に公金を着服して斬首の刑を宣された折に、陛下のとりなしで一命を取り止めたのじゃ。法外な出世をお許しになるとは、太后はいったい何をお考えになっておられるのか」
文秀「部門の者が大臣に累進するというのは異例でござりましょう」
醇親王「もちろんじゃ。武人でありながら土木、建築、灌漑を司る工部尚書の役職にあっては公金の着服など思いのままよ」
礼部尚書「殿下、お声が高うございます。太監どもはみな太后様の忠僕であることをお忘れになりますな」
醇親王、礼部尚書出て行く
楊喜楨「どうかね諸君、仕事には慣れたかな」
順桂「着任早々、乾隆帝様のご偉業の記録を編纂し奉るとは光栄にございます」
王逸「私は一つ、楊先生にお尋ねしたいのですが」
楊喜楨「何かね」
王逸「現在の国の情勢を考えますと、はたしてこのような文化事業に入れ込んでいる場合かどうかと」
楊喜楨「世の中は大きく動いている。それも恐ろしい勢いでな。このままではこの先待ち受けるものは、破壊と殺戮、飢餓と流血の修羅場だ。それを阻むことのできるのは諸君らの若い力だ。隣国の日本が十八年前に成し遂げた維新は、古い習わしにとらわねぬ多くの若者の勇気と情熱の賜物なのだよ」
西太后と永禄と李連栄が・・
西太后「まったく、のこのこ舞い戻ってきて。李鴻章がどうか永禄を許してやってくれと言うから・・あ、また奥の手を使ったね。総督に金をつかませたんだろう」
永禄「いえ、そのような。どう言ってもいらんと、、」
西太后「まったくお前というやつは腹の中まで真っ黒だね。ああ、どんどん悪くなる。国を憂うものはみな早死にして、悪い奴ばかり生き残って結局私がやらなくちゃならない」
李連栄「私も永禄閣下も陛下のお側を決して離れませぬ」
と言ってすすり泣く
西太后「ウソ泣きはおやめ。お前は南府劇団にいた頃、そのウソ泣きが一番上手な立女形だったねえ。李鴻章がなにゆえそちを推すのかわからぬ。あの者は偏屈じゃが人を見る目は確かと思うが、いたし方あるまい。」