さて、本日紹介するのは朝井リョウ先生の「正欲」です。
最近、「ダイバーシティー(多様性)」という言葉をよく耳にしますよね。
性別、人種、経験、趣味嗜好などが異なる人が存在する中で、その個性を認め、尊重し合うというものです。
現代社会において、とても重要なことだと感じていましたし、そうありたいとも思っていました。
しかし、本作を読み、私の認識している「多様性」とは、表面をなぞっただけの綺麗事に過ぎなかったのだということを思い知らされました。
「自分が想像できる多様性だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」
作中に出て来る言葉ですが、私が受けた衝撃は計り知れません。
私は、自分が見える範囲のものだけを見て、分かった気になっていたのだと思い知らされます。
私がこれまで考えていた多様性は、自分の許容範囲の中に収まっているという条件付きのものだったのです。
何と浅はかだったのか。
そんなものは、ただの偽善に過ぎない。
前述の言葉を読んだとき、私自身が罵倒されたような気がしました。
「知ったふうな口を利くな!!」、「分かったふりをするな!!」と……。
己の無知を思い知らされ、器の狭さを突き付けられました。
同時に、共感出来る部分も多々ありました。
これまで私自身、モヤモヤとしたものを抱えていた部分もありますが、そこにすっと光りが刺したような感覚も味わいました。
本作は、人の心を深く抉るのと同時に、他者との違いで悩みを抱える多くの人に光りを当てる希望に満ちた作品でもあります。
他者とのズレを感じ、迷っている人。悩んでいる人にこそ読んで欲しい作品です。
カバーに鴨が描かれていますが、鴨は「解放」の象徴として描かれたりするようです。その鴨が墜落していく――。
そう考えると、本当に素晴らしい装丁です。
興味が湧いた方は是非!!