さて、本日紹介する本は、乙一先生の「GOTH リストカット事件」です。

皆さんは、ふとした拍子に、思い出してしまう作品はありますか??
私は、何作かあるのですが、その一つが乙一先生の「GOTH」です。
この作品を読んだのは、今から20年位前なのですが、その時に受けた衝撃が、今も尚、鮮明に覚えています。
「この人ヤバい……」読了した後に、そう呟き、喫茶店でしばらく放心した程です。
簡単にあらすじを書くと、人間の暗黒面に、どうしようもなく惹かれる高校生の「僕」と、同じ趣向を持つ美少女、森野夜とが、奇妙な巡り合わせにより、猟奇事件に関わっていく――というお話です。
語り部である主人公の「僕」は、暗黒面に惹かれ、猟奇殺人事件の新聞記事の切り抜きを集めたりと、かなり歪んでいるのですが、普段の生活の中では、その特異性を悟られぬように、普通を装っています。
こうした、歪んだ主人公が登場する作品は、数々あります。
私も、そういう登場人物を作品に投入することがあります。
並みの作家が、こういうキャラクターを書くと、どうしても不自然になります。
それはそうですよね。
だって、理解できない歪みをフィクションとして描いているのですから。
理解出来ない心情を描こうとするとき、作家は感覚ではなく、ロジックに頼るものです。
理由付けをすることで、理解したふりをしてしまうのです。
しかし――。
「GOTH」で描かれるキャラクターは違う。
これは、あくまで私の個人的な感想ですが、乙一先生は、歪みのある登場人物を、ロジックではなく、感覚として理解しているような気がします。
理屈ではなく、まるで主人公の<僕>が、乙一先生自身であるかのように――。
だからこそ、リアルで活きたキャラクターが描かれているのです。
乙一先生は、凡人が及びもつかないような、鋭利な感性を持っているに違いありません。
肌感だけでなく、文体も本当に素晴らしいです。
ダークなテイストの作品を書くとき、普通は描写を誇張しがちなのですが、乙一先生は違います。
青春小説のような爽やかさが漂いながらも、描かれている心情は、どっぷりと暗黒面に浸っている――このギャップも凄い。
敢えて誇張しないことで、読者の心の一番深いところを刺してきます。
映画の名優たちの、抑え気味なのに、ぐっと胸に響く演技を見ている感じです。
……分かり難い表現ですみません。
「GOTH」の読んで、その面白さに感銘を受けたのはもちろん、天才とは、乙一先生のような人のことを言うのだ――と確信し、己の凡庸さを思い知らされた作品でもあります。
興奮が過ぎて、まとまりのない紹介になってしまいましたが、興味の湧いた方は是非!!