「彼女との一番の想い出は?」
「全てさ。彼女と過ごしたこと全てが大切な想い出さ」
「そうか」
「一緒に食べたもの。たいしたものじゃなくても、最高のごちそうだった」
「誰と一緒に食べるかが大事、か」
「そう。あれ以上に楽しくておいしい食事はそれ以後、無い」
「そうか」
「一緒に行った場所。どんなに下らない場所でも最高に楽しかった」
「一番好きな場所は、彼女の隣」
「そう」
「うん」
「僕の全てだった」
「彼女に会うまでにも、楽しいことはあったろう」
「いや、無かった。何一つ」
「本当に?」
「本当に」
「僕は彼女に会って、初めて生き始めたんだ」
「それまでのことは?」
「いつもろくな事がなかった。いじめにもあっていた」
「そうか・・・」
「僕はただ、いじめられているだけじゃなかった。人を憎みきっていた」
「憎みきる?」
「一人ずつ、闇討ちにしていった」
「・・・そうか」
「僕をいじめていた奴らが、日に日に学校に来なくなる」
「お前が闇討ちをするから」
「殺しても良いと思っていた。こんな奴らのために自分が死ぬのが納得できなかった」
「だから手加減なしで殴りつけた」
「奴らはクズだ。いじめておいて、相手の苦しみを理解していない」
「(無言)」
「何一つ後悔はしていない。ただ、おかげで人間を信じなくなった」
「悪い、出会いしかなかったんだな。良い出会いも消し去ってしまう」
「・・・そうなのかも知れない。でも、彼女との出会いがそれを消してくれた」
「幸せを初めて感じた」
「世界中の人が全員幸せになればいい、とさえも思った」
「憎みきっていたお前が」
「憎みきっていた僕が」
「彼女のおかげか」
「そうだ」
「なのに失ってしまった。お前の生命線だった」
「そうだ」