4ー1 後半




 その教員からの怒りを買って、多崎のみ追加オプションで平手打ちをパチンと受けた。その音たるや一種の清涼感のようなものを帯び、雲一つ漂っていない今の晴天の真っただ中を貫いて響いた。

「何で遅れて来た、理由を言え、理由を、」

 この頃になると、健人の目の前の彼も随分と落ち着きを取り戻しつつある様子で、それを見ていてほっとしたものを感じている。「何で遅れて来た?」

 それでも、多崎は、

「何や、その物言いげな目は、」

「いや‥‥自分、生まれつきこういった目です」

「うん? そおか‥‥そんな目(めぇ)やったか」

「はい」

「‥‥妙なこと言うてすまんな、」

「Don't worry」

「あん?」ーーー「だいたいやなぁ、お前はあまりにも遅刻が多すぎる! どんな体たらくな生活を日頃っから送ってたら、そおなるんや?」

「‥‥‥‥‥‥」

「何とか言ったらどやねんな」

「‥‥‥‥‥ぐすっ、」

「おい! 先生の話、聞いてるんか?」そんな風にお叱りを真摯に受け続けていると、さすがの多崎もその心の内に反省の念を芽生えさせつつある様子で、大きく自身の両肩を揺らし始め、左手で彼の目縁(まぶち)を覆い隠すと、なおも「ぐすぐす」その場で大きく両肩を揺らし続け、さらにしばらく経ってから、

「先生が、生まれてきてこの方初めてです。こんなにも僕と‥‥真剣に向き合ってくださったのは」

 そう言って、器用に喉を震わせて、あくまでも泣いている素振りをその先生相手に堂々とやってみせる。ーーー‥当然、天高く平手打ちがまた響いていた。

 健人はそんな多崎の様子を間近で目の当たりにしていて、もはや敬服の念のようなものを感じていた。

『よぉ〜〜出来んなぁ‥』そんな呑気なことを健人が思っていると、今度はぎろっと健人の方に視線が移った。

「ちょっと朝から、ゆるゆるしすぎてました」

「おぅ、そうか‥‥」

 訪れた空白の圧が凄まじかった。

「ほんなら次からは気(きぃ)つけるように」

「はい」

「まだ大橋は一回目やな? 今学期に入ってから」

「はいっ」

「じゃあ、もう行っていいから、職員室に行って、遅刻届けの紙貰(もろ)て、自分の教室に上がっていき。ーーー問題はお前や、」

 先生は再び剣幕を浮かべ、多崎の方に向き直った。そして懇々とその場で説教を再開した。

 それでも多崎は平然、言葉を右から左に聞き流している様子で、健人の去り際の横目には映った。


        ( 4ー2へ続く )

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