明け方の田んぼはすがすがしい。
畔を歩くと、秋茜(アキアカネ)が、はらはらと舞い立つ。
まだ翅(はね)が固まらないのか、頼りなげな様子で、すぐに稲株に取りつく。
蜻蛉(かげろう)のようなはかなさ。
代かきのために田んぼに水を入れ始めたのが、5月25日。
それから数えて41日目。
その時は、一斉に来た。
冬の間、田んぼで眠っていた卵が入水と共に目を覚まし、ヤゴとなり、成熟し、幼い稲を伝い登る。
そして、羽化。
しかし、それは生死をかけた危険な瞬間。
頭を出したところで、時は止まった。
あと、ほんの少しだったのに…
翅が固まる前に、落ちたか。
やっと飛び立ったのに・・・
蜘蛛の巣にかかってしまった。
畔を巡り目を凝らすと、思いのほか多くの無残な姿に出会うことになった。
この田でトンボの羽化が初めて確認できたのは、7月5日の朝。
羽化は一斉に始まった。
田んぼの外周、4列の稲株に付いたヤゴの抜け殻をざっと数えてみた。
その数、なんと102個!
ヤゴを数えた範囲の面積は、
160m(田んぼの外周)×0.9m(4列の幅)=114㎡
この田んぼは1700㎡だから、羽化の密度が同一だとすると、一晩で1500匹を超えるアキアカネがこの田んぼで羽化した計算になる。
しかも、羽化はこの後、1週間くらい続いていく。
この田んぼ1枚に、数千匹のヤゴが生息し、羽化に挑戦しているのかもしれない。
秋茜は、羽化すると直ちに高山へ飛び去るという。
うちの田んぼの赤とんぼが行く先は、妙義か榛名か、それとも浅間か。
冷涼な空を乱舞する秋茜。
その様を想像すると、何とも愉快な気持ちになる。
ところで、私が耕してる田んぼ9枚のうち、アキアカネが大量発生するのは2枚のみ。
他の7枚では、トンボの数はそう多くない。
この違いは、何に由来するのか。
どの田も入れるのは、稲ワラ、モミ殻、ヌカ、くん炭、竹炭、オカラだけ。
農薬や化学肥料は使っていない。
違いは、田んぼを有機栽培に転換してからの年数。
1年から16年。
でも、隣接する16年目の2枚の田んぼのうち、1枚はトンボが湧き、もう1枚はそれほどでもない。
アキアカネの産卵は、稲刈り後の9月から10月。
田んぼの水たまりに腹を打ちつけて行うという。
とすると、水たまりができやすい、つまり水持ちのよい田んぼがいいのか。
うーむ、トンボの多い2枚とも、水はけのよすぎるザル田の部類に入るなぁ。
トンボが湧く田んぼの条件は、なんじゃろ?
こちらは、深山茜(ミヤマアカネ)
翅にある褐色の帯が独特の風情。
数はずっと少ない。
たまに会えると、気分は四葉のクローバー。