感想は、(耕論) いまって「昭和93年」? 原恵一さん

 

 心より愛と感謝をこめて

 

 

■立場を守るのは時代遅れ 安冨歩さん(東京大学教授)

 前財務事務次官のような、女性にセクハラする「昭和のオヤジ」が、なぜいなくならないのか。それは彼らがそれ以外の意思疎通の方法を知らないからです。ずっと怒られないできたから、なぜ今怒られるのかわからない。

 彼らの行動は、昭和の価値観を引きずっているように見えます。そうした行動が、特に戦後の昭和に顕著だった、日本人の「立場主義」に根ざしているからです。

 立場に付随する役を果たすためには、全力を尽くす。逆に、立場を守るためなら、何をしてもいい――これが立場主義です。

 森友問題での財務省文書改ざん事件などは、「立場を守るために、何をしてもいい」の最悪の事例です。

 立場主義は、家制度を解体し、徴兵制を支える考え方でした。戦後、徴兵制がなくなっても、この立場主義は高度経済成長で大きな成果を上げます。工場労働者は役を果たすために働きました。その成功体験の記憶が、今も続いているんです。

 ただ、与えられた役を果たすだけでは、人々は社会に依存し、自分で考えなくなります。その点ではむしろ、昭和より今の方が、考えない度合いが高まっています。

 一方で、コンピューターや人工知能(AI)の普及で工場は自動化し、歯車としての人間は機械に置きかえられていく。昭和の高度成長を支えた立場主義は、時代に合わなくなっているのです。

 それでも形骸化した立場主義は残り、前財務事務次官日大アメフト部前監督のように、それを全力で守ろうとする「昭和のオヤジ」が日本にはまだ大勢残っています。

 海外の変化は急です。LGBTなどの性的少数者の権利擁護、性被害を許さない「#MeToo」運動など、多様な価値観の尊重と、個人が声を上げる意識が高まっています。それが日本の若い世代に変化を与え始めています。

 「昭和のオヤジ」は相変わらず立場主義のままですが、被害者たちは違う。抗議をすることで、昭和の時代のような暗黙の了解成立しなくなった。今までなら表面化しなかったセクハラパワハラも明らかになってきました。これは変化に向けた一歩です。

 イノベーションの競争には、自分の頭で考える多様な人材が必要です。立場主義を維持し続ければ国が破綻(はたん)してしまう。次世代を担う子どもたちを立場主義者にしないために、行動を起こす必要があります。

 そこで私は「子どもを守る」と掲げ、7月8日の埼玉・東松山市長選に出馬しました。落選しましたが、投票総数の3割近い7千票を獲得しました。「変わらないといけない」という意識は広がっていると思います。(聞き手・平和博)

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 やすとみあゆみ 63年生まれ。著書に「原発危機と『東大話法』」「ありのままの私」「『満洲国』の金融」など。

本日 朝日新聞 朝刊 より