カタン

扉の外にいた俺は、先生が扉を開ける気配も
気付かないくらい動揺していた。

目の前に立つ先生は、
そんな俺の姿に悲しそうな顔をしながら、

「今の話…聞いていたのね…。」

そう言ってため息をついた。

「なんとなく分かった気がするわ。貴方のこと。
何でそんなに投げやりなのかも…。
貴方はずっと、皆から疎まれ、蔑まれて…、
それが精神を蝕んで、そうなってしまったのね。
生きるため、自分の心を守るためには、
そうするしか方法がなかったのね…。
だけどね、人を傷付けて得るものなどこの世にはないわ。」

「得るもの?あるさ。
金、食い物、生きるためには必要なんだよ。」

偽善だと思った。
こうするしか道はなかった俺には、
正論を吐く先生の言葉は偽善でしかない。

親も兄弟もおらず、
皆からは煩わしいものとして扱われてきた。
誰も彼もが俺を蔑み、
ひととして扱ってくれることはなかった。
だから、ひととして生きていくためには奪うしかなかった。
奪うことでしか自分の証を示すことが出来なかった。
全てを奪い尽くせば気も静まるかと思った。
だけど…

「確かに生きるためにはお金も大事よ。
だけど、それをひとから奪って貴方は何か変わったの?
心は満たされた?そうではないでしょ?

私ね、最近までずっと何の気なしに生きてきたの。
たくさんお金を稼いで自分の医院を建てて…
それが当然だと思って生きてきた。
だけどね、ある時気付いたの。
ここへ来て…
そして…
あぁ、私はこのために生きてきたのかと…
私にも生きる意味があったんだと…気付いたの。

だからね、今は分からないかもしれないけど
いずれ、気付く日がきっと来るわ。
誰しも必ずこの世に生まれ出でたときから、
生きる意味があるということを。
Understand~?」

おどけたような明るい笑顔で諭すように見つめる姿が、
あまりにも眩しすぎて、俺は目を細めた。

“先生、貴女は眩しすぎるよ。”

先生の言葉は俺には手の届かない、
夢のような話に聞こえた。
だって、俺は生きる意味など、
そんなもの一度も考えたことはない。

だけど、もし…、もしもだが、
俺にも生きる意味があるのだとしたら、
今の生き方も少し変わるのかもしれない。








※
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