格闘技動作における腰痛予防プログラム、ここからは筋や骨などを運動器として捉えたところからさらに一歩踏み込んで、呼吸や感覚の面からも予防と対策を探っていきます。
●腰椎は気合いで守る!!
「はい、気合い入れて!」「オス!」
「もっと声出して!」「オス!!」
全国の道場で日々繰り広げられている光景の中にも、腰を守る重要な要素が含まれているのをご存じですか?
そう、「腰椎は、気合いで守る」これです!!!
「気合い」といっても、いろいろな意味があり、競技や武道でも意味が違ってくる場合があるので、
国語辞典(大辞林・第二版)で調べたところ、
1)あることに精神を集中してかかるときの気持ちの勢い。また、それを表すかけ声。
2)物事を行うときのこつ。また、互いの間の気分。息。呼吸。
3)気分。こころもち。
以上、3つの意味がありました。
ここでいう気合いとは、1のかけ声、そして息を吐くこと。気合い=根性の意味ではないので悪しからず。
では、かけ声を出すと、身体はどのように変化するのでしょうか? そしてそれがなぜ腰を守ることにつながるのでしょうか? 格闘技医学的視点から考えてみましょう。
●腹横筋を収縮させる
格闘技や武道のみならず、スポーツの場面で大きな力を発揮する瞬間、息を吐いたり大きな声を出したりする場面があります。
テニスで強烈なスマッシュを打ち込む瞬間、
ハンマー投げや砲丸投げでの投げる動作のとき、
パワーリフティングで金属バーが曲がるほどの重い重量を上げる瞬間……
アスリートの口から
「アーッ!」「ウァーッ!」「ハッ!」「ギャーッ!」「○×☆△……!」。
気合いというか、時には、ほとんど雄叫びに近いような声が飛び出します。
このとき、身体の中はどうなっているかというと、急激に息を吐くので、横隔膜が上がり、腹式呼吸のためお腹がグンと引っ込みます。このお腹を引っ込める役割を担うのが、腹横筋(ふくおうきん)という筋肉。
腹横筋というのは、いわゆる腹筋といわれる腹直筋をはがし、横腹を走る内・外腹斜筋をはがしたいちばん深層にある筋です。この筋は、腰椎を取り巻く筒のような形をしており、腰椎の安定化をはかる役割があります。
腰を痛めると、腰痛ベルトやコルセットをして腹圧を高め、損傷部を安静にする、という治療法がありますが、声を腹から出して、腹横筋をグッと収縮させることで、体内にもともと存在するコルセット機能を使うことができるんですね。
実は、この事実が医学的に証明されたのはそんなに昔の話ではありません。
医学の世界で、全身の筋肉に電極をつけて筋電図を測定し、大きな出力を行う運動の際、どこがどのように収縮するかを調べたところ、腕を動かす時、腕の筋肉がいちばん最初に収縮するかと思ったら、腕の筋肉の収縮に先行して、腹横筋が収縮した。脚においても、脚の筋肉よりも先に腹横筋が収縮した。
これはどういうことかというと、
【人間は大きな筋力を発揮する際、まず腹横筋を収縮させて腰椎の安定化をはかり、それから大きな筋力を発揮する】、という順番があることが証明されたということです。
【参考:上肢において0・03秒前に、下肢において0・11秒前に腹横筋の収縮が起こると、円滑に動作を行う事ができる(Hodges、1996)】
腹横筋収縮に伴う圧の上昇が腰を安定させるから、大きな力が発揮できる。腹横筋をしっかり収縮させるためには、腹式呼吸で息を吐く、腹の底から声を出すことが有効と考えられます。しっかり声を出せるって、腰痛予防のため、力強い動きの遂行のため、この両面からも非常に大切であることがおわかりかと思います。
強くなりたければ、気合いをしっかりだすこと。
これは医学的にも正しいと言えるでしょう。しかも、最大筋力を発揮するときの気合いが筋力発揮に有効だとわかりますね!!
息を吐きながら、お腹を引っ込めて腹横筋を収縮させるという訓練は、日常生活の中でもその気になれば十分実行可能な強化法です。
電車の中でも、バスを待つ間でも、いっそのことトイレで腹圧を高めるのもいいかも(笑)。怪我をしてしまった満足に動けない選手にも、回復時のパフォーマンスアップに向けて、ぜひトライしてほしいメニューです。