2月15日午後6時半すぎ英軍司令官、パーシバル中将、参謀トランス少将、同ニュービギン少将,同ワイルド少佐の4名と通訳が会場のフォード自動車工場へ到着した。会場の周囲は戦塵がくすぶっており、入口には野砲が二門備えつけたままだ。しかし、荒れ放題だった工場内は急遽、歴史的な降伏式にふさわしく模様替えされた。午後7時すぎ山奉文・第25軍下司令官が会場に入ってきた。 パーシバル司令官らは起立してこれを迎えた。山下司令官らは、つかつかとパーシバルのそばへ寄り手を差しのべ握手した。パーシバル将軍は黙って握りかえしたが、心持ち青ざめ伏し目がちだったという。山下司令官には鈴木参謀長、池谷高級参謀、杉田参謀、岡武参謀らの幕僚が従った。

会議は先に英国側から提示された降伏文書ならびにこれに対する回答、すなわち英国軍の全面即時抗戦停止、武装解除など7項目にわたる問題について話しあわれた。

この中でわが国側が最も問題にしたのは、英国側が全面降伏にもかかわらず、シンガポール市内に治安要員として1,000人の兵士を駐屯させて欲しいと要望してきたことだった。英国側は市内での略奪、放火、英国市民の安全を願っての申し出であったが、日本側ははじめその真意が理解できず、全面降伏なのに市内に武装兵士を依然駐屯させるのはおかしい。午後8時をもって夜襲をかけると応酬した。