スルリと滑らかなシルクの寝具から抜け出した。
駅から自宅に歩く道に薄ピンクの山茶花が幾つも暗い生け垣の合間に浮かんで見えた。
けやき坂のイルミネーションは白と青で遠くに東京タワーの上部が見える。
私は買い物を切り上げて結局シュンタの指定した待ち合わせ場所、ヒルズに来ていた。
「ハイアットの中にいるよ。」
一緒にイルミネーションを見るようなつもりはシュンタにはないようだ。
レストランに入るとシュンタはシャンパンを注文する。
「乾杯。」
シュンタは意味在り気に微笑みを浮かべている。
話があるというのは、何のことなのだろう。
「何かお祝いごと?」
「うん、前に話していたと思うけど、決まったんだ。会社移籍するよ。」
数ヶ月前にヘットハンティングの話があると聞いてはいたが、
その後具体的な話はまったく聞いてはいなかった。
「そう、良かったね。おめでとうございます。」
「この一週間は仕事の合間に相手方と何回か面談をしたりしてバタバタだったよ。」
なるほど、連絡の無いわけだ。
もっともシュンタなら、ということではあるけれども。
「何だか、浮かない顔だけど、一緒に祝ってくれないの?」
「そんな事ないけど、急な話だったから。」
「この前、ゆっくり説明しようと思っていたのに帰っちゃったでしょ。 俺何かした?」
「うん、まぁちょっと気になることもあってね、このままでいいのかなって思ったの。」
「俺は仕事に夢中になると他は後回しにしてしまうってわかっているでしょ?」
「そうだね、昔からそうだよね。仕事一番、真千子は二番目って言っていたよね。」
それは構わない、良いとは思ってはいないが、仕事に打ち込むシュンタが好きだ。
私の気にかかっていることは、違う処にあると、シュンタは実はわかっているが敢
えてとぼけているのではないか。
プリフィクスで選んだ前菜やメインの料理が運ばれてくる。
シュンタは忙しくフォークを口に運んでいる。 ワインも数杯飲んでいた。
シュンタは自分の時計で生きているのだ。
ついてこれないなら、置いて行く。
「そうだ、そこに移ったら海外赴任になる可能性大なんだ。そうしたら真千子には
一緒に行ってもらわなきゃ。」
「え、どこに?」
「まだわからないけどね、香港、NY 、上海かな。移籍自体が来年、年明け過ぎ
てからだから。」
シュンタは決まったばかりの転職に興奮していたが、私が憂いていることに触れ
たくないことも手伝って、饒舌な割に目をあまり合わせようとしない。
「私、シュンタについて行けるかわからない。 無理の様な気がする。」
シュンタはドルチェのチョコレートの焼き菓子とフランヴォアーズを掬う手を止めて
、私の顔をやっと見る。
不本意だとその目は口に出す以上に物語っていた。