「それ、どうしたの?」
「え?何、これのこと?」
「そう、それ幸福のペンダントでしょ。」
「あぁ、そうなんだ。会社のアシスタントがくれたんだけど。今流行っているの?」
「流行っているのかな?デパートで見掛けたから。」
「よく知らないけど、取り敢えず暫く使わないと悪いかと思って。」
「そうね、せっかくプレゼントしてくれたのにね。」
「プレゼントじゃないよ。俺が辞めると彼女は派遣だから仕事がなくなるんだ。だから上司
に次の担当者を頼んだらお礼にって。」
「ふーん。お礼なんだ。」
前の私なら、もっと追求してシュンタの機嫌を損ねてしまっていたかもしれない。
しかし、今はここまでにしておこう。会っている時は楽しむべきなのだ。
「ね、お腹すいた。」
「うん、何食べようか?牡蛎は?、生牡蛎、オイスター食べよう。」
産地別に大皿に盛られた数種類の生牡蛎を食べながら、シュンタはシャブリを一本
あっさりと流し込んでいた。
「そうだ、クリスマスは何処に行くか決めた?」
「え、決めちゃっていいの?温泉旅行にするの?」
「そうだなぁ、のんびりできる所がいい。あまり人が多くないところで。」
「鄙びた土地の秘湯巡り?」
「混浴がいいな。」
「湯治のお婆さんの沢山いる所にしようっと。」
「ちょっと、勘弁してください。」
努めて和やかに過ごそうと私は芝居ががった会話を仕向けてシュンタを油断させていた。
それは、緻密な計算ではなく、脳が勝手にそうしろと命令しているようだった。シュンタは酔
いも手伝って上機嫌だ。
…そろそろ店を出るというので、シュンタがテーブルで会計をしている間に化粧室に向かった。
鏡の中の私は目尻の辺りがほんのりと赤く染まっていた。
少し化粧を直してから暗い店内を通りテーブルに戻る。
けれどそこには下げられていない食器や残骸は残っているが、シュンタの姿は無かった。
いつもなら、先に店の外に出てしまうことは、ない。シュンタも化粧室に行ったのだろうか。
しかし、シュンタの手提げ鞄ごと荷物も何もなかった。どうやら店の外にいるようだった。
私は店を出て直ぐの薄暗い植え込みの陰で携帯電話で話しているシュンタを見つけた。
後ろを向いているシュンタの側にそっと近付いた。
私は店を出て直ぐの薄暗い植え込みの陰で携帯電話で話しているシュンタを見つけた。
後ろを向いているシュンタの側にそっと近付いた。
「だから、後でまた電話するよ。うん…うん、そう。わかった。 じゃぁ。」
聞こえた会話、シュンタが何となく誰かをなだめているようだ。
親しさもある会話のように感じる。あのペンダントの送り主だろうか?
仕事の世話をして、お礼に3、4千円のアクセサリーを果たして渡すだろうか?
電話を終えてから黒のコートのポケットに携帯をしまってからシュンタは向きを変えた。
「お、ビックリした。今来たの?仕事の電話掛かってきて外に出ていたんだ。」
狼狽気味のシュンタに、嘘の匂いが立ち込めていた。
「もう、大丈夫なの? 急ぎの仕事とか?」
「うん、大丈夫。ちょっとした確認だったから、問題ないよ。」
「そう、良かった。」
「寒いなぁ、気温がグッと下がった。もう一軒行こうと思ったけど、真千子が風邪引いたらマズ
いな。タクシー捕まえるよ。」
シュンタはそう言ってから、素早く通りに出てタクシーを拾いに行った。
私を先に下ろしてシュンタを載せたタクシーが去って行った。
私は家に戻らず、そうしろと命令されて動く人形のように、迷いも無く別のタクシーを捕まえ
て乗り込んだ。
勿論、タクシーの行き先はシュンタのマンションである。
勿論、タクシーの行き先はシュンタのマンションである。
車は瞬く間もなく、山茶花の生垣を通り過ぎた。