映画「ふたりのマエストロ」 2023(令和5)年8月18日公開 ★★★☆☆

(フランス語:字幕翻訳  松岡葉子)

 

 

フランスのクラシック音楽大賞、ヴィクトワール賞。

今年の受賞者にドニ・デュマールが選ばれます。

 

「オザワがスカラ座でブーイングを受けたように

ボクも(褒められるのより)ヤジがうれしい」

 

そして、会場にいる母や元妻、息子を紹介した後

(会場に姿を見せない)ベテラン指揮者の父の名を出し

「フランソワ・デュマール、父なくしてボクはいない」

とスピーチします。

 

そのころ父フランソワは、息子の活躍を素直に喜べず

自宅でみていたテレビを消してしまいます。

 

授賞式を終えたドニはバイクの若い女性を見つけると

後ろに乗って彼女の家へ。

彼女はドニの今の恋人、ヴィルジニという名前のバイオリニストで

ふたりだけのプライベートなお祝い。

 

一方、父のフランソワは、どこへいっても

「息子さん、おめでとう」と言われるのが気に入りません。

ベートーヴェン第九の二楽章の練習中にスマホが鳴って激怒するも

鳴っていたのは自分のスマホでした。

 

電話は、世界最高峰のミラノスカラ座からで、

「次期音楽監督になってほしい」と。

長年の努力が報われたとフランソワは感激し

練習もそこそこに帰宅します。

 

 

その日は奇しくもフランソワの誕生日。

最高の誕生日プレゼントになりましたが、

翌日、ドニのところにも

スカラ座の総裁から電話がかかります。

 

父への電話は秘書のまちがいで、

ホントはドニへの依頼だったというのです。

「父はこの話を40年も待ち焦がれていました」

「父上からは何本も留守電がかかっている。君から説明して欲しい」

といわれ、ドニは困り果ててしまいます。 

               (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

あらすじはほぼ予告編のままで、なんの驚きもなし。

 

それより、ドニ役のイヴァン・アタルって、(顔はわからないけど)

なんか聞いたことあるぞ~!と思ったら

なんとシャルロット・ゲンズブールのパートナーでした。

家系図まで作ってました(笑)

 

そうかぁ、この人だったんだ!と、そればかり考えていたけど、

予告編通りに進むから特に支障なし。

 

それから、当然、クラシック音楽がたくさん流れるんですが、

それがまあ、おなじみの曲ばかり、

しかもなぜか声楽曲が多いんですね。

 

最初のほうで流れたドヴォルザークの「母が教え給いし歌」とか

すごく美しいソプラノで、私の大好きな歌だったので

心のなかでずっと歌ってました。

 

この時も、

ラフマニノフの「ヴォカリーズ」でしたよね。

 

このシーンではカッチーニの「アヴェ・マリア」

ここまで全部声楽曲です。

 

エンドロールにかかった曲はシューベルトの「セレナーデ」で

演奏だけだった気がしますが、これ、日本語歌詞もあるから、

もう終わってからもずっと頭のなかを曲が流れていて、

ほぼ映画のことは忘れてました(笑)

 

クラシックファンにしかわからないような

マイナーな曲ばかりでも困るけど

なんで指揮者の話なのに声楽曲ばかりなのかは疑問。

 

いやいや、それ以上につっこみどころばっかりで・・・・

あの「コーダあいのうた」のスタッフだと聞いて、ちょっと納得。

 

スカラ座が「うっかりミス」で違う人に連絡するとかありえないし、

そもそも本人に直接電話する?

常識的には

エージェント(元妻)を通すんじゃないの?

 

その後父が何度連絡しても、留守電にして逃げてて、

挙句の果てに息子から説得しろとかありえないし、

ここはまず「お詫び」だと思いますけど。

本物のミラノスカラ座からクレームがくればいいのに!

 

とりあえず、あらすじを最後まで。

ネタバレというより、ほぼ進展ありません。

 

 

父に何度も手紙を書きますが、渡すことができず。

高校生の息子、マチューはうすうす気づいている様子。

 

スカラ座にソリストとして招聘するといわれる

女性バイオリニスト、レベッカの演奏会にでかけ、挨拶をしていると、

父も母と来ており、上機嫌の父もレベッカに挨拶。

ドニはこっそり母に「間違いだった」ことを打ち明けると、

母の顔がひきつります。

 

この辺がドラマ的にはクライマックスと思われますが、

ここの「本編映像」も公開されています

 

ここまで公開したら、もはや観る意味ある?

とも思いますが、一応最後まで。

 

「私たちの生活はここよ。私はミラノには行かない」と母。

間違いを悟った父は母をタクシーに乗せ、歩いて帰ることに。

 

「一杯飲ませろ」

と、ドニの家へやってきます。

今まで口にもしなかったようなことを洗いざらいぶつけるふたり。

 

「父親を憐れむのか」

「息子の成功が悔しいのか」

といった口論から、

しまいに、多分墓場まで持って行こうとしていた事実、

ドニは実の息子ではない・・・

(留守がちで妻に淋しい思いをさせてしまったがために、授かった子ども)

ことまで告白します。

指揮者として聴衆に対峙するときの恐ろしさなどでは

お互い共感することも。

 

そして、月日が流れ、ミラノでの初めての演奏会。

案の定、父フランソワの席は空いています。

 

最初の曲はモーツァルトの「フィガロの結婚 序曲」

なんと舞台袖から指揮者の衣装をつけたフランソワも登場し

ふたりで並んで指揮棒を振ります。

観客は大喜び。

件の秘書も

「私が間違えたおかげね」と威張っています。

                  (あらすじ ここまで)

 

 

 

 

ポスターにも使われている、「ふたりの指揮者」の図は

イメージ画像ではなく、ほんとにこれで演奏した、というわけです。

 

観客は喜ぶかもしれないけれど、楽団員の人はやりにくそうですけどね。

どうなんだろう?

そんなことありえるのか、プロの人の意見が聞きたいです。

 

「ふたりで指揮する」というのはサプライズではなく、

多分事前の打ち合わせがあったと思うのですが、

父が登場した瞬間は、「TAR/ター」のあのシーン。

ケイト・ブランシェットがいきなり乱入して

警備に取り押さえられる、あのシーンが蘇りました。

 

ほかにも、

恋人のヴィルジニをコンサートマスター(第一バイオリン?)に

ごり押しするところとか、「TAR/ター」を意識しているようなシーン、

ほかにもいくつかありました。

ヴィルジニを「難聴のバイオリニスト」にしてるのは

きっと「コーダあいのうた」の製作陣だからでしょうね。

 

ところで、

親子で同じ職業、というのは珍しくないですが、

「指揮者」はどうなんでしょうか。

 

「小澤さんち」も、すごい人材がそろってますが、

指揮者はひとりだもんね。

 

ちなみに、息子のマチューは、音楽の道には進まず

「料理人になってパパを太らす」

と言ってました。

 

このマチューって、ものすごくいいキャラで、大好きです。

 

最初登場したときは、下向いてスマホばかりいじって

お顔もおブスで残念な感じだったんですが、

彼はけっこう複雑な境遇なんですよね。

 

両親が離婚して、(多分親権はドニのもとにあるようで)

おばあちゃんに育てられ、祖父母と父と、あと母の家をいったりきたり。

今は父には恋人のヴィルジニがいるけど、

誰との関係も悪くないのは、多分マチューが潤滑剤になってるんだろうな。

 

 

まんなかがマチュー(ニルス・オトナン=ジラール)です。

若いころのビージーズのロビン・ギブみたいで

かわいいったらないです。

セリフなくても、表情の変化だけで多くを語ります。

大きな作品には出演してないようですが、絶対ブレイクする予感!

 

右の女性は母ではなくて父の今の恋人だけど、

実母とも父の彼女とも、ふつうに自然体でつきあえないといけないのって

自分だったらけっこうキツイかも。

 

関係ないけど、イヴァン・アタルもシャルロット・ゲンズブールとは

正式に結婚していないしね。

実生活で経験できないことを、映画の世界では

なんとなくイメージ習得できるようにしておかないと。

・・・なんて思ってしまいました。

 

なんのひねりもない大衆的な作品でしたが

上映時間も短く、気軽に楽しめました。