映画「ふたつの部屋、ふたりの暮らし」 2022(令和4)年4月8日公開 ★★★★☆

(フランス語; 字幕翻訳 齋藤敦子)

 

 

南フランス モンペリエのアパルトマンの最上階の二つの部屋に住むふたりの70代女性。

フランス人のマドレーヌとドイツ人のニナは、「仲のいいお隣さん」を装っていますが

実は長いつきあいの同性カップルでした。

若いころ夫に虐待されていたマドレーヌは旅先のローマでニナと知り合い、

夫が亡くなり子どもたちが独立したあと、ニナのそばで幸せな老後をすごしていたのでした。

 

ふたりは自分たちのこれからについて

この部屋を売って出会ったローマでいっしょに暮らそうということを話していて

マドレーヌは不動産屋に部屋の査定までさせていました。

 

マドレーヌの誕生日に娘のアンヌと息子のフレッド、それに孫のテオが訪れ、

楽しい時間が流れます。

マドレーヌはこの時にローマに引っ越すことを話すつもりでいたのですが、

どうしても切り出せず・・・・

 

そもそもニナとの関係も娘たちには内緒でした。

せっかく25万ユーロで部屋に買い手がついたのに、不動産屋には

「迷っているからちょっと待って」というマドレーヌに、ニナはブチ切れます。

「また言えなかったの?」

「おじけづいたのね!」

 

 

マドレーヌの部屋の台所でかけっぱなしの鍋から煙が上がり、

今にも火事になりそうになっています。

ニナがかけつけ事なきを得ますが、マドレーヌは意識なく倒れており・・・・

 

救急車で搬送されるマドレーヌ。

自分の暴言が原因なのかと罪悪感で苦しむニナ。

ニナは心配でなりませんが、家族ではないので、医師とも話はできず、

娘のアンヌから脳卒中で倒れたことを聞かされます。

「ドルンさん、あなたのお陰で助かりました。疲れたでしょうからもうお帰り下さい」

 

数日後、退院したマドレーヌが戻ってきますが、口がきけず、車いす生活。

アンヌが雇った住み込みの介護士ミュリエルがそばにいて、ニナは近づくこともできませんが

合鍵をもっているので、ときどき忍び込んでは

こっそりマドレーヌの顔をみていました。

 

 

買い物のために外出するときだけでもマドレーヌを預かるから・・・

といっても、邪険に断られます。

腹が立ったニナは、ミュリエルが通院につかったマドレーヌの車に傷をつけ、

怒ったアンヌはミュリエルに修理代を請求します。

 

相変わらずマドレーヌは喋ることはできませんが、

ニナといる時の方が、あきらかに嬉しそうで、回復の兆しもみえ、

ついにはひとりで立てるようになります。

しかし、何度も合鍵で忍び込んでいるうちに、

ついにそれがミュリエルにバレてしまいます。

 

「これからは私が介護をする」

「彼女に必要なのは私の方よ」というニナでしたが

「せっかく得た仕事を奪うのか!」といわれ、

「車の修理代も、あなたの給料も、これからは私が払うから

あなたは何もしないで」

なにもしなくて金がもらえるという破格の条件をミュリエルは受け入れるのですが・・・・

                             (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

公開初日にシネスイッチ銀座で鑑賞。

「アカデミー賞・ゴールデングローブ賞ノミネート!」

という文字が踊ってる割に、地味な単館上映で

「そもそもノミネート作のリストにあったっけ?」と思ったので調べてみました。

 

アカデミー賞のほうはフランス代表で最終ノミネートではなく、

GG賞のほうは、「Two of Us」というタイトルで、去年の外国語映画賞にノミネートされていました。

作品情報では原題は「Deux」になっていたので気づかなかったようです。

 

 

ふたりのヒロインはレズビアンで、LGBT映画なんて、この時代あまりにフツーなんですが

70代同士というのは若干高齢かもしれません。

 

Netflixには、90代のレズビアンカップルの映画もありましたが↓

 

彼女たちは職業婦人として独身を貫いていたので、子どもはおらず、

ただ、世間の無理解からずっとカムアウトできずにいました。

 

 

ミナとマドレーヌもやはりカムアウトすることなくここまで来てしまったんですが

居合わせた不動産屋に自虐的にレズビアンだと言っても

「そんなこと全く問題ないです」とすぐに返されるシーンがありました。

 

今のフランス社会ではこういう関係はすでに許容されているんですが、

ただ、一番言えないのが家族に対してで、親へのカムアウト以上に

特に「親から子どもへのカムアウト」はハードルが高いものなんですよね。

 

マドレーヌは子どもたちに告白するまえに、病に倒れ、

残されたニナが孤軍奮闘するのですが、ついついやりすぎてしまいます。

 

 

同性愛のカップルのひとりが病院に運ばれたとき

家族扱いしてもらえないのは、この映画↓でもありました。

ここでは、その後死んでしまうのですが、葬儀の参列も許されず

マリーナは過激なふるまいをするのですが、

ニナも同じく、だんだん狂気に満ちた行動をとるようになります。

 

 

後半、ネタバレです。

 

ニナは報酬を払うつもりでお金を用意していたのですが、

ミュリエルが目を離したすきに、少し歩けるようになったマドレーヌが姿を消してしまいます。

アンヌにも連絡が行き、必死で探し回ると、マドレーヌは保護されていて無事でした。

 

アンヌはミュリエルを即クビにして、自分が母の部屋に住んで世話をはじめますが

アルバムのなかに(お向かいのドルンさんと思っていた)ニナとの親し気な写真を何枚も発見し

ふたりの関係は父が亡くなるまえから続いていたことを知ります。

そしてついに、

自分の目を盗んで合鍵でニナが部屋に入り

ベッドで母と抱き合っているのを目撃してしまいます。

 

「出て行って!」

アンヌはニナを追い出すと部屋のカギを付け替え、母を自宅につれかえります。

 

一方、クビになったミュリエルも

「(勝手に部屋を出たのは)あなたが興奮させたせいよ!」

とニナへの怒りをあらわにしていました。

何度も部屋のドアをたたいて悪態をついて、やっと帰ったと思ったら

いかにも柄の悪そうな息子を名乗る男がやってきて

「約束の金を払え!お前のせいでおふくろは仕事を失った」

「後悔することになるぞ!」と脅されます。

そして後日、ニナの留守中に部屋が荒らされ、

ローマ行きにためておいた金も盗まれていました。

 

母を自宅に連れ帰ったアンヌでしたが、

そこにもニナはあらわれ、拒否すると家の窓が割られます。

 

こわくなったアンヌは、ニナには内緒で老人介護施設へ母を移しますが

そこは薬を過剰投与し、病状は悪化していました。

それでもマドレーヌは不自由な足で電話機までたどりつき、ニナに電話をかけるのです。

 

ことばがなくてもニナにはそれがマドレーヌからの電話だとわかりました。

施設スタッフが電話をとりあげ、受話器を置く前に

ニナは施設の名前を聞き出すことができました。

 

即、車で向かい、愛するマドレーヌを拉致して施設の外へ。

施設をでるふたりを、院長室にいたアンヌが目撃します。

 

アパルトマンに戻り、大好きだった曲にあわせて踊るふたり。

呼び鈴を鳴らし、ドアをたたくアンヌ・・・・         (あらすじ ここまで)

 

 

 

邦題からは、老女ふたりの幸せそうな日常ががイメージされますが、

ほぼ全編、たいへんなサスペンス調で、心臓バクバクになりました。

人を殺すわけでも死ぬわけでもないんですけどね。

 

 

冒頭のシーンは、白服と黒服の少女がかくれんぼをしていて

樹のまわりを追いかけているうちに白服の少女が消えてしまいます。

黒服の少女は叫び声をあげるも、口から発せられるのはカラスの鳴き声・・・

たくさんのカラスの群れとその鳴き声からの不気味なオープニングです。

 

そして一転、なかよしのおばあさん2人の楽し気なシーンとなり

ほっとひと安心しました。

 

 

ふたりでメガネをかけてドイツの『 デア・シュピーゲル 』 ( Der Spiegel) とか読んでいたので

大学教授とかインテリなお仕事の人かと思ったら、普通の主婦でした。

ニナはドイツ人で身寄りのいない元ツアーコンダクターのようでしたが、

マドレーヌは子どもや孫もいる、ふつうのおばあちゃん(ほぼ私と同じ)で

この時点で(同性愛とかすっかり忘れて)共感度マックスになりました。

 

 

そして住んでるお部屋が素敵!

これはマドレーヌの部屋ですが、

ニナの部屋ももうすこし物が少ないシンプルな部屋でした。

 

 

マドレーヌと娘のアンヌとの関係も良好で

美容師の娘はいつも母の髪を整えてくれ

ひとり暮らしの母をなにかと思いやってくれています。

 

母が病に倒れたあとのアンヌは、自分の10年前を見ているようで

ついついアンヌの目線でもみてしまっていました。

 

お隣のドルンさんがいなかったら母は死んでいたかもしれないし

火事を起こしていたかもしれない。

だから感謝してもしきれないのだけれど、

家族の問題に口をはさんでくるのは、正直迷惑。

ふたりの関係が露呈して嫌悪感が走るも

ドルンさんといっしょの方が母の元気になるのも事実で

母の気持ちに寄り添ってあげたいのはやまやまだけど・・・・

というところでしょうか。

 

アンヌや、さらに客観的にみられるフレッドの目線でみたほうが

共感度高いし、事実が正確に伝わるような気もするのですが

それでは凡庸。 

終始ニナ目線で描かれ、気持ちはわからなくもないのですが

彼女の突発的な行動にはけっこうメンタルやられました。

 

また、サスペンス映画にでてくるような猟奇的な設定は皆無なのに

日常生活にひそむ薄気味悪さ、おぞましさ満開で、ずっとぞわぞわしていました。

カラスの声は不吉に聞こえますが

夜中にスプーンをガチャガチャする音や、家電の運転音や

呼び鈴の音や、ものが落ちる音や・・・・どれも不快極まりない生活音です。

 

 

とくに玄関のドアをガンガン叩くシーンはホントに多くて、

覗き穴から訪問者を確認したり、向かいの部屋を盗み見してるのも多かったです。

(私の家はマンションの角部屋で、覗き穴から廊下がみわたせるんですが

罪悪感かかえつつ時々私も覗いちゃうのですよ・・・)

 

 

ラストは結局、アンヌもふたりの関係を認めざるをえなくなるのか・・・?

 

ところでラストに二人が踊っていた時に流れる曲、聞いたことある曲だったので

家に帰るまでずっと脳内で歌い続け、なんとかタイトルがわかりました。

 

これでした↓(楽譜は冒頭だけですが・・)

 

もともとインストルメンタルだったのを、英語の歌詞をつけて

1963年にリトル・ペギー・マーチの歌で大ヒット。

ポール・モーリアのディスコバージョンとかカンツォーネ版もありましたが、

映画「天使にラブソング」では前半コーラス調、後半ノリノリで歌って踊ってましたね。

だから私も知っていたのでしょうが、その時はいい曲とも思わなかったのですが、

本作で使われていたフランス語(イタリア語?)版はもっとロマンティックでした。

 

イギリス人のペトラ・クラークが「愛のシャリオ」のタイトルで

フランス語でもイタリア語でも歌っています。

 

 

意識が白濁していたマドレーヌが、この曲を耳にしたとたん、

はっと我にかえるんですね。

ニナとの楽しい思い出がいっぱい詰まった曲なのでしょう。

音楽にこういう力があることは、私も母の介護をしていて実感したことなので、

私にとってのこういう曲のリストを作って、今のうちに娘たちに伝えよう!・・・

とか思っていたら

(金曜日に観たのに)ブログの更新がすっかり遅れてしまいました。