映画 「パリの調香師 しあわせの香りを探して 」 2021(令和3)年1月15日公開 ★★★★☆

(フランス語: 字幕翻訳 柏野文映)

 

 

調香師のアンヌ(エマニュエル・ドゥヴォス)は世界中のブランドと仕事をし、

クリスチャン・ディオールの香水「ジャドール」などをヒットさせてきた。

だが、4年前に多忙と仕事のプレッシャーから突然嗅覚障害を発症し、それまでの地位を失ってしまう。

今は嗅覚も戻り、地味な仕事だけをこなしながら静かに暮らす彼女は、

元妻と娘の親権でもめているギヨーム(グレゴリ・モンテル)を運転手として雇う。 (シネマ・トゥデイ)

 

自動販売機の前でお金を払わずに(娘の前で)ズルしようとするセコイ父親ギョーム。

彼は離婚した妻のもとにいる10歳の娘レアの共同親権をめぐって調停中ですが

正社員でないこと、住まいが24㎡の狭いアパートで娘の個室がないことを理由に難航しています。

 

彼は臨時雇いの運転手なんですが、スピード違反で点数がほとんどなくなったことを理由に

元締めのアルセーヌからクビをいいわたされますが、失業してはアパートも引っ越しできません。

くいさがるギョームにアルセーヌは

「じゃあヴァンベルクさんを任せる」とキーを渡します。

 

約束の時間に自宅を訪れ、依頼主の中年女性アンヌ・ヴァンベルクと会いますが

とにかくひとづかいが荒くて、当然のように重いスーツケースを何個も運ばされ、

(香りの仕事をしているから)車内は禁煙だと、タバコも外に捨てられてしまいます。

ホテルのシーツ類はすべて持参したものに交換。(だから荷物が多い?)

その作業までさせられます。

「メイドの香水の匂いが迷惑なのよ。いやならあなたが経費をごまかしてるのを報告するわよ」

 

 

この辺から早くも、予告編では描かれない「ネタバレ」になりますので

未見の方はご注意ください

 

 

 

翌日は仕事現場まで同行を指示され、ついていくと、

「私がいうことをここにメモして」とノートを渡されます。

壁画の残っているような古い洞窟に入っていき

「鉱物、土と樟脳、苔、オーク、アヤメの根・・・」といった単語をメモしていきます。

どうやら、自治体がこの洞窟の複製をつくって一般公開するらしく

より本物らしくするために、ここと同じ匂いを作って複製に撒く・・・・・

その「匂いづくり」がアンヌの仕事だったのです。

 

仕事がおわってようやく自宅に到着しますが、その瞬間

突然あらわれた暴漢に アンヌはバッグをひったくられてしまいます。

ギョームはとっさに暴漢にとびかかり、激しい応戦の末、なんとかバッグを取り戻します。

 

ところがアンヌはギョームのケガを案じるでもなく、お礼をいうでもなく

「飛び掛かるなんてどうかしてる、銃をもってたらどうするのよ!」

 

これにはさすがのギョームも腹をたて

「禁煙とかシーツとかあなたは命令ばかり。

『ありがとう』も『お願い』もいえないのか!」

 

ギョームはその場にアンヌと荷物を放置して去り

もうアンヌとはこれっきりと思っていたのですが

アルセーヌのところにいくと

「ヴァンベルクさんから仕事依頼が来ている。お前が指名だ」

 

共同親権のためには断るわけにもいかず、再びアンヌのもとへ。

今回は列車移動で、運転のしごとではなく、マネージャー役での同行。

今回のクライアントは高級バッグの会社で、新作のバッグの革のなめしに問題があり

異臭が気になるというのです。

この臭いを7日間で解決してくれないと販売に間に合わないと・・・・

 

「あなたが断れば困るのは彼らだから・・・・」とアンヌに小声でささやき

ギョームは相手の足元を見て、2倍の報酬を得ることに成功します。

 

「嫌な臭いを消すのではなく、別の匂いを組合わせて

安心感のある快い匂いにするのよ」

というこのアンヌの仕事にギョームは興味を持ち、いろんな香料を嗅いでまわったり

アンヌからも調香師の手ほどきを受けます。

「頭を空っぽにしてなんのイメージが浮かぶか」

「いろいろ嗅いだ後には必ず自分の匂いを嗅いでリセットしてね」

 

 

あるパーティに同行したギョームは、廊下に飾られていた

絶頂期のアンヌの美のカリスマみたいな写真をみせられて驚愕します。

当時アンヌはディオールと提携していて、

あの「ジャドール」の香りを作ったのもアンヌでした。

 

初めて連れていかれたパーティで誰とも臆することなく会話できるギョームに感心するアンヌ。

「あなたは5分で誰とも打ち解けるのね」

「私ががんばっておどけても、誰も笑わない」

 

そして自分の過去を少しずつギョームに告白します。

「4年前にディオールの広告塔になったものの、人前にでるストレスで嗅覚が鈍ってしまった」

「専門医に相談しようと思ったけど、診断がこわくて躊躇してしまった」

「経験と記憶で最初はなんとかなっていたが、結局クビ」

「3か月休んだら元に戻ったけれど、もう私は過去の人、誰も関わりたがらない」

「香水の仕事をしたいのに、こういう仕事しか来ない」

 

今の女性マネージャーが請け負ってくる仕事は

トイレとか車の内装とか洞窟とかバッグとかそんなのばかり。

新たに持ってきた工場の悪臭問題の仕事も全然やりたくはありません。

煙突からの臭いで立ち退きを迫られていて、工場にとっては死活問題なんですが・・・

 

「華やかさはないけどお金になることをしなければ」というマネージャーですが

報酬の1割の仲介料が目当てなのは見え見えです。

 

立ち寄ったドライブインのトイレの石鹸の匂いを懐かしがるアンヌ。

「コプラ油の匂い。子どもの頃のキャンプを思い出すわ」

ギョームは草刈りをみているとその刈り取られた匂いから父を思い出すといいます。

「あれは自分を襲う虫を殺してくれる虫を誘うために、草が発する酵素の匂いね」

「殺し合いの匂いよ」

 

カフェのウエイトレスと話しても、その安っぽい香水の匂いしか記憶しないアンヌ。

「彼女の髪の色を覚えてる? 他人を匂いだけで判断したらだめだ」

とギョーム。

次にウエイトレスがやってきたとき、アンヌはしっかり彼女の顔をみて

はじめて「ありがとう」といいます。

 

その夜、一人で夜でかけて バーで羽目をはずしたアンヌは翌朝寝過ごし

匂いがわからなくなってしまいました。

 

しからなく工場の仕事は、同行したギョームが匂いを嗅ぐことに

「腐った卵と下水の臭い」→「硫化水素ね」

「壁紙の接着剤の臭い」→「ベンズアルデヒドね」

というふうに書き留めます。

(硫化水素には青葉アルコール、トリプラールといった草っぽい匂いを調合して

自然な田舎を感じる匂いにするようです)

 

帰りの車のなかで睡眠薬を過剰摂取してしまったアンヌは意識を失います。

ギョームがあわてて病院に連絡すると

「急いで!」といわれたために高速を180㌔で飛ばして病院へ。

アンヌは助かりますが、速度違反のカメラに撮られたギョームは免停になってしまいます。

 

運転手の仕事ができずにクボタ(トラクター)で作業しているギョームのもとへ

退院したアンヌがやってきます。(ちゃんとタクシーの運転手にメルシーと言ってた!)

 

「専門医の診察を受けて、コプラ油の石鹸でリハビリしてる」

「香水をつくりたいから、あなたも手伝って。無免許でもやってほしいことが山ほどある」

「あなたは自分の才能に気づいてないだけ、さあ、私を手伝って!」

 

後日

ギョームは雇用契約書と引っ越した広いアパートの契約書を携えて、レアの共同親権を獲得します。

レアの学校の「親がやる職業講座」の時間に 「香りの授業」をするギョーム。

目を輝かせて聞き入る子どもたちと 

ちょっと誇らしげなレアの顔がありました。             (あらすじ  おしまい)

 

 

面白かったです!

 

予告編のなかでは、

ともに崖っぷち状態のアンヌとギョームの仲が最悪なことが強調されており、

ギョームにも調香師の才能があるということだから、

最後にはふたりが組んで、今度はギョームがメインで花形調香師に返り咲くのかな?とか①

ふたりの間に恋愛が芽生えるのかな?とか②

思っちゃうじゃないですか!

ディオールやエルメスが全面協力というから、絵面もゴージャスなんだろうな?とか・・・③

 

結論から言うと、①はそうなるかもしれないけど、ラストではそこまでいっておらず

②と③はハズレでした。

ふたりは最後までバディの関係で、(あらすじでは省略してしまいましたが)

嗅覚の専門医とかつて恋愛関係を匂わすシーンがあり、むしろロマンスがあるとすればこっちかも。

③は、ディオールのロゴは何度か登場しましたが、

本作のメインは香水づくりではなく、洞窟や工場の異臭やそんなのですから・・・・

 

「ジャドールといえば、シャーリーズ・セロンのセクシーでゴージャスなCMを思い出しますが

「ジャドールをホントにつくった調香師」が本作のモデルというわけではないそうです。

 

「香水業界の華やかながら厳しい世界」は

せりふの中にはでてくるけれど、メインではないので、絵面はけっこう地味目でした。

 

悪臭問題を解決するのって、別に元ディオールの調香師を手配しなくても

臭いを採集して白衣着た人が分析装置で解析してできるような気もするんですが、

「消臭」ではなく、「他の成分をプラスして安心感を与える匂いにする」

というのは驚きでした。

 

「臭い」「匂い」それに「香り」と日本語でも使い分けしてますけど

そもそも「良いにおい」「悪いにおい」というものがあるわけではなく、

その運用のしかたなんでしょうね。

 

「麝香」なんてもともとは動物の〇〇ですから、クサイなんてもんじゃない。

それをいい感じにうすめて調合して あの高貴な香りとなるわけです。

 

本作でも冒頭で、ギョームは、自動販売機をガンガンたたいて、やってきた係員に

「お金をいれたのにお菓子がでない」といって、まんまと商品をせしめていました。

ワンルームの部屋の広さや領収書の金額をごまかそうとしたり、

もうこういうのは、一般的には最悪の行動なんですが

見方を換えれば「交渉術」でもあり、

彼には代理人や交渉人の才能があるのかもしれません。

 

アンヌの人を寄せ付けない気難しい性格も

カリスマの位置にあるときは良くても、一旦転落するともう這い上がれません。

こんなポンコツなふたりが出会って、化学反応を起こしていく様は

みていて心が高揚しました。

 

きったないドライブインのトイレの石鹸の匂いを

夢中で嗅いでるアンヌの姿にはちょっとほっこりしましたが、

誰にも懐かしくなる匂いはあるもの。

「コプラ油の匂い」を調べたらココナッツみたいな匂いだそうです。

 

そういえば私も「コパトーン」の匂い、懐かしいです。

長い人生のなかで、日焼け止めをつけることは多くても

コパトーンのようなサンオイルをつけたのはほんの2,3年。

あのココナッツの匂いを嗅ぐと、年も場所も限定されて

いろんな状況がわぁ~!っと頭に浮かびます。

(ぜんぜん好きじゃないんですが)矢沢永吉の「時間よ止まれ」が流れてたなぁ、とか…(笑)

 

本作はジャンルとしてはコメディになるのかな?

こういう映画は 最近だと「天空の結婚式」のように

予告編ですべての見どころが言い尽くされてるケースが多くて

あんまり期待しないで見たんですが、本作はそれに該当しません。

ドタバタ感も少なく、センスの良さを感じたし

4DXでなくても、ちゃんと嗅覚が覚醒しました。

 

ここまで読んでしまった方にいうのもなんですが

予告編をみての予想以上の展開なので、おススメです!

 

邦題は、あいかわらずダサい副題が余計ですが

パフューマーとかフレーバリストとかではなく「調香師」と

ちゃんと職業とわかるような日本語タイトルにしてくれたのは良かったかも。