映画『フォードvsフェラーリ」 令和2年1月10日公開 ★★★★☆

(英語、字幕翻訳 林完治 /  字幕監修 堀江史朗 )

 

 

カーレース界でフェラーリが圧倒的な力を持っていた1966年、

エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)はフォード・モーター社からル・マンでの勝利を命じられる。

敵を圧倒する新車開発に励む彼は、

型破りなイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に目をつける。

時間も資金も限られた中、二人はフェラーリに勝利するため力を合わせて試練を乗り越えていく。

                                                       (シネマ・トゥデイ)

 

1959年のルマン24時間耐久レース。

キャロル・シェルビーは、スーツに火が燃え移りながらもレースを続け

米国人として初めて、ルマンを制します。

ただ彼の心臓はすでにボロボロでドクターストップ、

引退して「シェルビーアメリカ」を立ち上げます。

 

一方、小さな車の整備工場を経営するケン・マイルズは、

草レースでとてつもない走りをみせる凄腕ドライバー。

メカニックも腕は最高ですが、顧客とはいつも揉めて経営は上手くいきません。

「スポーツカーはもっときびきび走らないと」

「そんな運転では車が窒息してしまう」とか、ついつい口にしてしまって・・・・

ついには整備工場は国税庁に差し押さえを食らってしまいます。

 

そのころ米フォード社では、社長のフォード二世が

会社の立て直しのアイディアを募っていました。

リー・アイアコッカは、ベビーブームの若者たちにアピールするような

もっと速くてセクシーな車を作るべきと進言し、

ルマンで連勝しているフェラーリを買収しようということになります。

ただ、交渉の場面で、創業者のエンツォ・フェラーリはだんだん感情的になり

「フォードの役員は傲慢で無能」

「社長もしょせん二世で、初代には勝てない」

「ミシガンに戻って醜い車を作ってろ」

と暴言を吐いた上に、直後にフィアットとの合併が報じられます。

つまり、フォードとの交渉のテーブルについたのは、

フィアットに高く買わせるための策略だったのです。

 

リーがこれをそのまま社長に伝えると、頭にきたフォード二世は

「金に糸目はつけないから、最高のエンジニアとドライバーを集めろ!」

と、ルマンに参戦することを宣言し、

ここで白羽の矢がたったのが、キャロル・シェルビー。

「どうすればルマンに勝てるか」というリーに

「優秀なドライバーはお金では買えない」と答えながらも

彼の胸のなかには、メカニックとしてもドライバーとしてもとびきり優秀で

(ただ、非常に扱いづらい)ケン・マイルズの一択しかありませんでした。

 

ルマンまで90日。

そんな短期間でイチから作り上げることなど無理を承知で、マイルズを説得。

マスタングの新車発表会に息子のピーターも連れて参加するのですが、

スーツ組トップのレオ・ビーブはこの親子が新車に触れるのをあからさまに嫌悪し

一方で、自慢の新車を酷評するマイルズに、リーもシェルビーもひやひやします。

 

マイルズはGT40の改良に加わり、エンジンの軽量化にまで取り組んでいきます。

テストドライブをしていくうちに、ラップタイムはどんどん良くなって、スタッフの信頼も得ていきますが、

レオはそんなマイルズを疎み、

「彼はビートニク。うちのイメージには合わない」と切り捨てます。

「テレビの取材に不満をこと細かくしゃべるかも。宣伝を考えたら、彼は使えない」

そして、ルマンのドライバーから彼を外し、結果、フォードはフェラーリに惨敗します。

 

「フォード巨額の損失」の見出しが新聞に載り、

惨敗したことに立腹のフォード社長の前でシェルビーは

「あの赤いファイルがあなたのところにいくまでの間に、重役たちの余計な忖度が加わる」

「贅肉だらけの組織が問題だ」

「ただ、ルマンでは、直線ではGT40の方がフェラーリより明らかに速かった。」

「我々は明らかに精神的にフェラーリを追い詰めた」

すると社長は

「フェラーリを叩き潰せ」と、シェルビーを激励します。

 

マイルズたちはさらに改良をつづけて性能アップに励みますが、

シェルビーのところにリーから電話がかかってきます。

「レオ・ビーブがレーシング部門のトップになった。彼はマイルズをクビにするつもりだ」

シェルビーはマイルズを守るために大きな賭けをします。

 

翌日フォード社長がスーツ組を引き連れてシェルビーのチームを訪問した際、

邪魔するに決まってるレオをオフィスに閉じ込め、

フォード社長に

「900万ドルの走りを体験してみませんか?」と

社長を助手席に乗せて、高速走行を体験させます。

あまりの恐ろしさに社長は号泣。

「知らなかった、父さんに見せてやりたかった、乗せてやりたかった」

そこでシェルビーは、社長に直談判します。

「この車を作ったのはマイルズ。彼をディトナのレースのドライバーに加えたい」

「そこで優勝したらルマンを走らせ、負けたらシェルビーアメリカを譲ります」

さて、シェルビーとマイルズはレオやフォード社長をぎゃふんといわせられるのか???

                                             (あらすじ とりあえずここまで)

 

車を運転するのが絶望的に下手な私にとって、

まるごとカーレース、みたいな映画はスルーしたいところですが、

6年前に見た「ラッシュ プライドと友情」は★5つでした。

マット・デイモンとクリスチャン・ベイルのW主演に惹かれてすごく期待していたのですが、

それぞれのかかえる問題や致命的な怪我とかドラマ部分の多かった「ラッシュ」に比べたら

本作はひたすら走ってばかりなので、走りの好きな人、メカに強い人向きだったかも。

 

いや、それ以前に、F1とルマンを同じように思っていた自分が情けないです。

自動車レースといっても、これらは、ほぼ別物。

私みたいな人のために簡単に説明すると(間違ってるかもしれませんが・・・)

F1はフォーミュラーカーの一番グレードの高いレースのシリーズで、

フォーミュラーカーというのは、車輪が横に突き出て運転席もめちゃ狭くて、

絶対に路上では走れないようないわゆるレーシングカーのこと。

 

これに対して、ルマンで使う車は、一応レーシングカーではあるけれど、

かっこいいスポーツカーのプロトタイプみたいな感じです。

 

F1のレースは1時間とか2時間とかですが、

ルマンはまるまる24時間を複数のドライバーが交代して走って車の耐久性を競い、

先にゴールした人の勝ち、ではなくて、24時間に13キロくらいのコースを何周するかで競われるのです。

(すいません、こんなことも知らないで観ていました。)

 

それから、観た人のほとんどが感じたと思うんですが、

この話は、全然「フォードvsフェラーリ」じゃないんですよね。

たしかにフェラーリはイタリア車で、ほんの20年くらいまえは戦争の敵国でしたし

フォードは爆撃機とかも作っていたから、

フェラーリに負けてたまるか!という気もちは強かったでしょう。

むこうのエースドライバーのバンティーニというのが、

なんか女性に持てそうな色気むんむんのいい男、というのもねぇ・・・・

レース場でのイタリア語は全く字幕がつかないので

何言ってるかわからないのですが、それにしてもイタリア語って喜怒哀楽の激しい言葉ですね。

なに言ってるかわからないけど、何思ってるかは伝わります。

 

でも、マイルズとシェルビーの一番の敵は、イタリアという国でもライバル会社でもなくて、

フォードの中の「抵抗勢力」なんですよね。

フォード二世は気まぐれだから、うまくあしらえばこっちの有利に引きずり込むことは可能ですが

どこまでもマイルズを嫌うレオ・ビーブみたいな権力者はどうしたらいいんだろ?

実際の彼はけっこう人格者だったといわれてますけど、

本作のなかでは、徹底的にクズに描かれています。

 

(あらすじの続き)

実際のレースを知っている人にはネタバレでもなんでもないですが、

知らない人は知らずに見た方がいいと思うので、この先はご遠慮ください。

 

ディトナ耐久レースの当日。

レオは記者たちに、「レース中のエンジンの回転数に至るまで全部自分が決める」

とか、ドライバーへの指示は全部自分がしている風なことを偉そうに言っています。

彼は当然ながら、明らかにフォードの別チームに肩入れしていたのですが、

マイルズが驚異的な出力を保って、見事優勝。

ルマンへの切符を得ます。

 

ルマン当日。

スタート直後に事故った車に当てられて、マイルズの車のドアが閉まらなくなるアクシデント発生。

修理のために時間をロスしますが、どんどんラップタイムを更新し、マイルズがトップに躍り出ます。

ライバルのフェラーリはすべて走行不可となり、なんとフォードが1~3位を独占することに。

 

ところが、ここでフォードの上層部から、おかしな指令が出ます。

フォードの3台が同時に並んでフィニッシュラインを超えたら絵的に映えるから

マイルズに「減速するように」というのです。

シェルビーは納得いかないものの、その指示をマイルズに伝え、

「自分の意思で走れ」というのですが、その後もマイルズが速度を落とすことはなく・・・・・

 

ところが、時間ギリギリになって、マイルズの気持ちが変化します。

後ろから並んで走っている2台のフォード車を待って、同時にゴールしたのです。

会場は大盛り上がり。

マイルズも、たぶん人生のなかではじめての「チームプレイ」の心地よさに浸っていると、

ここで驚くべき宣告が・・・・・

 

2位で走ってきたマクラーレン・エイモン組のほうがスタート位置が後ろだったということで

彼らが優勝、マイルズ・ハルム組は2位となってしまったのです。

 

怒りに震え、マイルズには申し訳なさでいっぱいになるシェルビー。

ただ、ライバル社の社長エンツォ・フェラーリがマイルズを称える姿が見え、

またマイルズ自身も、優勝をのがしたことよりも、GTの改良点のほうが気になるらしく、

さらなる努力を重ねるのですが、その新車のテストドライブ中にブレーキが利かなくなり

息子のピーターの見ている前で亡くなってしまいます。

 

半年後、ピーターを訪ねるシェルビー。

「父さんはおじさんの友だちだったね」

「君は自慢の息子だった」

そしてシェルビーは最初にマイルズから投げつけられたスパナを額にいれて飾っていたのですが

それをピーターに渡します。

「言葉はときに役に立たないが、道具は役に立つ」

「これは機械を組み立てたり直したりできる、君にやるよ」

 

エンドロールでは、

フォードはルマンを制した唯一のアメリカのメーカーで、翌年から69年まで連勝したこと

ケン・マイルズは、2001年にモータースポーツの殿堂入りをしたことが伝えられます。

                                           (以上 あらすじ おしまい)

 

いやぁ、3台並んでのゴールとか、漫画の中の世界みたいなことが現実にあったんですね。

きっと有名な話なんでしょうけど、ウソだろとおもって、帰ってwikiをチェックしてしまいました。

事実でした!

思わず引いてしまうようなダサいアイディアだと思うんですけど、

当時の反応はどうだったんでしょうね?

 

自動車レースに参加するのは、とてつもない経費がかかるから、

大衆車を作っているようなメーカーが参戦するのは賛否あると思うんですけど・・・・

歴代優勝チームの一覧を見ていたら、今はトヨタが2連勝してるんですね!(そんなことも知らなかった)

今のトヨタの社長の章男氏は、豊田家の直系でありながら、

テストドライブとかもやっちゃう凄腕ドライバーでもあります(これはCMでやってた!)

シェルビーの高速運転につきあって、怖くて号泣したフォード二世とは大違いですね。

 

wikiをあちこち見ていたら、「フェラーリ」の項にこんなことが書いてありました。

フォードが金に糸目をつけずにルマンに参戦するといったのは、

愛人にいいとこを見せたかったからなんだって!

こんな理由では、レースに命をかけるドライバーたちが気の毒です。

 

ここまでヘンリー・フォード2世がル・マンでフェラーリを破ることにこだわったのは、エンツォに買収交渉を袖にされたことだけではなく、1960年代前半当時不倫をしていた(その後1965年に結婚。1980年に離婚)イタリア人の上流階級の愛人、マリア・クリスティナ・ベットーレ・オースティン が、フォードではなく、フェラーリの大ファンであったことが影響していると言われている(実際にその姿が徳大寺有恒によってル・マンで目撃されており、イタリア人らしくフェラーリを応援するマリア・クリスティナに対し、ヘンリー・フォード2世が嫌な顔をするシーンが目撃されている)。また、フェラーリ売収にも、イタリア人のマリア・クリスティナと付き合い始めたことが影響したという話もある。

また、このように「愛人にいいところを見せよう」と、莫大な資金にものを言わせ勝利をもぎ取った話は、「金がすべて」のアメリカでは「美談」として通るが、ヨーロッパをはじめとする各国では「恥ずべきこと」と受け取られ、現在でもヨーロッパではフォードとアメリカの評価は決して高くない。実際に、2019年にこの騒動がアメリカで『フォードvsフェラーリ』として映画化されたが、ヨーロッパではその題名では受け入れられず、イタリアやイギリス、フランスなど主要なヨーロッパ諸国では『ル・マン66』と作品名が変わっている。

 

ヨーロッパでフォードが嫌われているのはわかりましたが、

本作自体はフォードを称えフェラーリをヒール役にする映画ではけっしてないので、

安心してヨーロッパの人にも見て欲しいです。

 

レースドライバーは、普段の生活では安全運転をするイメージをもっていたのですが、

シェルビーはけっこう一般道でも無謀な運転をしていたし、

(レーサーではないですが)マイルズの妻のモリーまでが、自分の意見を通すために

かなりの危険運転してたシーンがどうしても受け入れられず、

個人的には「大好きな映画」とはいえないんですが、

車好きの人にはぜひ音のいい映画館で観て欲しい作品だと思いました。