映画 「パラサイト 半地下の家族」 令和2年1月10日公開 ★★★★★

(韓国語、 字幕翻訳 根本理恵)

 

 

半地下住宅に住むキム一家は全員失業中で、日々の暮らしに困窮していた。

ある日、たまたま長男のギウ(チェ・ウシク)が家庭教師の面接のため、

IT企業のCEOを務めるパク氏の豪邸を訪ね、

兄に続いて妹のギジョン(パク・ソダム)もその家に足を踏み入れる。         (シネマ・トゥデイ)

 

下町の半地下住宅に住むキムファミリー。

上の階の家のWi-Fiを勝手に使っていたのに、パスワードを変えられて

ネットに繋がらず、大騒ぎ。

トイレの便座の上にたったら、どこかのお店のフリーWi-Fiに繋がってめでたしめでたし・・・

(水圧が低いのでトイレが一番高いところにあるみたいです)

 

 

この家族

父 ギテク(ソン・ガンホ)も母チュンヌクも失業中、

息子のギウも娘のギジョンも、学力はあるようですが、大学に落ちてニート暮らし。

ビザの箱を折る内職を家族でするくらいが収入源なんですが、

それも「折り方が雑!」とクレームをいれられてしまいます。

 

 

こんな半地下の家なので、道を歩く人の足や車のタイヤが目の高さに見え、

酔っぱらいにおしっこされたりもします。 虫も多くて湿気もひどい!

 

そんなある日、ギウの友人の大学生が、

自分の留学中に金持ちの娘の家庭教師をやってほしいと言ってきます。

ダヘというその高校生の女の子が可愛くて、他の学生には任せられない、

ギウが浪人生ということは承知の上ですが、

ギウなら(充分教えられるし、教え子と間違いもおかさないだろうから)大丈夫だろう、と。

妹のギジョンに作ってもらった完璧な偽造証明書を携えて、丘の上のお屋敷に。

 

そこは前に住んでいた建築家ナムグンの設計したこだわりハウスで、

今はIT長者のパク氏一家が住んでいます。

 

父  ドンイク      IT長者 (パク氏)

母  ヨンギョ      ちょっと天然で若く美しいパク夫人

娘  ダヘ        かわいい女子高生

息子 ダソン      アート気質な小学生 カブスカウトでインディアンオタク

家政婦 ムングァン  建築家が住んでいた時からのベテラン家政婦 

 

授業は全く問題なくスタートし、パク夫人から、多動っぽいダソンのことで相談を受けます。

そこでギウは、児童心理学に精通した美術の講師を知っている、と、もったいぶった説明をしますが、

翌日一緒にやってきたのは妹のギジョン(イリノイ大学卒のジェシカという偽名を使って・・)。

ギジョンも「スキゾフレニアゾーン」とか「心のブラックボックス」とか、ネット情報だけなのに、

それらしいことをいって、週に4回の授業をゲットします。ダソンの扱いも上手。

帰り、パク氏の運転手に駅まで送ってもらうときに、下着を脱いで座席の下に押し込むギジョン。

「ベンツに罠をしかけといた」

 

翌日、それを見つけたパク氏は妻と大騒ぎになり、当然疑われるのは無実の運転手。

「髪の毛やイヤリングみたいなうっかりはあり得るけど、下着なんて、女性は気づかないわけがないし

これは私たちを嵌めようとしてる」

「白い粉とか出てきたら大変!すぐ、無難な理由でクビにして!」

 

「運転手は年配のほうが安心」というパク夫人に、ジェシカ(ギジョン)は

伯父の運転手だった温和なキムさん(もちろん父親)を紹介し、即採用!

 

「私は桃が好きなのに家政婦が桃アレルギーで家では食べられないの」

ダヘの言葉をヒントに、家政婦に桃の粉末をふりかけてアレルギー症状を起こさせ

それを「活動性結核で子どもたちにもうつるかも」と吹き込んで、家政婦を追い出すことにも成功!

そして新しい家政婦は・・・・もちろん母のチュンスクです。

 

パク一家がキャンプにでかけた夜、留守番の家政婦の母、運転手の父、

家庭教師のギウとギジョンと、キム家族が4人集まって、豪邸のリビングで

広い庭を眺めながら楽しく酒を飲んでいます。

 

「警備員に大卒500人が殺到する時代に、うちは全員、いい条件で就職できてめでたい!」

「ダヘに好きといわれた。僕はホントに大学生になって結婚するんだ」

「じゃあ、ここは嫁さんの実家ね」

「それにしてもここの家族はよく騙されるねぇ」

「金持ちは純粋でやさしいんだ」

 

そのうち、雨がひどくなり、玄関のチャイムが何度も何度も鳴り響きます。

「キャンプが中止になって帰って来たか?!」

とあわてる4人でしたが、訪れたのは元家政婦のムングァンでした。 (以上 とりあえず あらすじここまで)

 

家族4人がIT長者の豪邸に、うまいこといって「就職」してしまうまでのいきさつがわかったら

ほぼネタバレじゃん!

と思われるかもしれませんが、実はここからが本番なのです!

この先は、さすがに私でも書いたらアウトです。

(自分のためにWordにメモしておきますが、公開するのは1年後くらいかな?)

 

このあとの展開を書かないと、実は感想もかけないんですけど、

とにかく、ポンジュノ監督の過去作のなかでも面白さはダントツ。

8割がたコメディなんですが、ときおり起きる静寂のなかに、恐ろしさを感じ、

韓国映画ですから、リアルな流血シーンもそこそこあります。

 

ひとことでいうと、

高台の豪邸と、半地下住宅の家族を通して「格差社会」を描いた作品ですが、

搾取されている貧乏人が傲慢な金持ちに一撃をくらわせる・・・

というようなステレオタイプの話ではありません。

 

 

チラシのイメージだと、金持ちの弱みを握って近づき、じわじわ追い詰めていくような話を予想していて

ちょっと憂鬱だったんですが、そういう話でもありません。

また、キム一家が貧しいのは、アルコールやギャンブル依存だったり、怠け者なわけでもなく、

子どもたちは学業優秀だし、父は職歴豊富で何でもできるし、母も家事は完璧、

頭もいいし、何より、仲のいい家族なんですよね。(ちょっと「万引き家族」っぽいかも)

 

パク家で職を得てからも、安い大衆食堂で、家族4人でお腹いっぱい食事をするときの

この幸福そうな顔!

 

「金持ちは純粋でやさしい」

「金はひねくれた心のしわを伸ばすアイロンなんだ」

と、父ギテクがいうように

金持ちのパク一家も、品のいいエレガントな家族で、

キム家族は全然妬んでいるわけでもありません。

 

ただ、後半のある場面で、パク氏が妻に

「キム運転手のスメルは、何の臭いなんだろう?

切り干し大根の臭いというか、煮洗いしたフキンの臭いというか・・・・」

といってるのを聞いてしまって、

父はこの悪気のない言葉にひどくショックを受けてしまうのでした。

映画では伝わらない「臭い」が、格差を絶対的にしてしまうんですね。

 

パク夫婦は差別主義者でもないし、貧乏人を下にみるような発言はないんだけど、

多分「関心がない」ということなんでしょう。

大雨のあとに下町のほうは浸水して避難所で寝起きしているのに

高台に住む彼らは優雅にガーデンパーティなんてしていて、

どこまでも美しく優雅です。

雨水と汚水にまみれてる人たちのことなんて、全然気づかないんですね。

 

「財運合格運の石」「半地下の臭い」「便所こおろぎ」「雨水」・・・・

せりふ以外でも、いろんなメタファーが雄弁に語りかけてきます。

 

「北の核攻撃」とか「北の放送局のアナウンサーのしゃべり」とか「ミサイルの発射ボタン」とか

北朝鮮ネタが笑わせるためのギャクに終わらず、

ちゃんと話の展開に組み込まれてるのも良かったです。

 

後半は(書けないけど)急転直下の展開が何度かあり、

これで終わりかと思わせて、さらに話はつづいていき・・・・

そして、最後のちょっとファンタジックなオチも好きだなあ・・・書けないけど(笑)

 

こんな駄文を読むひまがあったら、ぜひ、映画館に行ってください。

アカデミー賞ノミネートされた部門は全部受賞してほしいくらい。

(美術賞にノミネートされたのも、観たら納得でした)