映画「ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち」 令和元年9月27日公開 ★★★☆☆

原作本 「フラッシュボーイズ 10億分の1秒の男たち」 マイケル・ルイス 文芸春秋社

 

(英語 字幕翻訳 松浦美奈 / 字幕監修 松浦基晴/金融監修 阿部重夫 )

 

 

ヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)と

従兄弟のプログラマー、アントン(アレキサンダー・スカルスガルド)は、

高速で株の売買をする高頻度取引で年間500億円以上の利益を得るため、

カンザス州のデータセンターからニューヨーク証券取引所まで約1,600キロを

直線の光回線でつなぐことを思いつく。

0.001 秒の時間短縮を目指して奮闘する彼らの前に、

1万件の地主との買収交渉など次々と苦難が立ちはだかる。              (シネマ・トゥデイ)

 

「ニューヨーク・カンザス間、車で2日かかる距離を 光ファイバーケーブルで16ミリ秒でつなぎます」

「これはタイムマシンで当選番号を先に知ってから宝くじを買うようなもので、リスクはゼロです」

出資者に自分のプランをすごい勢いで説明をするヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)。

「君はイカレてるけど、面白い」

と、出資者も興味津々です。

 

ニューヨーク証券取引所と、1,600㎞離れたカンザス州のデータセンターを、全く迂回することなく

一直線で専用回線を敷けば、ハチドリの羽ばたきに近いミリ秒時間にまで短縮できて、

他の投資家の先を越して大儲けができる・・・・というのが「ハミングバードプロジェクト」

 

2011年10月、トレス&サッチャー社。

社長のエヴァ・トレスは、最近有能なプログラマーのアントン(アレキサンダー・スカルスガルド)の様子が

おかしいことが気になっていました。

実はアントンはヴィンセントの従兄で、会社を辞めて彼のプロジェクトに協力しようとしており、

こそっと辞表を書いて会社をあとにしようとしたのですが・・・・

 

 当然、追いかけてきたエヴァとこんなかんじで大喧嘩。

「会社のコードを持ち出すのは違法だ」とか

「アントンの頭脳は会社の持ち物だ」とか言い張るエヴァを押し切って

ふたりはプロジェクトに取り掛かります。

 

1600キロの穴を掘るのですから、

1万件もある土地の地権者との契約をはじめ、

アパラチア山脈とか、国立公園とか、何本もの川とか、固い花崗岩の岩盤とか

彼らの前に立ちはだかる壁はたくさんあります。

 

出資者との交渉や地上げ交渉はヴィンセントの仕事、

アントンは少しでも早いスピードを確保するためにコードを書き続け、

掘削作業の責任者としてマークが仲間に加わります。

 

実際に仕事をするのは、大勢の土木作業員たち。

彼らは秘密保持の契約書にサインして、工事の目的については何も知らさせないまま

ひたすら掘り続け、道路のない山中ではヘリで空から機器を搬入したり、危険な作業も数知れず・・・・

この辺、まるで「プロジェクトX」そのもの!

脳内をあのテーマ曲と田口トモロヲのナレーションが駆け巡りました。

 

エヴァの妨害行為も悩みの種で、常にスパイに彼らの行動を見張らせています。

エヴァ本人も、家族思いでメンタル弱めのアントンの前に現れ、

「会社の汎用コードを持ち出しただけでも国家安全を脅かしたと8年の懲役になった技術者がいる」とか

「辛い方法であなたには償ってもらう」

「8年たったらあなたの娘たちは何歳になるんでしょうね」

とかいって、アントンを追い詰めます。

 

ヴィンセントは独身で失うものはないのですが、体調を崩して医者に行くと

検査の結果、かなり深刻な胃がんで、すぐに治療が必要といわれます。

それでも病気を隠し、プロジェクトを敢行するヴィンセントでしたが、

また新たな問題が。

 

それは、文明を否定するアーミッシュの住民たちが、ケーブル敷設に頑なに反対していること。

「主から与えられた土地に手を加えてはならない。金も速さも我々の考える豊かさではない」

と、23万ドルの契約金にも全く興味を示さない男たち。

そこで、彼らの所有権の及ばない30メートル以上地下を掘ることで、強引に工事をやってしまいます。

 

一方、アントンは光再生機のカバー能力いっぱいに設置距離を広げることで、

16ミリ秒を達成できて喜んでいるところへ、

突然FBIに踏み込まれ、証券取引法違反で逮捕されてしまいます。

 

さらに悪いことに、エヴァのチームがパルスタワーで16ミリ秒を上回る通信に成功し、万事休す。

アントンは刑務所の電話から会社のコンピューターを乗っ取り、回線スピードを落とすことに成功、

「自分を刑務所から出さないと、さらにスピードを落とす」と脅して、自由の身となります。

 

とはいえ、ハミングバードプロジェクトはこの時点で過去のものとなってしまい、

すっかり体の衰えたヴィンセントはアントンとアーミッシュの村を訪れ、

「地下のケーブルをすべて回収した」ことを伝えにいきます。

急な大雨に穀物の袋を倉庫に運ぶのを一緒に手伝うふたり。

アーミッシュの男はヴィンセントに

「雨が止むまでそこで休んでいろ」と、毛布を掛けてくれました。              (以上 あらすじ)

 

 

 

私はこの映画、とても楽しみにしていました。

今までも「しあわせの隠れ場所」「マネーボール」「マネーショート(世紀の空売り)」と

マイケル・ルイスの原作ものにはハズレがなかったし、

主役のふたりも大好き!

 

原作は夏休み中に読んだものの、私には難しくて理解しきれなかったのですが、

「株取引は公平で安全なものであるべき」という立場から書かれていて、

あきらかに映画の主人公の立場とは真逆なんですね。

予告編では

「1600キロを最短で結ぶという、単純だけど誰もやろうとしないことに目をつけた天才!」

みたいな印象だったので、こっちが成功してほしいと思う一方、

おそらくは、裁判になって、何もわからない素人の陪審員でも理解できるように

双方が説明して、上手に説得できたほうが勝つ!みたいな・・・(原作の中にもそんな箇所がありました)

と思っていました。

 

ところが実際の映画では、大金を簡単に手にするための「泥臭いアナログな作業」をひたすら描くのみ。

重い病気をおしてまで没頭するヴィンセントや、家族を犠牲にして集中して仕事を続けるアントンや

彼らや作業員の間に入って苦労してるマークを見ていると、どうしたって応援したくなりますけど、

結局は 速さでも負けて、保険金も手に入らず、

投資家にも作業員たちにも多大な迷惑をかけて終わりというのは切ないです。

最後、アーミッシュの人たちと和解できたのは良かったけれど、代償はあまりに大きい・・・・

 

最後、アントンがニュートリノを使った9ミリ秒でつなげる通信技術を思いついた!

と言っていたのですが、これが成功したのかはちょっとわかりませんでした。

成功したとしたらハッピーエンドなんでしょうけど、

本を読み返しても、モデルとなった「スプレッドネットワーク社」にそんな記述はなかったし・・・

 

アーミッシュのエピソード以外にも、(あらすじでは省略しましたが)

「ジンバブエのレモン農家」のエピソードが心に残りました。

 

アントンがホテルのカフェでロシア人のウエイトレスに「何をやっているの?」としつこく聞かれ、

「秘密保持」の念書をとった上で、レモンの取引をたとえにつかって超高頻度取引の説明をします。

(普通だと彼女はスパイだったりするんですが、そうではなくて)

「じゃあレモン農家の人たちはこれでどう儲かるの?」とウエイトレスは聞いてきます。

「農家のことは考えに入れてない。全然関係ないから」と答えながらも

アントンは複雑な気持ちになってしまうのです。

 

そもそもマネーゲームのためのプロジェクトなんだから、農家とか消費者とか関係ない話なのに

部外者に指摘されると、ハッとしちゃうのかなぁ・・・

 

「ニューヨークの取引所が火事になったら、レモン農家の連中とマシュマロを焼こう!」

なんて、最後にヴィンセントとアントンが言ってましたが、

それに気づいただけで終わりでいいのかな?

アントンの「丘の上に家族のために家を建てる」というささやかな夢も果たせず

ヴィンセントもこのまま死んでしまうとしたら、あまりに残念です。

 

ストーリーはかなり後味悪いですが、

主役の二人は期待通りのすごいキャラ全開です。

ユダヤ系アメリカ人のジェシーとスウェーデン人のアレクサンダーが

「ロシア人の従兄弟どうし」というのは、ちょっと厳しい設定ですが、

「ソーシャルネットワーク」で演じたザッカーバーグを彷彿とさせるような、早口のジェシー、

怒涛のようなプレゼン能力は、ほかの誰にもまねができません。

 

逆にアレキサンダーは、完璧なビジュアルと肉体美を封印して、

猫背でオタクな技術者になりきってました。

 

 

 

 

ハゲ頭にも驚きましたが、身のこなしがもっさりしていて、全くの別人です。

サルマ・ハエックもセクシーさ封印のグレイヘアーで、

007の悪役みたいな役回り。

 

この3人目当てだったら、これは間違いなく、おススメできる作品です。