映画「 はじまりのボーイミーツガール」 平成29年12月16日公開 ★★☆☆☆

原作本「Le coeur en braille」 パスカル・ルテール 邦訳なし

(フランス語 字幕翻訳 古田由紀子)

 

 

 

12歳のヴィクトールにとって目下の悩みは、妻に先立たれて以来落ち込んでいる父親のことだった。

彼はみんなの憧れで優等生のマリー(アリックス・ヴァイヨ)のことが好きだったが、

劣等生の自分は彼女に相手にされるはずがないと思い込んでいた。

ある日、ヴィクトールはマリーの家に招待され……。               (シネマ・トゥデイ)

 

「ボーイミーツガール」というのは 「男の子が女の子と出会って恋に落ちる、よくある話」で

映画のひとつのジャンル的に使われることもありますが、これをタイトルにするなんてね。

それに「はじまりの」をつけるのって、文法的にどうなんでしょ?

「はじまりのうた」「はじまりの街」とか、最近はやりの使い方なんでしょうが、この2作はともかく、なんか変!

原題の「Le coeur en braille」は、直訳すると「点字で書いたこころ」だそうです。

原作はまだ日本語版は出ていないようですが、フランスではベストセラー。

プレゼントでもらったこのバッグのイラストみたいなのが、原作のキャラクターらしいです。

 

 

可愛くて優等生のマリーに恋している12歳のヴィクトールは、

劣等生、と言うか、クラスのお笑い担当の癒し系男子。

最近マリーから声をかけてもらえるようになって、ちょっとドキドキしていました。

 

マリーはリッチで美人でチェロの名手で、成績もいいけれど、なぜか友だちが少ない。

実は彼女は「網膜色素変性症」というゆくゆくは失明してしまう病気にかかっているのですが

「チェロでコンセルバトワールを受験したい」という夢があって、

治療施設にいれるという父親とことごとく衝突しています。

 

目の病気のことは内緒にしていて、メガネをかけずに学校に通っています。

でも視野狭窄は日々進行していて、学校生活を続ける上でも助けてくれる友達が必要・・・・

ということで、なんでもやってくれそうなヴィクトールを「利用」しようと思っていたのでした。

 

「パパはわからずやで音楽がわからないの」

「同情はいらないけれど、病気をかくすのを手伝って!」

 

秘密をうちあけられたヴィクトールは、大好きなマリーのために、すごくがんばる!!

って話で、幼いけれど、異性の自覚はあって、手がふれるたびにドキドキしてしまうような

とっても可愛らしい話です。

 

「失明の危機」って、12歳の子にはどんなに恐ろしいことか!

でもマリーにとっては、それよりも、自分の夢が消えてしまうことの方が嫌だったんですね。

親が学校に知らせて、それなりの配慮をしてもらうのが普通で、

先生もクラスメートも知らないなんてありえないとは思いますが、一応そういう設定なので・・・・

 

私はこういう病気にはかかったことはなく、単なる近眼ですが、

小学校ですでに視力が0,1を切っていたので、

「いつかは見えなくなるのかな?」と漠然と思っていました。

視力検査で「わかりません」というときの屈辱感は今でも忘れられません。

強い眼鏡をかけても黒板の字はみえないけれど、

チョークの音と先生の手の動きで板書の文字は(見えなくても)読めていました。

 

そんな経験があったので、マリーが視力表を暗記したり、

黒板に全神経を集中している姿をみると、胸が痛くなってしまいます。

「友達がいない」というのにも、はげしく共感できるし・・・・

 

ヴィクトールの方は、家はボロだし、成績も悪いけれど、友だちはたくさんいます。

イスラム教とユダヤ教の異文化の両親に育てられた友達とか、

ことわざ大好きな友達とか

一卵性の双子とか

バンド仲間とか

それほど伏線にもなっていませんが、ともかく友だちが多い。

 

ヴィクトールは、「いつまでも死んだママの荷物を捨てられない」父親にも心を痛めていて、

なんとか、立ち直って欲しいと考えています。

 

かわいい恋の話ではありますが、「父親との関係に悩む12歳の話」でもありました。

 

ともかく、なんとかマリーの父親を説得して、コンセルバトワールの受験会場に滑り込むのですが、

そこでひいたのが、マルチェッロの「ベニスの愛」

これはオーボエ協奏曲ニ短調の第二楽章で、「ベニスの愛」で使われたので、ふつうこう呼ばれるのですが、

マリーはこれをチェロで弾きこなすのです。

 

主演の女の子は、本物のバイオリニストだそうですが、チェロの演奏も上手で、

ラスト、見事に弾き切った時の笑顔は、この先に来るかも知れない悲劇の心配など吹き消してくれます。

どんなことも、理解してくれる仲間たちがいれば、絶対に乗り越えられる!って気にさせてくれる作品です。