愛知 豊田市美術館
『ねこのほそ道』(2023年)

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今回は、
6人の美術作家と1組の建築家による
自由、野生、ユーモア、ナンセンス溢れる、
どこか "ねこ" のような現代美術

を紹介しまーす三毛猫

ありがたいことに、作品の写真撮影OKカメラ
で、全部は無理だったけれど、それなりに撮ってきました。
(作品の解説もそのまま一緒に載せてます)


落合多武(1967年生まれ。ニューヨーク拠点)
《CAT Carving(猫彫刻)》
ポリウレタンプラスチック、キーボード
2007年
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展示の冒頭、キーボードのうえで優雅な無気力さを湛えて横たわるねこが奏でる音が、展覧会へと導きます。

一瞬、ねこが何かの干物に見えたタラーパンチ!


佐々木健(1976年生まれ。東京拠点)
《タオル(オレンジ)》
油彩、カンヴァス 2018年

佐々木健
《バスマット》
油彩、カンヴァス 2018年

佐々木健
《バスタオル(赤)》
油彩、カンヴァス 2019年

佐々木健
《タオル(青)》
油彩、カンヴァス 2018年

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佐々木健は、ぞうきんやタオル、ブルーシートなどの身の回りの物を、油絵具で丹念に描き出す画家です。
通常、絵画の主題にならなさそうな身の回りの物は、佐々木の身体を介して時間をかけて描かれることで、改めて目を向ける対象になります。



佐々木健
《ふきん》
油彩、カンヴァス 2020年
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佐々木健
《のれん》
油彩、カンヴァス 2016年
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佐々木健
《実家のテーブルクロス》
油彩、カンヴァス 2019年
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母が刺繍を施したふきんやテーブルクロスは、女性が担ってきた家事に寄り添うように、糸の盛り上がりや布の凹凸も丹念に描かれています。


佐々木健
《ねこ》
油彩、カンヴァス 2017年
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《ねこ》は、かつて作家がどうしても飼うことのできなかった子猫を、絵画に留めたものです。美術館のような人工空間にぽつんと座る子猫は、守るべき対象と個人や社会との関係を照らします。そのようにして、佐々木は身の回りの目を向けられることのない存在を、絵画によって見えるようにしていくのです。


佐々木健
《マスク》
鉛筆、紙 2020年
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佐々木健
《石》
油彩、カンヴァス 2017年
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佐々木健
《ねこ(しいたけ)》
油彩、カンヴァス 2023年
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佐々木健
《ブラックホール #サムホール》
油彩、カンヴァス 2019年
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中山英之(1972年生まれ。東京拠点)+
砂山太一(1980年生まれ。東京、京都拠点)
《きのいしの家の建築模型》
紙、EPS、アクリル棒、塩ビ板、小割材
2023年
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小石から巨石、果ては星まで、石には大小様々なスケールとそれに付随する意味や象徴性があります。建築家の中山英之+砂山太一は、小石を拡大して紙や布、木による石を作り、それを置く空間のスケールを伸縮して想像力を遊ばせます。
《きのいしの家の建築模型》は、建築基準法では実現できない天然石の柱に代わって、木製の石を支柱にした建築模型です。



大田黒衣美(1980年生まれ。愛知拠点)
《旅する猫笛小僧》
ウズラの卵、ワックスペーパー、布、包装紙
2013年
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大田黒衣美は、自在な素材を用いて、見立てに似た手法により飄々とした光景を生み出します。
自然環境のなかで擬態の役割を果たすウズラの卵模様を用いて風景画を作り、



大田黒衣美
《cold water》
油彩、グアッシュ、板 2022年
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板の木目を活かして独自の物語を秘めた絵画を描き、


大田黒衣美
《suncatcher》
グアッシュ、ポケットティッシュ 2022年
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そして身体に触れた後すぐに捨てられるポケットティッシュの表面に独自の物語や日々の一瞬の光景を留めます。

そういや《suncatcher》というタイトルの中にも
"cat" が隠れてますね!


岸本清子(1939年生まれ。東京、愛知拠点。1988年没)
《 I am 空飛ぶ赤猫だあ!》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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岸本清子にとって、完全に飼い慣らされることのないねこは、愛と自由の象徴であり、人間の管理欲望を乱す自らの化身でした。岸本によれば、絵画空間は過去と未来がせめぎ合う現在であり、その情熱的で幻想的な絵は、現代文明を批判し、来たるべき理想世界を称揚しようとするものでした。
《 I am 空飛ぶ赤猫だあ!》は、赤・ピンク・白のねこがそれぞれ未来の芸術・科学・宗教を、緑・青・黒のねこがそれぞれ過去の芸術・科学・宗教を表しており、未来のねこたちが旧態然とした過去のねこたちと戦っています。



岸本清子
《空飛ぶ猫1(未来の芸術)》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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岸本清子
《空飛ぶ猫2(未来の科学)》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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岸本清子
《空飛ぶ猫3(未来の宗教)》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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岸本清子
《空飛ぶ猫4(過去の芸術)》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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岸本清子
《空飛ぶ猫5(過去の科学)》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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岸本清子
《空飛ぶ猫6(過去の宗教)》
アクリル、パステル、カンヴァス 1981年
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目から破壊光線(?)が出ているとこが好きニコニコ


泉太郎(1976年生まれ。東京拠点)
《霧》
2022年
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球に入ったねこが勢いよく回転しながら月曜日の美術館に出かけていく様子が、湾曲したスクリーンに映し出されています。
しかし月曜日は多くの美術館が休みなので、ねこはエントランスに向かってボーリングのようにアプローチするものの、ガターを繰り返します。
モデルとなったねこのキャラクターには月曜日を忌避しているという設定があり、机の下ではそのキャラクターの目が象形文字のようにデザインされた映像が投影されています…



泉太郎
《クイーン・メイブのシステムキッチン(チャクモールにオムファロスを捧げる)》
2023年
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昔から狂気と結び付けられる月の満ち欠け、もしくは『不思議の国のアリス』に登場するチェシャねこの笑いが頭上に浮かぶ展示室は、あらゆるものがあべこべになる世界。そこは、人間がねこの奴隷となる国の創造主クイーン・メイブが、展覧会全体の気配を再料理したキッチンなのでしょうか。壁の中には参加作家から借りた衣服などが埋められており、壁に取り付けられた蛇口から放出される気配の要素らしきものが天井に登る過程で精製されて真なる気配を導き出そうとしています。
展示室中央には、掃除用具室に眠っていた古いポリッシャーが掲げられた塔が建っており、普段美術館で目に触れることのない清掃用具が、清掃員以外立ち入り禁止の祭壇のような空間に並べられています…


ねこあたまのワタシにゃ理解不能ですが、
見ていて愉しい世界音符


落合多武(1967年生まれ。ニューヨーク拠点)
《大きいテーブル(丘)》
2023年
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展示室の奥には大きなテーブルがあり、そのうえにはドローイング、彫刻、オブジェ、日用品などが並び、それぞれがそれぞれでありながら全体として有機的に繋がる、丘のような場ができています。テーブルのうえの白と黄色のまだら模様、しっぽ、色が塗られたブラシなどは、気まぐれな脱領域的存在そのもののねこが往来したような自由な連想遊びを誘い、言葉や意味からすり抜ける軽妙な空気感を生み出します。

作品が大きくて全景をおさめられない…タラー


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そしてテーブルの下にもいろんなオブジェがピンクハート


五月女哲平(1980年生まれ。東京、栃木拠点)
《black, white and others》
2023年
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柔らかい黒と白の短冊状のパネルが、広い壁面に一定のリズムを持って並んでいます。その絵画を時間のなかで眺めると、画面の下に何層も塗り重ねられた色彩が浮かんできて、画面に微かな揺れが生じます。一見シンプルなその絵画は、画面に空いた穴が落とす微かな影を含めて、絵画面のみでなくその狭間や空間に微かに作用します。


五月女哲平
《horizon》
アクリル、木 2023年
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《horizon》は、誰しもが眺めたことのある地平線や水平線などの、空と大地/海を二分する線が円で描かれており、普遍的かつ抽象的なもの同士が融合しています。そして時間が進むにつれ闇が深くなるように、地の青が濃くなって画面を覆っていきます。


大田黒衣美(1980年生まれ。愛知拠点)
《sun bath》
2023年
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大田黒衣美は、自在な素材を用いて、見立てに似た手法により飄々とした光景を生み出します。
巨大な写真作品《sun bath》は、アトリエに遊びに来て無防備に眠る野良ねこのうえに、ガムで象った人を置いて撮影したものです。リラックスするときに噛むガムで作られた、ねこの毛皮の草原で休む人のいる光景には、いくつもの寛ぎが重ねられています。



大田黒衣美
《sun bath》
2023年
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自然光の降り注ぐ通路の壁には、公園で憩うガムでできた人々が点在しており、吹き抜けに、ゆるやかな空気感を与えています。


中山英之(1972年生まれ。東京拠点)+
砂山太一(1980年生まれ。東京、京都拠点)
《きのいしの家具》(奥の床)
木 2023年

中山英之+砂山太一
《ぬののいし》(手前の床)
布 2023年

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小石から巨石、果ては星まで、石には大小様々なスケールとそれに付随する意味や象徴性があります。建築家の中山英之+砂山太一は、小石を拡大して紙や布、木による石を作り、それを置く空間のスケールを伸縮して想像力を遊ばせます。
《きのいし》は木、《かみのいし》は紙、《ぬののいし》は布でできた、小石をモデルに作られた家具です。



中山英之+砂山太一
《きのいし かみのいし》
木、紙 2019/2017年
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《きのいし かみのいし》の1枚目を撮った直後に、

石積み(《かみのいし》)が崩落!
(2枚目と3枚目)

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「目に見えないねこ」が作品に飛び乗ったのかも…目


言葉で言い表すのが難しいけれど、
豊田市美術館の独特な空間と展示内容がうまくマッチした、
見ていてなめらかーな感じの展覧会でした拍手

お次は、
同時開催されているコレクション展を紹介しますねニコニコ
(すでにUP済みです。「次の記事」をご覧ください)


『ねこのほそ道』
◆2023年2月25日(土)-5月21日(日)
 豊田市美術館(愛知)
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(豊田のみでの開催です)


豊田市美術館 →
(愛知県豊田市小坂本町8-5-1)

【ねこのほそ道展】


ねこ目線で見た紹介動画ですよニコニコ

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