悠に云われ、万智子は唇を噛んだ。
この絵をみて今ひとつ確信を持ったのである。だが、確かめないわけにはいかなかった。
「うちに養子に入るという話なんだけど、本気なの?」
悠はわずかに目を見開いたが、例のため息はなかった。
「まだ返事はしていないけど」
「悠君、本当は帝大なんかじゃなく、絵を勉強したいんでしょう」
悠は再び万智子をみた。
「それもある。桐島家にいたんじゃ、絵は描けなかった」
「お父さまはこのことは?」
悠は頷いた。
「ご存知です。絵の学校へ行っても構わないって云ってくれた。もし、桐島家で美術学校の学費を出してくれないことがあったとしても行かせてやるってね。だから、おじさんが望んでくれるなら、養子に入るつもりです」
父の云いそうなことだった。そしてここが核心だ。
「文興堂は?」
「継ぐよ」
悠は答えた。
「それならいいの。邪魔してごめんなさい」
万智子は笑って手を振った。なんだか胸が詰まっていた。自分が嫁に行っても、店は安泰だとわかったのにである。悠は性格は難ありでも、頭はいいし、父に素直に感謝をしている。養子に迎えても多分だいじょうぶだ。
素早く、悠が戸口に立ちはだかった。
「ちょっと待った。他に言いたいことがあるんじゃないの」
「ないわよ、もう行くから、続きをして」
しかし、悠はたちはだかったまま、どこうとしない。
「本当にもういいんだってば。お店をちゃんとしてくれて、父と仲良くしてくれたらそれで」
そこまで云って声が詰まった。涙が出そうだった。万智子は強引に悠を押しのけると、自分の部屋へ駆け戻った。