現在では特別な場合を除いてあまり上演されなくなったクラウディオ・モンテヴェルディの最晩年の作品、『ポッパエアの戴冠』という題のオペラがあります
ローマ帝政時代の歴史に題材を得たもので皇帝ネロと美貌の妃ポッパエアが主人公である
この時代は食うか食われるかの熾烈な時代。
戦争、陰謀、呪術に近親相姦、拷問、毒殺は日常茶飯事の古代ローマ。
そこで生き残るには、良識や正義だ、などいっているだけでは生き残れない
年代記を著したタキトゥスによれば、ポッパエアはボンペイの名門であり富豪の一族の生まれでした。
ポッパエアの母親は当時のどの女にもまさる美貌の持ち主で、ポッパエアはローマ一の美女だった母親から〝輝きと美〟を受け継いだ。
しかもその会話は人を捉えて離さない魅力を持っており、その才気は人々に快かったというのだから、ポッパエアはまことに恵まれた生まれつきであるその上財産もある。
しかし美しい母はポッパエアが17歳の時にクラウディス帝の妃メッサリナによって自害させられた。
ポッパエアは物心ついた頃から裏切りと血まみれの死で溢れかえっていた。
ポッパエアはその35年の人生で3回結婚した。
最初はまだ少女の頃に14歳のポッパエアはルフルス・クリスピヌスという騎士階級の男性と結婚し、子供をもうけました。
しかし夫は罷免され権力の座からは遠さがってしまった。
野心家のポッパエアはこのままで終わる気はなかった。
黙々と教養を身につけ、美貌に磨きをかけ続けた。きっと必ずこれが武器になると信じて。
ポッパエアは『世界で最も化粧に時間を費やした女性』と言われている。ポッパエアは美容パックを発明しました。
小麦、ライ麦、ハチミツ、ロバの乳、薬草を混ぜて特製美容パックを作りました。
さらに髪は輝くブロンドにしていたというが染め方は極秘であり、抜けるような白い肌を守るため、外出のときは必ずマスクをかぶり、入浴はロバの乳でそのために牝ロバを500百頭も飼っていた
さらにロバの乳で入浴後は白亜と有害な鉛白を肌に塗って色白に見せていました。
旅行に行くときも50頭のロバを連れて行ったそうです。ロバのミルクにはシワを取り、色白できめ細やかな肌を保つのに効果的です。
これは現在の私達が使っている酵素パックと同じ原理だそうです
毎日の身支度には奴隷100人を必要とし、化粧にもこだわったポッパエアは白粉と頬紅を付け、目の周りにはサフランやアンチモンで作ったアイシャドウをしていました。
このポッパエアの涙ぐましい努力は報われる時がやってきます。
皇帝ネロの悪友で貴族階級であるオト将軍の目にとまる。
オト将軍はポッパエアに夢中になり、妻を離縁し、自分の妻へ迎えた。オトは皇帝ネロに美しい妻の自慢をした。
『ポッパエアは神々の恵みによって手に入れた美と高貴の化身、あらゆる人々の熱望の対象、特別の人にだけ許される歓喜…』
などと語ったのでこれでは皇帝ネロでなくても興味が湧く。
皇帝ネロもまたポッパエアに夢中になった。(将軍オトがネロの機嫌をとるためわざと自慢した説もあります。)
しかし皇帝ネロがポッパエアを皇妃に迎えるには障害があった。
ネロには16歳の時に結婚した正妻オクタヴィアがいたのだ。
さらに気の強い性格の母親、アグリッピナもいた。
ネロの正妻になるにはこの2人の女を始末しなければならない。ポッパエアは見事にそれをやってのけた。故に彼女は後世から悪女と呼ばれることになる。
59年に皇帝ネロはポッパエアとの結婚に反対する母親アグリッピナを殺害した。
さらにポッパエアの夫、オト将軍をルシタニア(スペイン)に左遷し、妻オクタヴィアを不倫の罪を着せ自殺させた。
オクタヴィアはまだ22歳だった。
オクタヴィアは縄で縛り上げられ、手足の血管を切り開かれて自殺させられた。さらにポッパエアに見せるため、オクタヴィアの首は切断されローマにいるポッパエアのもとへ運ばれた。
遺体の検分はさすがのネロも嫌がったが、ポッパエアは喜んでオクタヴィアの首を受け取った。
この凄惨な殺人事件の後、ポッパエアは皇帝ネロの皇妃となった。
知り合って4年目だった。ポッパエアはネロの娘をすぐに産み、ネロは神殿に捧げていた巨大なエメラルドを愛妻ポッパエアに贈った。
しかしその3年後臨月のポッパエアは35歳の若さで突然世を去った。
死因はネロが喧嘩になってポッパエアの腹を蹴って死なせたという説もあるが、ネロは跡継ぎを熱望していた。
実際はポッパエアの死は病死または事故死の可能性が高いとされる。
ポッパエアの白すぎる肌は鉛白の赤すぎる唇には水銀性の鉱物のおかげだったが、それらの化粧品を使い続ける弊害は計り知れない。
毎朝身支度に100人の奴隷を動員したほどの美への執着が結局は早すぎる死をもたらした。
しかしポッパエアにとって美に復讐されるなら本望だったのかもしれない。老いを恐れ、〝綺麗なうちに死にたい〟と常々口にしていたナルシストの彼女であったから。
ネロは盛大な葬儀をとりおこない、愛妻を悼んだ。
ローマの慣習では火葬が一般的だったが、ポッパエアの遺体は火葬にはされず、たくさんの香料をつめられ、香油に漬けた。きっとネロはポッパエアの美しさをこの世にとどめたいと思ったのだろう。
大量の防腐剤を施して霊廟におさめた。
ポッパエアの死後、ネロに残された時間は3年だけだった。
民衆から憎まれたネロは反乱軍に追われて30歳で自殺した。
ネロ役はゴールデングローブ賞を受賞しています。またアカデミー賞候補にもノミネートされました
またエリザベス・テイラー、デボラ・カー、ソフィア・ローレンまで出演しています