世界文学登攀行

名著といわれる古今東西の世界文学を登攀していきます。
文学とともに歩む成長の記録。になるはず。


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シベリア抑留
――スターリン独裁化、「収容所群島」の実像


僕の祖父の部屋に、慰労のための表彰状のようなものが飾ってあるから、祖父がシベリア抑留を体験した人だというのは知っていた。
生前、祖父はシベリアの話しもしたことはないし、そもそも戦争の話しをすることもなかった。
昔から、シベリア抑留というのはなんだったのか知りたいという気持ちもありながら、そういう機会もなく、長い年月を過ごしてしまった。
今回、中公新書でこの本を読むことが決まった時から、早く読みたいという気持ちを抑えきれなかった。
そういう高揚感の中で、本作品のページを開くことになった。


「従来の研究のようにソ連の政策と日本人の回想記を直結して事足れりとするのではなく」(Pⅳ)シベリア抑留を第二次世界大戦の中に位置づけようとする著者の試みは、非常に読みがいがあった。ただ感情に訴えるのではなく、歴史としてとらえることによって、その本質を把握することができていると思う。


日本人のシベリア抑留について語るために、著者は、そもそも発想のベースになっているドイツ人捕虜の取り扱いについて、また、それ以前のソ連国内における政治犯の取り扱いについて、かなり多くのページを割いている。そして、知らなかった、うかつだった、と思うことがたくさんあった。


第二次世界大戦前史から簡単にまとめる。
ソ連では、レーニンが主導したソビエト連邦成立からしばらくの年月が経ち、スターリンの時代となった。
スターリンは、自分たちの政権に賛同しない者たちを、反革命分子、政治犯として、大量に逮捕し、投獄した。
彼らのうち、重罪犯は銃殺により命を絶たれたが、それ以外の軽微とみなされた者たちは、強制労働の刑に処されることになった。
なんと1939年には国内の罪人が入れられる矯正労働収容所に収容された者は、200万人という膨大な人数に達し、これら罪人という安価な労働力に経済が依存する「ラーゲリ経済」(P11)が確立する。
罪人の中には実際に政府にとって危険とみなされる存在も当然いたと思う。
しかし、ほとんど罪にならないようなことをとりあげて、国家が社会経済発展のために、自国民の中から罪人を製造するケースもたくさんあったに違いない。
背筋が凍るほど、恐ろしいことだと思う。


そして1939年9月1日、独ソ不可侵条約の下で、ドイツがポーランドに侵攻する。これにより第二次世界大戦が勃発する。
1941年6月22日、ドイツ軍のソ連侵攻がはじまる。
当初はドイツ軍優勢であったが、ソ連がスターリングラード攻防戦に勝利してからは劣勢を盛り返し、1945年5月8日にドイツの無条件降伏となる。


その間の戦争の悲惨な推移は読むに耐えなかった。本書に記述のあったものをいくつか抜き書きにする。
1941年6月の独ソ開戦後、敗走するソ連軍にとってポーランド人捕虜は足手まといだった。スターリンは将来の再建ポーランドの中核になりかねない将校ら14,736人を銃殺した(カチンの森事件、P25)
ドイツはソ連軍捕虜を手当たり次第射殺した。200万ほどの捕虜が銃殺により、あるいは飢えと病気と寒さで死亡したものと思われる(P34)
ソ連軍はドイツの首都ベルリンへ進撃した際に、略奪と暴行、とくにレイプの限りを尽くした(P44)
1946年4月時点でソ連国内の捕虜収容所は240ヶ所、205万人(P25)
憎しみと憎しみの応酬である。
戦争の醜さである。


ソ連は第二次世界大戦で2000万人を超える死者を出した。
そのため、戦後の経済復興に不可欠な労働力として、捕虜を「人的賠償」として使役することを決定していたらしい。
これはドイツ人捕虜の話しだが、日本人のシベリア抑留につながっていくのである。


だいぶ話しを端折るが、終戦直後、ソ連軍によって、60万人とも言われる日本人が捕えられ、労働力としてシベリアに送られた。
戦後の混乱の最中である。労働のための満足な食料もない、衣類もない、しかし、戦争によって中断した国家的事業は膨大に存在する。
「酷寒、飢え、重労働」という過酷な条件の中で、栄養失調により、それに伴う病気により、ほとんど手当もされないまま多くの人々が死んでいった。
また、生きている人も、生きるということ自体が困難な時代である。
元は善良な庶民である、異国で戦ってきた兵士が、敗戦により、人間の理性をかなぐり捨て、獣のように生きなければ、生きていくことができない。
そこには、どれだけの悲劇が生まれたことだろうか、どれだけの忍従を強いられ、屈辱を強いられたことであろうか。
戦争が終わったのに抑留されることで、幾多の家族が引き裂かれたことだろうか。
本を読んでいて、自然と表情が険しくなる。
戦争はいけない。絶対に戦争を起こしてはいけない。


シベリア抑留については、ロシア側の公文書に情報アクセスできないという事情もあるため、まだまだ解明されていないことが多く、今後の研究課題となっていることも存在するそうである。
日本は第二次世界大戦の敗戦国である。
日本本土での大空襲、核攻撃については詳細に知ることも多いが、それ以外のことではまだまだ知らないことが多いことを痛感する。
僕にとっては祖父という身近な戦争体験者がいてもなお、である。
歴史の教訓から、学ぶべきものは学んでいかなければいけないと痛感した。




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