定職につかない若者が

 フリーターという美名?のもとに

 いっときトレンディ―だったことがあった。

 企業が契約社員 派遣社員として

 バイト層の囲い込みをするようになって

 フリーター人口は減少し

 2分化していった。

 1つはフリーライター フリープログラマーなどの能力 スキルを有し

 それで身を立てていけるフリーランサーであり

 もう1つはそういう技能を持たず

 そのときそのときのアルバイトでしのぐ

 定職に就きがたい人達である。


 僕が20代の時代は高度経済成長時代で

 働きたければ職はいくらもあった。

 だから

 少しでも待遇のいいところ

 少しでも楽なところを求めて

 いくらでも転職ができた。

 ただ それは「駄目な奴」という

 烙印を捺される道でもあった。

 ちゃんとしたところへ勤め

 そこで勤めあげて終えるというのが

 堅気の勤め人だった。

 1つでも転職して

 その転職先が元の会社より劣るところだったら

 後ろ指をさされた。

 職を転々としていた頃

 帰途の電車で高校時代の同級生とたまに一緒になった。

 超一流企業の社員だった彼は

 会うたびに仕事の様子を訊いてくるので

 その都度 実は会社が変わって と社名の違う名刺を渡した。

 そのうち 仕事の様子を訊いてこなくなった。

 呆れかえって白眼視したのである。


 高度経済成長の爛熟期 ごく短期のバブル期を経て

 日本経済は失われた10年

 あるいは20年とも言われる低迷期に入った。

 フリーターはそのもっとも低迷期の申し子と言える。

 定職に就きたくても就けなかったという事情もある。

 この時期はITなどの新しい波が起きて

 大企業の勢力図もかなりの変動が見られた。

 転職する人が増えたが 僕の20代の頃と違って

 より優良企業へ より厚遇を得ての転職だった。

 この時期の転職者は後ろ指をさされなくなった。


 さて

 失われた20年を経て

 本当の景気回復かどうかはともかく

 株価は上がり 大企業は潤い

 その社員の所得はよくなった。

 一方で給料は上がらず

 物価が上がればその直撃を受ける

 低所得層は拡大している。

 この状態が続くと大企業を辞める人は少なくなる。

 経営の苦しい中小企業では

 従業員の出入りが激しくなる。

 職を転々とする人がまた後ろ指をさされる

 状況が生まれかけている。

 後ろ指をさされても

 僕らの時代は息苦しくはなかった。

 なるようになるだけさ

 という楽天気質が根付いていた。


 でも

 これからやがて

 おそらく東京五輪以降に始まる

 転職者がまた後ろ指をさされる時代は

 息苦しいように思う。

 なぜだろう。

 昭和の好況時代は上流が潤えば

 下流にもそれが流れてきてそれなりに潤うことができた。

 目に見えない堰ができて

 潤いの流出がなくなるせいだろうか。