きっときっと

 貴方の歌声が7都市を次々に震源にして立ち上り

 1つになって大衆の心を大きく揺るがすことを確信しながら

 そのときを待っています

 

 1980年代 この曲がリリースされたとき

 貴方はまだ20代でした

 この曲を歌う貴方の声を

 書店 レコードその他を販売している複合店で耳にしました

 

 僕は思わず足を止めました

 これは歌ではない

 心に閉じ込められてきた悲しみの群れが

 もがいて飛び出して訴えているのではないか

 それまでの辛い人生が行き場を求めて

 彷徨い出たのではないか

 

 聞いていて暗くならない

 メッセージは強烈なのに

 パンチのある歌い方なのに

 どこか素直に淡々としている

 

 そっか

 自己を否定していないんだと納得しました

 悲しみを自虐的に吐き出しながら

 どこかでそれに喜びを感じているのです

 

 あるいは喜びを迎えようとしているのです

 

 それからしばらくしてカラオケで歌ってみました

 僕は軽度の難聴が災いして

 音感が養えなかった人間です

 テンポもリズムもメロディーも

 すべて外れるけれど

 僕なりに感情移入して音痴を烈しく実証しながら歌います

 

 その僕にも「飾りじゃないのよ涙は」が

 歌うのに難しい曲であることは聞いていて解りました

 

 はたして 歌いだすなり同席していた人たちは

 つかの間 唖然とし爆笑しました

 他の曲はどんなに音痴であろうと

 慣れっこになってお義理の拍手をしてくれるのに

 

 しかし 僕は歌っていて快感を覚えていました

 ストレスが心から剥離して外へ飛び出していきました

 歌詞の裏を読むとか読まないとかでなく

 自分を肯定でき 歌い終えたあと

 心に爽快感がみなぎり元気が出ました

 

 以来 この歌は凹んだときに

 特効薬的に歌うようになりました

 

 1987年以来 僕は麻布十番エリアに事務所を構えていますが

 10年も前かな

 深夜の路上でかなり酔った貴方とすれ違いました

 いろいろ伝わってきた頃でしたが

 辛そうだとは思いませんでしたよ

 

 むしろ いろんなものを心に取り込んで充電している

  と 僕は思うようにしました

 

 「飾りじゃないのよ涙は」を聞いてみたいです

 

 今はどんな風に歌うのか

 きっと 万感を吐き出して

 昔以上に 心に堆積したものを浚渫してくれる

  と 一人勝手に期待しています