何度か書いているように中学生時代にミステリマガジンを読み始めたことからミステリ中心で触れていたためほとんどSFを読んだり観たりしていないのだけど、それでも少しは触れていた。
 その数少ないひとつが今回のあまりにも有名なH・G・ウェルズ氏の「タイムマシン」である。
 今現在手元にあるテキストは子供の頃に読んだ偕成社文庫版と創元SF文庫版だけど後者は未読のため偕成社文庫版での印象で書いていく。

 さて偕成社文庫版だけど自分は刊行後すぐに購入した記憶があるのだけど、手元にあるのは初版で1998年…ざっと計算して11歳頃だけど多分その前後で読んだのだと思う。もうこのあたり子供の頃の記憶があいまいになっていて悲しい部分であるのだけど、物語は細部とまではいかなくても最後に読み返したのはだいぶ前なのに結構覚えていた。
 あまりに有名すぎる物語だけど…ふと実際にこの物語を読んだ人は今はどれくらいいるのだろうと思った。映画などの映像化はたくさんありさらにはタイムマシンというもの自体は色々なもので使われて今では珍しくはないものだけど、その原点である本作に関しては意外と歴史的なものとして扱われているような気がする。実際自分も本作にかぎらず有名なものは何となくいつでも読めるだとか後回しにしていた…

 この物語はある時間旅行者が自らが体験した出来事を語る構成なのだけど冒頭の時間に関する議論から始まり、そして戻ってきた時間旅行者の語りというのはこれが最初のタイムマシンものと思うとすごいことだと思う。
 そしてその時間旅行に関してもすっ飛んでいく家政婦やなぜ見えなかったのかという説明、そして未来では土地が変わっているかもしれないなどタイムマシンという嘘を支えるために、現実的な描写を積み重ねていると成長してから読み返して思うようになった。
 子供の頃はその冒険と謎につづきが気になって読み進めていたのだけど、後に読み返したときはそれと同時に色々な知識がついたこともあり現代社会の問題点を空想科学として描いてそれでいて物語として面白いというのは、時代的なこともだけど今もなお新しく面白いのはすごいことだと思うしそれと同時に今もなお問題は解決していないということなのかもしれない…
 そういえばだいぶ前にたしか若島正さんだったと思うけれど近年技術の進化により荒唐無稽だと思われていたウェルズ氏のSFが再評価されていると読んだ記憶がある。遺伝子操作など昔では夢のようなことが可能になっていてそのあたりSFが現実になっているのはすごいと思うと同時に恐ろしく、そしてちょっと悲しく思うことがある。ただ人間の想像力というものは無限だと思うからSFが現実にたどりつくのはそうそうないと思うし追い付いたときは何となく行き止まりのような気もする…

 自分は子供心に冒険と謎とともに、未来で出会う女の子との交流…恋といってもいい関係が妙に印象的でそれゆえに終盤の別れがものすごく悲しくて、再び旅だった時間旅行者が戻ってこないという結末は子供心に悲劇的にとらえてしまった。
 だからそのあたりでウェルズ氏の孫が関わった映画(実際には病気などからすぐに降板したそうだけど)の主人公の結末…あの映画はかなり評判が悪いけれど、自分はあの救いのある、共に生きていくという選択が爽やかに思えて結構好きだったりする。そしてそこからあの結末は決して悲劇とは限らないとも思うようになったのである。それこそ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のタイムマシンの破壊にあるように危険をさけるためともとれるのである。
 そのあたりで気になるのは遺族公認でだいぶ前に公式の続編が出て、自分は買い逃してしまったのだけどその後をどう描いたのだろうと未だに気になっている。

 ちょっと時間などから駆け足ぎみだけど、最後に今回わざわざ偕成社文庫版と書いたのはこれも何度か書いたように応援的な意味合いもある。
 近年の児童文庫は今風の絵が使われていて、自分はそういった絵が好きだからうらやましく思うのだけど、同時に昔ながらの偕成社文庫の絵もいいな~と思うようになったのである。
 ルパンだとか一部カバーが変更になったものもあるみたいだけど、銀河鉄道の夜やウェルズ氏など子供の頃にみた表紙が今も本屋さんにならんでいてなんだかうれしくなる。
 ただ地方だからか他の児童文庫と比べて取り扱いが少ないように感じるし、何よりもだいぶ前に何となくその年の刊行冊数を数えたことがあるのだけど一年を通して出たのが数冊でかなり驚いて不安になってしまった記憶があるのである…
 自分が偕成社文庫に好感を抱いたのは基本的に完訳でなおかつ子供から大人までも楽しめるようにと安易に書き直したりやさしくしないという方針が子供心に何だか嬉しく思ったのである。
 ただ成長するにしたがってそれはかなり難しいことだと思うようになったのである…
 実際本書の冒頭を創元SF文庫版と比べたとき、訳されたのが古いというのもあるけれど何となく偕成社文庫版は明快で言葉などかなり気を使っているように思った。議論も同じ内容なのに使われる言葉で偕成社文庫版の方がわかりやすく感じた…
 こういった方針では刊行が少ないのも納得だけどやっぱりちょっと心配になってしまうのである。