秋田の繁華街と言えば秋田駅から歩いて15分ほどの距離にある川反(かわばた)。
その一角に伝説のBAR「レディ」がある。
最後の夜は、そのレディの扉を開けた。
最初の一杯は、ちょっと邪道かもしれないが、メーカーズマークのソーダ割り。
丁寧に氷を回して、オレンジのピールをグラス口に近付けて、鮮やかな手つきで絞り、香り付けしてくれた。
グラスを口に近付けると、メーカーズマークの樽の香りと絶妙にマッチしたオレンジが仄かに香る。
秋田一のオーセンティックバーという評価に違わない見事な仕事ぶり。
マスターが僕に尋ねる。
「バーボンお好きですか?」
と。
「学生時代、初めて自分で買ったバーボンがメーカーズマークなんですよ」
と、上手に僕の話を引き出してくれる。
一人でカウンターに座る僕に、隣の常連さんが話しかけてくれた。
「ここのジンリッキーは究極に美味しんですよ!」
と。
これまた丁寧な仕事で、カラッと辛口、それでいて優しい口当たりのジンリッキーが運ばれてきた。
常連さんのジンリッキー談義にお付き合いして、マスター、バーテンダーさんともお酒談義に花が咲いた。
常連さんが帰った後、メーカーズマークに戻る。
今度はロックで。
まあるい氷は、バーテンダーさんの手作業で作られたものだ。本当に素晴らしい。
「川反に来ることがあったら、必ず来ようと思ってました」
との言葉に嘘はない。
マスターは殊の外喜んでくれた。
でも、中々初めての地で、有名なバーに一人で入るのは度胸が要りましたよ、との言葉に、丁寧に御礼をしてくれた。
「お店の「あるもの」がとてもカッコいいです」
と伝えると、前は売ってたんですけど・・
と言いながら、なんと、それを僕にくれた。
「もう、常連さんですから、いつでも来てください」
とにっこり笑う。
御礼を何度も言い、程よく酔いが回ったとこで、お店を後にした。
この川反に来る前、実家で2泊。
どうしても2日間家を空けなくてはならない母の代わりに、父と二人で過ごした。
父は僕のギターの師匠でもある。
父のレコード棚中の一枚、「いとしのレイラ」を聴いたのが、僕がギターを始めるキッカケでもあった。
晩御飯どきには、お酒を飲みながら、父にギターを始めた時の話を聞いたり、社会人なってからバンドをやってた頃の話など聞いたりした。
川反の飲屋街を歩きながら、静かになった夜空を見上げた。
結局、父は僕の名前を呼ばなかった。
おそらく、僕が僕であることを理解してなかったのだろう。
でも。
まぁ、良い。
僕が出来ることをするしかない。
僕にギターを教えてくれた父なのだから。
おしまい