サッカーワールドカップ「ベスト4進出」を脳科学で分析すると・・・ | 精神科医・樺沢紫苑の脳内情報館

サッカーワールドカップ「ベスト4進出」を脳科学で分析すると・・・



 12月5日、サッカーの2010年W杯南アフリカ大会、1次リーグの対戦カードの抽選が行われ、日本はオランダ、カメルーン、デンマークとの対戦が決まりました。FIFA世界ランキングの順位は、オランダが3位、カメルーンが11位、デンマークが26位といずれも、43位の日本より上位で、日本の苦戦は避けられないでしょう。

 一方、サッカー日本代表を率いる岡田監督は、以前より、W杯「ベスト4進出」を目標に掲げています。

 「ベスト4進出」という目標について、あなたはどう思いますか?
 全ての条件がうまくかみ合えば、絶対に不可能とは言えない。
 どうみても無理。
 
 肯定派、否定派のどちらでしょうか?
 マスコミも両方の意見があるようですが、心理学、脳科学的見れば、「ベスト4進出」という目標設定は、正しいように思えます。 

 心理学に、「コミットメント」(約束)というのがあります。つまり、自分の目標を公言した場合、公言しなかった時よりも、実現可能性が高まる・・・というものです。

 目標を公言することで、自分を追い込む。他者から目標について監視されている、という実感を持つために後にひけなくなって、目標達成に向かって、努力せざるをえないという状況になります。
 
 モチベーションを高め、集中力を高め、努力を促す方法として、「コミットメント」は非常に有効です。

 ですから、岡田監督が「ベスト4進出」という非常に分かりやすい目標を掲げて、それを公言した・・・というのは、
非常に良いことだと思います。

 では、「ベスト4進出」という「目標の高さ」に関しては、どうでしょうか? 今回の抽選結果を見ると、一次予選突破もかなりたいへんな状況と考えられます。しかし、「一次予選突破」を目標に掲げたとすると、それは非常に現実的な目標と思われますが、それではモチベーションが上がらないのです。

 その脳科学的な根拠を一つ。人間の学習や動機付けに大きく関わっている脳内物質ドーパミンがあります。何か目標を設定して、「頑張るぞー」というときは、ドーパミンが分泌されているのです。

 例えば、「宝くじ」。宝くじを買って、ワクワク、ドキドキする瞬間。これは二つあります。一つは、宝くじを買った時。もう一つは、当選結果を見るとき(当選した時)です。宝くじを買って、「ひょっとして当選するかも」と期待感が高まった瞬間に、ドーパミンが分泌されます。宝くじでは頑張りようもありませんが、仕事や、勉強や、スポーツなどで目標設定をする。目標を設定しただけで、ドーパミンが分泌されて「頑張るぞー」「やるぞー」という気持ちになってモチベーションがアップするのです。

 しかし、ドーパミンが分泌されるのには条件があります。それは、「実現困難であるけども、実現不可能ではない目標を設定したとき」にドーパミンはたくさん出る、ということです。言い換えれば、「絶対に実現不可能な目標」や「簡単すぎる目標」を設定した場合は、ドーパミンはほとんど出ないのです。ここが重要。「難易度は高めではあるが、不可能ではない」という目標設定が、最もドーパミンが出やすい。つまり、モチベーションが上がりやすい・・・ということです。

 例えば、2006年ワールドカップのドイツ大会の日本の戦績は、3戦1分2敗で一次リーグ敗退。初のW杯アウェー勝利すら叶いませんでした。そこで、2010年の目標として、「とりあえず1勝する」を掲げたとしたら、どうでしょうか? おそらく、モチベーションはあまり上がらないでしょう。

 現実的に言うと、「1勝」すれば、勝ち点3が入ります。1勝1敗1分で行ければ、勝ち点4で、一次予選突破の可能性も十分にあり得るのです。非常に現実的な目標です。しかしながら、「とりあえず1勝する」を目標にしてしまうと、モチベーションはあまり上がらないのです。それは、実現可能性が、ある程度高いからです。
 
 では目標は高い方が良いのか? ということで、「ワールドカップ優勝」を目標に掲げたとしたら、どうでしょうか。
 「何をバカなことを言っているのだ」と言われてしまう。 選手たちも、現実的でない目標に着いてこなくなってしまう。最悪の目標設定です。
 
 目標は高すぎても、低すぎても、ドーパミンが出ない。モチベーションは上がらないのです。

 それを踏まえて、「ベスト4進出」という目標を見てみましょう。「ベスト4進出」は、そう簡単に達成できる目標ではありません。しかし、「100%不可能である」とまでは言い切れない。かなり困難ではあるけども、日本が120%実力を発揮し、運も味方すれば、ひょっとして・・・という程度の可能性は秘めているでしょう。

 目標設定の難易度の度合いとしては絶妙で、実際に達成可能かどうかは別として、「選手のモチベーション上げる」という意味においては、非常に適切な目標設定だったと思います。

 テレビゲームをやってもそうではないでしょうか? 例えば、アクション系のゲームをやって、瞬間的に倒されてしまう。何十回やっても、次のステージに行けない・・・という、高い難易度では、ゲームをやっていてもつまらないでしょう。すぐに、やめたくなります。
 
 逆に、相手が弱すぎる場合。楽々と相手に勝ってしまう場合も、つまらないのです。苦労しながらも、ギリギリで相手を打ち負かすくらいの難易度でプレイできるゲームが最も楽しめるはずです。それは、簡単すぎず、困難過ぎない状態で、最もドーパミンが出る・・・からに他ならないのです。

 もうすぐ、2010年。新年の目標を掲げる時期だと思いますが、その場合は、簡単すぎない。困難ではあるけども、必死に頑張れば実現可能な目標を設定する。そうすれば、あなたのポテンシャルは最大に引き出されるはずです。

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