昨秋に、日本人にまだあまり(全く?)知名度のない美術館の作品を目にする機会があったので、ご紹介したいと思います。

エストニアの首都タリンにあるKUM(クム)美術館です。
 

皆さん、エストニアをご存知でしょうか?

バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)のうち1番北にあるエストニアは、ロシアの隣国。
バルト海に面した小国です 面積は日本の約9分の1、人口は132万人(2017年1月)
長らくソ連の支配下で不遇の時代を過ごしましたが、
ソ連崩壊後は、政府の主導のもと、IT産業に力を入れて経済発展してきました。
 
Skype(スカイプ)の発祥の地であることでも有名です。オンライン上での納税など、いわゆる電子政府化にいち早く力を入れたことでも有名です。
小学校からプログラミングの授業があるなど若者の実践的なITスキルも高く、日本のIT企業関係者もよく視察に訪れています。
 
首都タリンは、バルト海をはさんでフィンランドの首都・ヘルシンキの対岸
フェリーで片道2時間ですので、ヘルシンキからの日帰り観光も可能です。
 
タリンでは、倉庫街を活かして斬新な建築のエリアに開発したり、EU資本を取り入れたショッピングストリートができたりと、経済が急成長しています。

近年、一部旅行会社がバルト三国を周遊するツアーを販売していますが、エストニア単体で見ると、中世の街並みを残した「旧市街」を見たくらいで移動するプランがほとんど。
旧市街を除いては、まだまだ観光ナイズされていないエリアです。

日本で活躍しているエストニア出身者としては
元大関力士把瑠都(バルト)
NHK交響楽団の首席指揮者 パーヴォ・ヤルヴィ氏
が有名です。
 
ヤルヴィ氏は世界的指揮者を父に持っていて、エストニア・タリン生まれ、米国育ち。
バーンスタインら巨匠たちに学んで、一時期ウィーン・フィルで振ったことも。
2015年に現職に就任して今に至ります。
 
素朴で温かい方が多いお国柄です。
若い世代ほど英語が堪能で、熟年世代も簡単な英会話ならおおむね対応してくれます。


さて、そのKUM美術館ですが。
 
18世紀から現代に至るまでのエストニア美術作品を所蔵する国立美術館です。
目を引く7階建ての近代的な建物の内部は、常設展と特別展があり、エストニア美術を一挙に楽しむことができます。

ソ連併合前のエストニアの素朴な風景や、民族衣装を着た当地の女性を描いた絵画は、
この美術館ならでは。
 

エストニアの民族衣装と女性たち

エストニアの民族衣装は、地域によって多少デザインに違いがありますが、共通しているのはこの↓カラフルなスカート。
 
"Surprise" Carl Timoleon von NeffN 1840s
 
なんてかわいらしい!!
これは民族衣装のスカート「クルト」で、
 
5年に1度開かれる歌の祭典 2003年ユネスコの無形文化遺産登録 のときには女性がみな民族衣装を身に着けているのが見られます。
直近では2014年に開催され、次回は来年(2019年)です。
観光名所の旧市街では、こんなに本格的ではなく略式(多分)を着た女性たちを見かけました。
 
今でもキヒヌ島の女性たちは皆、クルトを履いて生活しているそうです。
1人最低20枚は持っていて、手作りで同じものはないそう。
 
赤、黄色、青、黒、それらのミックスなど多くのカラーバリエーションがある縦縞スカート。
ざっくりいうと、
 
若いor未婚女性、祝いごと⇒赤
          (喜びや幸せを象徴、悪や病気から守ってくれる)
 
年を取ってくると&お葬式⇒青や黒など寒色系
        (年を重ねて悲しい出来事も経験するにつれ、憂いや悲しみを表す色が増加)
         
昔、NHKで特集されたようです。
NHK 「地球イチバン/世界一スカートを愛する島 エストニア・キヒヌ島」
 

 

余談:

2010年の上海Expoのエストニア・パビリオン(タリンの建築家Allianss Arhitektid設計)は、

このカラフルなスカートに着想を得たものだそうです。

 

Shanghai EXPO 2010 Estonian pavillion
Ionel Lehari in cooperation with Allianss Arhitektid and Ruumilabor
出典:タリンの建築事務所 Identityのサイト

http://identity.ee/portfolio/shangai-expo-2010-eesti-paviljon-shangai-expo-2010-estonian-pavillion/

 
 
(部分)
右の少女は若いのに寒色を着ていますね。
絵に秘められた物語が気になります。
ちなみに、右の少女が着ているブラウスのような赤を基本色にしたクロスステッチは、エストニアの民族衣装の特徴の一つです。
 
 
"Estonian Bride"
Gustav Adolf Hippius 1852
花嫁姿。華やかですねえ♪
 
前述のキヒヌでは、婚礼の儀式は、ユネスコ無形遺産に指定されています。
島で結婚式があるときは、2000年以上前から伝わる儀式にのっとって、伝統的な婚礼の歌を歌うそうです。
他の地域では現代化されているようです。残念な気もしますね。
 
 
"Estonian Maiden"
Gustav Adolf Hippius 1852
エストニア南東地方、Setu地方の女性の装い。

大きい金属鍋(?)のような首飾りも、この地方の衣装の特色だそうです。首が凝りそうですね。

料理人がかぶるような縦に長い帽子も特徴的です。

 
 
"Estonian woman with child" 1850
Carl Timoleon von Neff
 

Jõelähtme(北エストニアにある村)の衣装は、縦縞スカートに大きな花模様の刺繍をほどこした白いブラウスが特徴。帽子にも大きな花刺繍。スカートは赤・青・黄のトリコロール。

 

 

  "Estonian Woman Feeding Chicken"

Carl Timoleon von Neff

 

 

タリンまたはその近郊を描いた風景画

休暇を取ってタリンを訪れるサンクトペテルブルク(西部にあるロシア第2の都市。芸術の都です)の画家たちにとって、タリンののどかな光景は魅力的に映ったようです。

 

カメラがなかった時代に、風景画は風景を記録しておく手段としても有効と考えられていました。必ずしも正確に描写されたわけではないようですが、歴史的資料としても貴重です。

 

 

コプリ半島から眺めたタリンの光景 "View of Tallin from Kopli Penninsura"

Karl Ferdinand von Kugelgen 1827-30

 

 

ポルトサマー城からの冬景色 "WinterView of Poltsamaa Castle"

Friedrich Hartmann Barisien 1783

 

"View of Tallinn with Hattorpe Tower" Alexander Georgr Schlater

 

 

 
Karl Ludvig Maibach (1833 - 1889)
  "Romantic Landscape"1888
  朝焼けか黄昏時か…色づかいが美しかったです。

 

 

↓(上)"View of Karkshi" August Matias Haagen

  (下)"Karkshi Church" 同上

 

 

おまけ

狼と少女の彫刻。自然とともに生きる郊外の人々を題材にした作品が多いです。

 


アカデミズム絵画

このコーナーは打って変わってかなり「西洋的」な歴史画や神話画でした。

西洋同様、エストニア画壇でも、19世紀には歴史や神話をテーマにした重厚でスケールの大きい絵画がアカデミックなものとして高く評価されたようです。

 

"Monks Curse Loreley" 1887 Johann Köler

彼はエストニアで初めていわゆる「プロの」画家として認識された人物。幅広いジャンルを描いています。

 

 

"Angel of Ressurection"1852

Carl Timoleon von Neff

彼は、すでにとりあげた通り、エストニアの農民女性も描いています。

エストニア生まれではありますが、イタリアやロシアを旅し、ドレスデン(ドイツ)のアカデミーで学びました。ときのロシア皇帝・ニコライ1世の娘たちの肖像画を描く栄誉にもあずかりました。ロシアのサンクトペテルブルクで没。

 

ちなみに、彼の奥様の肖像画。

かなり西洋的なライフスタイルであることがわかります。

 

 

その他

↓は、ヨーロッパ貴族風のファッションに身を包むエストニアでも上流階級の女性。

 

 

"A Portrait of a Lady"  1889 Sally von Kugelgen

 

Italian Woman with Children by a Stream (1862) 

Johann Köler

 

 

"An Italian Woman at the Well(Woman from Albano)"1843-1859

Carl Timoleon von Neff

 

 

休息のとき"Moment of rest" 1864 Theodor Albert Sprengel

 

 

"Faithful Guardian" (1878) 

Johann Köler

 

(部分)

このつぶらな瞳、たまりません!

 

旧ソ連時代の作品

 

旧ソ連時代のエストニア女性の肖像画

"Portrait of Ira Sepp"

Johanes Voerahansu

 

 

"Landscape with a knife" 1982 Ando Keskkula

4階には、ソ連時代のエストニア作家の作品が並んでいます。

彼らの苦悩がわかるような、重く、痛々しい作品が多いです。

 

 
ミュージアムショップに寄ったのですが、残念ながら今回ご紹介した作品を含めた図録等は一切なし。買う気満々だったのですが…
KUM美術館ホームページにも説明なし。もっと深く知りたいのに、残念…。
美術館ではIT化は進んでいないのかあ。
 
……と早合点しそうになりましたが、
エストニア絵画のデジタル画像をまとめて公開しているサイトがありました。

https://digikogu.ekm.ee/eng

さすがIT先進国。エストニア絵画に興味を持たれた方はご覧になってみてくださいね。

(一部絵画の説明はエストニア語onlyです)

 
 

Kumu Art Museum

Weizenbergi 34 / Valge 1,
10127 Tallinn

TEL +372 602 6000

[開館時間]

5月~9月: 11:00~18:00(水曜日のみ11:00~20:00) 

10月~4月: 11:00~18:00(水曜日のみ11:00~20:00)

[休館日]

5月~9月:月曜日、主な祝日 

10月~4月:月、火曜日、主な祝日

美術館公式サイト(英語) https://kumu.ekm.ee/en/

 

 

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