崖の上のポニョ | p・rhyth・m~映画を語る~

p・rhyth・m~映画を語る~

メインブログ【くた★むび】



英題:Ponyo
監督:宮﨑駿
キャスト:山口智子/長嶋一茂/天海祐希
配給:東宝
公開:2008年7月
時間:101分




10夜連続でお届けした宮﨑駿特集。長編引退作の『風立ちぬ』はすでに紹介しているので,ようやくのコンプリートとなる。書きながら全作2回ずつ位見直して改めて思ったのは,宮﨑駿が単なるアニメーターではなく,多彩で多才な映画監督であること。作品ごとにトーンもストーリーも違うのに,誰が見ても宮﨑作品だと判る個性が映し出されているし,見せて楽しませてナンボ…というヒットメーカーとしての自分の位置を認識し,すべての作品に同じように愛情と心血が注がれている。

アンデルセンの『人魚姫』をモチーフに“スピード感と勢い”を重視したこの作品は,ファンタジーと現実社会が入り混じったストーリー性と,アニメーションの手描き回帰が特色となっている。

元人間で魔法使いの父・フジモト(所ジョージ)と妹たち(矢野顕子)と一緒に,海の底で暮らしていた魚の女の子・ポニョ(奈良柚莉愛)は,ある日くらげに乗って冒険の旅へ。道中,ガラスの瓶に頭がはまってしまい困っていたポニョを助けてくれたのは,5歳の少年・宗介(土井洋輝)。船長の父・耕一(長嶋一茂),母のリサ(山口智子)と崖の上の家で暮らす宗介のことを,ポニョは好きになってしまう。ポニョという可愛らしい名前もつけてくれた宗介と一緒にいたいポニョは,人間になりたいと願い始める。しかし,ポニョが人間に憧れる気持ちを認めたくないフジモトは,自分の船に連れ帰り,魔法の力でポニョを封印。それでも人間になりたいという気持ちを抑えきれず,妹たちの力を借りて封印を解いたポニョは,半魚人の姿になって水槽の外へ飛び出した。海の女神・グランマンマーレ(天海祐希)譲りのパワーに加えて,フジモトが開発していた魔法の力も手に入れたポニョは,人間の姿になり大好きな宗介の元へと駆け出していく。ポニョが魔法の液体を海にバラまいてしまったせいで,海は原始の力を取り戻し,宗介の町に押し寄せる。その波に乗って宗介とリサの家にたどり着いたポニョは,ますます宗介と人間の住む世界を好きになるのだが…。

アニメならではの幸福感が凝縮された作品だと言える。ストーリー性よりも,理想的な慈愛に満ちた世界と,高揚する映画的な瞬間が優先されている。それは子供たちの可能性を奪う閉塞した現代への憤りかもしれない。しかし批判を押し込めて,希望へと反転させた豊かな映像には凄味さえ備わり,宮﨑監督の祈りにも似た切実な次世代への想いが全編にみなぎっている。あふれるほどのイマジネーションの大津波が,日本人の萎えた心を蘇生させる。高密度のファンタジー作品だ。