失踪宣告の請求をなしうる利害関係人に、次のような事例があります。

それは、交通事故の加害者が、この事故で死亡した被害者の相続人(被害者の母親で、10年前に家出して以来行方不明中)の、財産管理人より提起された損害賠償請求訴訟の係争中のことです。

 

加害者は、利害関係人として、この母親の失踪宣告を家庭裁判所に請求し、これに基づいて損害賠償請求訴訟における原告(母親)の、当事者能力・適格を否定して、訴えの却下を求めた事案でした。

 

裁判所は、民法30条の、失踪宣告をなしうる利害関係人とは、法律上正当な利害を有する者を指称します。それゆえに、失踪宣告の効果を、他の訴訟事件の証拠資料にしようという単なる事実上の利害関係を有するにすぎない者は、含まないと解すべきである旨を、傍論として述べつつ、被告の主張を斥けました(横浜地裁判例昭和45年)。

 

しかし、逆に家庭裁判所では、同申立てによる失踪宣告が認められ、さらに同審判の即時抗告を受けた抗告審も、次のように述べました。

 

すなわち、失踪宣告が行われれば、被害者の死亡より2年余前に、その母親である不在者が死亡していたものとみなされます。それにより、損害賠償義務そのものが発生しなくなるますから、交通事故の加害者も、失踪宣告の申立てをなすにつき、民法第30条1項にいうところの利害関係人であるといわざるをえない、と判断しました(東京高裁決定昭和46年)。