「花と人との物語」②奥入瀬渓流・八甲田の花
春の季節の景色と、秋の季節の景色とどちらが良いかという歌が、
万葉集に詠まれています。
その作者の額田王(ぬかたのおおきみ)は秋の季節に軍配を上げました。
勿論どの季節にも良さはあるので比較は出来ませんが、
奥入瀬渓流は新緑をまず見たいと思いました。
「春」というよりは「初夏」に近い陽射しの中、
若い緑の色はこの世の何もかもを、
緑に染めてしまうような勢いがありました。
文字通り緑に染まりながら三(さ)乱(みだれ)の流れ・阿修羅の流れを巡り、
木の間には山ツツジの桃色の花がアクセントになり、
延齢(えんれい)草(そう)・白根(しらね)葵(あおい)・二輪草などが足下を彩ります。
その間春蝉の声がずっと聞こえていました。
銚子大滝の近くで年配の方に
「八重の二輪草があるので、しっかり見ておくように」
と声を掛けられました。
かなり珍しいといわれるあえかな緑の花「緑二輪草」に、
出会えた時のことです。
八甲田と言えば『八甲田山死の彷徨』が有名ですが、そのモデルになった歩兵第五連隊第二大隊の遭難記念碑が馬立場にあります。
そこへ登る階段の近くに、白い花をタクシーの運転手さんが見つけてくれました。
小さな白い花と薄紫の花は可憐でなんとも愛らしい花でした。
菊咲一華でしょう。
小ぶりの山桜もあちこちに見られ、小さな花たちが遭難碑を飾っていてくれるのかと思うと、ふっと目頭が熱くなりました。
この旅でもうひとつ心に残ったのが、タクシーの運転手さんでした。
蔦温泉や道の駅での歌碑探し、田代平の湿原歩き、奥入瀬、
十和田湖のどこもかしこも全て一緒に歩いてくださって、少しでも良い景色を、
目的のモノを見逃さないように、
そして心細い思いをしないように心を配ってくれたのでした。
その一生懸命さに、しみじみ有り難いと、
頭が下がりました。
「ただの石だと思っていたら、
こんなに美しい言葉がきざまれて、
こんなに深い意味があったとは。
歌碑がどういうものか初めて知りました。」
とお礼まで言われました。
花の思い出も貴重ですが、人との出会いも心に残るものでした。
平賀 冨美子
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