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機械化歩兵レイファン 1st Battle phase1/4

 人間は、日々を楽に過ごすために道具を作る。
 そして、道具の持つ力が、殺傷の可能性を秘めた場合、例外なくそれは武器となる。
 時は流れ、人間は新たな道具を作り出した。
 鋼鉄の皮膚、ワイヤーの神経、高熱の心臓、オイルの血液、電子の頭脳。
 それらを持つ「ロボット」である「Mechanized Worker」は元々作業用に作られた物であった。が、それも「ロボット」と言う名の「道具」の例に漏れず、人間の新たな
る武器となった。
 人は、それをこう呼ぶ。
「Mechanized Infantry(機械化歩兵)」と・・・


1st Battle『Mechanized Infantry』


 21世紀前半、東ヨーロッパで勃発した民族紛争は、EC及び国連軍を巻き込み、世界的な戦争と化していた。
 国連軍の圧倒的な物量の前に窮地に陥った民族軍は、遂に禁断の兵器「細菌兵器オメガ」を使用した。細菌兵器オメガ。それは異常なまでの伝播性と致死性を併せ持つ、
言うなれば文字どおりの最終兵器である。しかし、それでも戦況が逆転することはなかった。それどころか、細菌は敵味方を問わずその死の牙を全世界に広めていった。そして、僅か数カ月の間に、世界全人口の大半が死んでいった。
 もはや戦争に勝利の意味はなく、残るは死体の山と静寂なる都市だけであった。


 それでも、生き残った人々は戦いを捨てることは出来なかった。
 そして、それから百数十年の歳月が流れた。


 新暦145年、世界情勢は混沌の渦に巻き込まれていた。
「世界大戦」と言う言葉も既に歴史の記録上だけのものになり、かつて栄華を誇った大国も「オメガ戦争」の被害で廃退の一途を辿っていた。
 この世界を一言で言い表すとするならば、「泥沼」の一言で十分である。世界には無数の陣営が乱立しており、そこには既に「正義」も「秩序」も存在していなかった。


 アフリカ大陸南部。ここは金や鉄、そしてオメガ戦争の副産物である新エネルギー源のオメガチウム等の埋没資源の利権争いから東西陣営に別れ、局地的な紛争が約三十年前から続いている。
 戦略兵器が意味を成さなくなった今、戦場は”Flying Tank”と呼ばれる装甲ヘリが空を、空母と潜水艦が海を支配している。そして陸は、”Mechanized Infantry”と呼ばれる機械兵器が、戦車に代わり地上を支配しようとしていた。


『第12戦車小隊、敵MI3機と接触ッ!』
『2番車、行動不の…ああっ………z…』
『速い! 戦車じゃ太刀打ち出来ません! 救援を……』


「全然、話にならんな」
 スピーカー越しに伝えられる戦況を聞いていた青年将校が、ふと、そう漏らした。
そして彼の隣では、白衣を着けた青年が口元に笑みを浮かべていた。
「これが、時代の流れと言う物です。新たなる物が古き良き物を駆逐したその時、間違いなくそれは世代交代の始まりです」
「そして、古き物が淘汰されるきっかけ、と言う訳か」
 青年将校の言葉に、白衣の男は何も言わずただ不気味に笑みを浮かべるだけである。
「第12戦車小隊、沈黙!」
 オペレーターの声が、部屋中に響きわたった。が、青年将校は狼狽の色も見せず、むしろ当然の結果だと言わんばかりの表情を見せていた。
 突如、白衣の男が青年将校にこう告げた。
「そして、古き物は『過去の遺物』と呼ばれる。かくして、歴史は繰り返されるのです」
 彼の言葉に、青年将校はこう返す。
「そして、今度は奴等が『過去の遺物』となる番、と言いたい訳だな?」
「左様…その為に私の『芸術品』は存在するのです」
 その時、青年将校は思った。この男は、間違いなく狂っている。そしてその狂気は自分にも共通する物がある、と。
 やがて彼は立ち上がり、部屋中に響く声でこう言った。
「フランゲルを出せ! 一機で充分だ」
 その指令に、その場にいた兵達はどよめきの声を上げた。
「しかしガレル司令、フランゲルはまだ試作段階で…」
「試験運転は既に完了している。奴等のジナ級MI相手では、もったいない位だ」
「しかし…」
「実戦テストには、丁度良い。出せ」
 上官の命令に、兵士は更に反論しようとしたが、彼を睨み付けるガレルの瞳に潜む狂気を見た彼はもう何も言えなかった。
 ガレル司令の隣では、相変わらず白衣の男が薄気味悪い笑みをこぼしている。
「これでいいんだな? バイオス博士」
 そう呟くように問うガレルの口元が緩んだ。
「欲を言えば…クロノスを出して貰いたかったですな」
「人型か?」
 ガレルは失笑した。
「あれこそ不安が多すぎる。人型MIなど、コストが高い上に的になるだけだ。戦術的価値は無に等しい」
「が、芸術的価値はある。最高の芸術は、人々を畏怖させ、恐慌させる事も出来るのです」
「機関砲が、モーツァルトのK626に敗れる事もある、と言う訳か?」
 ガレルのその言葉に、バイオスは一層口元の笑みを不気味に強めた。
「K626、『レクイエム』ですか。最高の音楽です。先程の言葉に反するようですが、「過去の遺物」と言う言葉では片付けたくないですね」


『フランゲル2号機、出ます!』
「敵MIとの接触予定時間は、約6分後です!」


 スピーカー越しに流れてくる戦況など聞く耳を持たないと言わんばかりに、バイオスは話し続けた。
「最高の芸術品は時代が変わっても讃えられ、畏怖され、ある時には人を狂わせる。人は見たこともない驚異には意外と弱い。そう、言うなれば神と同じです」
 ここまで言うとバイオスは右手で眼鏡を直し、更にこう言った。
「そして、『MI』と言う新時代の芸術品を作るために私は居るのです」
 ガレルとバイオス、この二人の間に暫しの沈黙が流れた。


『フランゲル、あと3分で敵MIと接触、これ以後戦闘行動完了までの無線を封鎖します』
「了解! 健闘を祈る!」


 ガレルが口を開いた。
「それが博士の提唱する『G計画』だと言うのか?」
「私の「芸術品」はすべてそれのためにあるような物です。フランゲルも、クロノスもその為にあります」
「では聞こう。何のための『G計画』なのだ?」
 そのガレルの問にバイオスは低い笑い声を上げた。


「フランゲル、敵MIと接触、レーダーで確認! 交戦に入る模様!」


 ようやく、ガレルの問に対するバイオスの答えが出た。
「この戦争、いや、混沌の渦中にあるこの世界を新たな力で畏怖させ、新たなる世界を創る為の『G計画』なのですよ…」
 ガレルは馬鹿らしいと言わんばかりに鼻で笑った。それが、バイオスの答えに対す
る意志表示である。
「人を殺める兵器が、戦争を終結させ、新たな時代を創るとは…とんだ皮肉だな」
 それを聞いていたバイオスの目が一瞬鋭く輝いた。
「その皮肉が、遥か昔にあったのです。人間が原子の火を手にした瞬間、『核兵器』と言う恐るべき絶滅兵器が生まれました。そしてその炎の牙が人間に降り注いだ瞬間、人々はそれを恐れました。それでも尚且つ、人は核の炎を捨てませんでした。そして年々増え続けるそれが飽和し始めたとき、自らの存続を危ぶむ存在と化したのです。
 核の炎による人類の絶滅を防ぐには、戦争行為の放棄しか方法が無かったのです」
「が、その古き愚かな人類の一人が、『細菌兵器オメガ』を作り出した。しかしそれは旧世界の滅亡と言う形で、残された人類に新たな驚異を見せつけた」
「その通りです。そして世界は再び、麻のように乱れたのです」
 思わずガレルは眉をしかめた。
「結局、兵器による鎮圧では、新たな混乱を招くだけではないのか? お前の理屈は矛盾だらけだな」
「確かに、『兵器』による鎮圧ではそうなります。だが、『G計画』はただの兵器開発計画ではありません」
「では、何を創るというのだ?」
 ガレルは憎らしげにバイオスを睨み付けながら、こう聞いた。だが白衣の男の表情から薄気味悪い笑みが消えることは無かった。


「敵MI、2機沈黙! 残る1機は撤退行動に移る模様!」
「フランゲル、戦闘行動の続行を確認!」
「敵反応、レーダーから完全消失!」
『こちらフランゲル2号機、敵ジナ級MI3機の撃滅完了! 直ちに帰投します』


 その一報を聞いたガレルの口元が緩んだ。
「まぁいい。とりあえず、お前のその能力だけは認めねばならんな」
 そして彼はそう言い残すと指令室を後にした。残されたバイオス博士は、その場に立ち尽くしたまま自分の作品の帰還を見届けていた。
 四脚歩行/ホバー滑走型中型MI『MI-G-05 フランゲル』。細い前脚と大型の後脚を持ち、外観は鋼鉄の巨大な蛙にも見える。四本の脚は悪路走破の為に使い、それ以外は二本の巨大な後脚のホバーで滑走する。比較的重装甲の割には機動性も高いMIである。対装甲三連装60mm機関砲を2丁装備しており、戦車の重装甲ですら僅か5秒で穴だらけにする事も可能である。
 フランゲルの深緑色の装甲が、生みの親であるバイオスの眼鏡に映り始めた。その様は、まさしく「歩く重戦車」と言っても過言ではない。
 ふと、バイオスは呟いた。
「…醜いな…」




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『若端の書斎』から連載を移転いたします。

第2話までは順次掲載予定。

尚、現在第3話執筆中です


あしあと帖

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