「山田君、一本ちょうだい。」
酒を飲むとたばこが欲しくなる。
たばこが体に悪いことは良くわかっている。
それでもやめられない。
何度禁煙に失敗をしたことか。
禁煙をする。
人が吸っているのをみて吸いたくなる。
一本もらう。
もっと吸いたくなる。
自分でたばこを買ってしまう。
そしてヘビースモーカーへの逆もどり。
最近肩こりがひどくなってきた。
無性にイライラする。
そしてのどの痛みと激しい咳。
体調が悪い。
なんだか眩暈もしてきた。
・・・・・・。
まわりが暗い。
ぼーっと白い光が見える。
あれは病室だろうか。
中年の男女が見える。
激しく咳きこむ男の姿。
無精ひげが生えていて、顔も青白い。
そして男の背中をさする女。
おそらく二人は夫婦なのだろう。
場面が変わったようだ。
誰かの葬式の風景。
号泣する女。
よくみるとさっきの病室の女だ。
すると旦那がなくなったのか。
かわいそうに。
女の隣には小学生らしき男の子と女の子。
なくなった男の子供か。
ん?。
太いまゆげと愛嬌のある目。
どこか見覚えがある。
哲也。
息子の哲也じゃないか。
ひょっとして死んだのは俺?。
肺がんにでもかかったのか?
嫌だ、まだ死にたくない。
生まれてくる娘にも会いたい。
もっと生きたい・・・。
「あなた、どうしたの?。大きな声をだして。」
心配そうに妻が声をかけた。
「ああ、夢か。嫌な夢をみた。」
3歳の哲也はすやすやと寝息をたてていた。
妻は現在妊娠中である。
今度こそたばこをやめよう。
生まれてくる娘のためにも。
夢でよかった。
夢で本当によかった。
「先生。このレントゲン写真を見てください。
肺に影のようなものが写っている気がします。」
「ああ。この患者はまだ小さな子供がいるのに、かわいそうだな。
たばこは体に良くないとあれほど注意したのに・・・。」