先読み不可能という映画『あの人が消えた』は、どうだったのか | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 オープニングから、ちょっと古ぼけたマンションへ一人で帰宅する女性が、誰かに追いかけられているというような、恐怖を感じさせる感じだった。果たして、彼女はどうなったのか、その後は分からないまま、タイトルが出てストーリーに入っていく。

 トリックというか仕掛けというか、謎解きというか、不思議な映画だった。タイトルもちょっと「えっ?」と思わせるような映画『あ人が消えた』(大野裕監督・脚本)だった。登場人物の全員が怪しいし、次々と人が消えていくという噂のマンションが舞台で、その謎に運送会社の社員でweb小説の「スパイ転生」にハマっている配送担当の若い配達員が、挑んでいく。

 総選挙を控えて、テロリストがそのマンションに潜んでいるという報が入り、そのことが一つの核となって、犯人探しとなっていく。一方で、若い配達員は自分が愛読しているweb小説の女性著者がここに住んでいるのではないかということで、そのことを意識し始めていく。

 そして、やがて彼自身も巻き込まれていって、犯人探しをしていくうちに、誰が犯人なのか、誰が怪しいのか、どんどんミステリー要素が増していく。

 そういう意味では「"先読み不可能"ミステリー・エンターテインメント」というキャッチコピーも、あながち誇張したものではないな…と思わせてくれた。

 ストーリーとしては、その犯人探しというか犯人当てのつもりでいたのだけれども、話はどんどん、あれよあれよと思わぬ方向へ進んでいく。そして、配達員が見た現象などの辻褄合わせが進んでいくのだけれども、これらの一つひとつが案外面白いし納得いかせてくれる。 

 こういう作品の常として、一番怪しそうな人物は犯人ではなく、一番関係なさそうな人物が犯人だというケースがパターンでもあるのだ。ボクとしては、そんなつもりでも観ていたのだけれども、果たしてこの作品ではどうか。

 やがて、それぞれの住人の正体がバレていくのかと思うと、さにあらずで、このあたりは、最後までタネが明かされない。

 そして、最後の最後になって、オープニングの伏線が分かるのだ。そういう意味では、なかなか先読みできない楽しさはあった。大どんでん返しというか「えっ? そうなっていたのか」と思わせる展開になっていく。

 主演は高橋文哉という若い俳優。そして、ヒロインというかweb作家が北香那という女優で、どちらもボクはあまり知らなかった。ただ、田中圭や坂井真紀、染谷将人に菊地凛子と脇が上手に固められていた。なぜか梅沢富美男が梅沢富美男として登場もしている。そうした、ちょっとしたユーモアもエッセンスになっていたのかなぁとも思えた。