少し面白い判断が出たので。
先日、広島県警が詐欺事件の証拠品として保管していた約8500万円が盗まれた事件で、その当該の詐欺罪で公判中の被告人自身が、県に全額の賠償を求めるとの訴訟を提起していたところ、広島地裁は請求を棄却したというニュースに接しました。新聞報道では、被告人には証拠の返還請求権がないため、権利侵害がなく、請求棄却となったようです。
これを見て、「なら、警察署から証拠盗み放題だな」というのは明らかに誤りです。なぜなら、本件の原告は刑事被告人であり、仮に彼が有罪となれば、当該の8500万円は刑法19条1項3号の犯罪収益物件として没収の対象となるからです。つまり、「刑事被告人との関係では権利侵害がなく国賠法上違法ではない」に過ぎません。当然、この8500万円の行方については、窃盗罪などの財産犯が成立し得ます。
もっとも、刑事被告人には無罪推定原則が働いており、彼が無罪判決を受け、それが確定した場合はどうかという問題があります。このとき、8500万円の取得自体に争いがないとしたら、それは還付の対象となり得ます(刑事訴訟法123条、同346条参照)。本判決に問題があるとすればここでしょうが、こればかりは判決文を見ないことにはわかりません(判決文が公表されるのは1か月先かもしれません)。
少なくとも、被害者還付はある(刑訴法124条、同347条)以上、仮に被告人が有罪判決を受けたとしても、詐欺被害者から同様の訴えが提起されれば、請求が認容される可能性はあると言えます。
さらに、訴訟の立て方として、証拠というのは被告人にとっても有利になる性質のものもありますから、そういうものが盗難された場合、「防御権侵害」という形で国賠法1条1項により慰謝料請求という形をとることはあり得るかもしれません。しかし、金銭の場合、金銭独自(例えば、その番号の紙幣など)に意義があることは少なく、その点では防御権侵害と言える場面は少ないでしょう。
このような判断の場合、安易に結論のみを見るのでなく、その結論に至った理由を精査しなければならないという格好の材料だと言えます。



