危険犯という概念

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なんだか刑事法の話題は久々な気がします。
今日のお話は犯罪の種類に関わるものです。なぜこのお話をするかというと、それが既遂時期に関わるからです。

犯罪には、法益侵害という結果が要求される侵害犯と呼ばれるものと、そこまではいかず法益に対する危険を及ぼしたということを処罰根拠にする危険犯と呼ばれる類型があります。前者の典型例は、殺人、傷害、窃盗などです。対して、後者の例は、放火、文書偽造などがあります。
侵害犯の場合には、当該の構成要件の保護法益が「侵害」があったときに当該の犯罪が既遂となります(ただし、既遂によって即時に終了するとは限りません)。しかし、危険犯の場合にはそのような一見分かりやすい「法益侵害」ではなく「法益に対する危険を発生させた」、つまり、法益の危殆(キタイ)化が生じたことによって、可罰性を肯定する結果無価値(違法性)が生じることになります。したがって、危険犯というのは、侵害犯に比べて、処罰の時的範囲の前倒しが生じていることになります。未遂犯を(具体的)危険犯だと考える場合には、この考え方がより明確になります。

しかし、危険犯概念の効用というのはこれに限りません。それは「可罰性の不明確さ」と関わるものです。「危険」という概念自体が一定の幅を持った概念であり、可罰的な危険発生の段階を定めることは必ずしも容易ではありません。とりわけ、現在の通説的理解では、危険犯を、個別的な危険の発生についての認定を要求する具体的危険犯と、抽象的な危険で可罰的な危険を肯定する抽象的危険犯が存在しており(もっとも、伝統的な理解では、条文に「危険の発生」を要求するものが具体的危険犯、そうでないものが抽象的危険犯だとされていますが、これはいくつかの場面で維持できていません)、具体的危険犯の場合にはその認定が感覚的になりかねません。では抽象的危険犯の場合はどうか。実は抽象的危険犯の場合には、このような困難さが少なくなっています。なぜなら、抽象的危険犯の多くは、条文が規定した行為を行えば即犯罪の成立が肯定される挙動犯だからです(なお、挙動犯であれ、侵害犯であることもあります。典型例は住居侵入等罪です(刑法130条))。また、挙動犯ではなく、条文上の特定の結果発生が要求される結果犯であったとしても、当該の結果が発生すれば犯罪の成立が肯定される以上、問題はその「結果」の理解になるからです(抽象的危険犯であり、結果犯だと考えられる典型例は現住建造物等放火罪(刑法108条)です。同罪は建造物等の「焼損」を結果として要求しています)。
こう見てくると、抽象的危険犯の場合には、当該の行為や結果の中に危険概念を織り込んで解釈されるため、その危険発生の具体的認定を避けることができ、明確に処罰範囲を確定することができるという効用があるとみることもできるのです。

気をつけなければならないのは、いくつかの犯罪において、当該の条文を一見すると侵害犯のように思われるけれど、実は危険犯だとされているものがあります。その典型例が、名誉毀損罪(刑法230条)や業務妨害罪(刑法233条、234条)です。これらは、条文にそれぞれ、「名誉を毀損した」とか、「業務を妨害した」と書かれていますが、実際に「名誉を毀損した」ことや「業務を妨害した」ことは必要ではなく、その危険が発生していれば可罰的違法性が肯定されています。したがって、「名誉の毀損が証明されていない!」とか「業務が妨害されたことが証明されていない!」という反論は、刑法理論を知らない素人の反論であり、受け入れられないことになります。こういうところにも知ったかぶりかどうかの試金石が隠れています。

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