被害者「側」の過失

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次の事例を見てみましょう。
AとB夫婦が乗っていた車とYが運転するトラックが衝突し、Aが死亡し、Bは傷害を負いました。そこで、BからYに対して不法行為に基づく損害賠償を請求した(民法709条)のですが、運転をしていたAにも過失があったというとき、Bの請求した損害賠償請求は過失相殺(民法722条2項)がなされるのでしょうか。

この事例を見るとき、2つ確認をしておく民法知識があります。それは、上記の例のBはAに対しても本質的には民法709条に基づく損害賠償請求ができるため、本来はBはAとYに対して共同不法行為に基づく損害賠償請求ができる(民法719条)のです。そして、共同不法行為の場合、損害賠償債務は不真正連帯債務と呼ばれ、AとYのいずれにも全額請求が可能であり、AとYの負担割合の調整はAとYの間でなされることとなります。
上記の例で仮にAに対する賠償請求をするとなると、Aが死亡しているため、Bを除くAの相続人が被告となるのですが、それがなされなかったのは、AとBが夫婦関係にあったというところにミソがあります。
BがYを相手に損害賠償請求訴訟を提起した場合、本来その全額を勝ち取ることができそうです。しかし、この事件を判断した最高裁判所は、「被害者本人と身分上、生活上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失」が存在し、それを理由として過失相殺をすることが「加害者が、いったん被害者である妻に対して全損害を賠償した後、夫にその過失に応じた負担部分を求償するという求償関係をも一挙に解決し紛争を一回で処理することができるという合理性もある」ことから、Bは無過失でありながら、Aの過失を理由にその過失割合分だけ過失相殺をすることを認めたのです(昭和51年3月25日最高裁判所判決)。

この判断のなされる前の昭和34年に最高裁は、例え被害者本人に事理弁識能力がなくとも、「被害者側」という一群のグループの誰かに過失があれば過失相殺ができるという、「被害者側の過失」の法理を認めました。
上記の昭和51年判決の事案でもこの「被害者側の過失」の法理を適用したのです。ただ、この昭和51年判決には注目すべき判示があります。それが「夫婦の婚姻関係が破綻にひんしているなど特段の事情のない限り」という留保です。この留保から見えてくるのは、昭和51年判決の事案では「財布はひとつ」といえる事情が存在しているということです。したがって、単に恋人を乗せていたとしても、しかもそれが婚約間近だとしても、事故を起こした恋人の過失を上記のBの立場の人間に転嫁させることはできないのです(平成9年9月9日最高裁判決)。

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