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インタビューようやくアップ!
3ヶ月前くらいに受けたインタビュー。
ようやくアップされました!
さすがロシア!
どうなってるのかなあ、と思っていたらいきなりのアップ。当然、アップしました、とかの報告も、遅くなってすみませんでした、とかもありません。
そういうのがロシア!
そんなわけですが、楽しんでみてくださいね!
https://www.youtube.com/watch?v=ZuObgQDVx6g&feature=youtu.be
ちなみに私は相当な二日酔い状態でした!
「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ⑤
「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ⑤は、ロシアの撮影現場での日本人に対する待遇や、昨今の撮影事情について解説していきたいと思います。このシリーズ、おそらくこれが最終回の予定です。
ロシアの撮影現場には日本のように俳優さんにマネージャーさんや付き人が帯同するということはほぼありません。例えば、連続ドラマ「ゾルゲ」でゾルゲを演じたロシア人民芸術家のアレクサンドル・ドモガロフさんも現場にはひとりで来られてひとりで帰っていました。ドモガロフさんはロシア人なら誰もが知る大俳優さんです。私の経験したこの7年間の現場の中で、付き人やマネージャーを帯同させて現場に来ていた俳優さんは、アホータ・ナ・デイアボラの時の主演のセルゲイ・ベズルーコフさんだけです。かれは大きな劇団の芸術監督で超多忙を極めていますから、一緒にいた人は付き人というよりも原稿書きなどのアシスタントという感じで、役者の仕事だけならかれにはアシスタントは必要無いような感じでした。なので、ロシアの俳優さんは基本的にひとりで現場に来ます。これはシリーズ第1弾でも説明させて頂いたように、エージェントのシステムが日本のような芸能事務所的ではないことも一つの理由です。
それともうひとつは、現場で役者さんの世話をするスタッフが必ず居る、ということも大きな理由です。ロシア語でアシスタント・パ・アクチョーラムというのですが、役者のスケジュール連絡に始まり、衣装メイクの時間の段取り、楽屋から現場への呼び出し、コーヒーやお茶、食事のアテンド、行き帰りの車の段取りなど、至れり尽くせりでフオローをしてくれる役職のスタッフがきちんといるのです。日本なら助監督と付き人を合体させたような役割のスタッフです。だいたいは若い女性の場合がほとんどです。初日にいろいろコーヒーやお茶の好みを聞かれて、例えばコーヒは砂糖なしでミルクだけ、とか言えば頃合いを見てそれを持ってきてくれたり、夏の暑い時だったらペットボトルにレモンを入れたのを持ってきてくれたり、昼食前になればメニュー表を持ってきてどれがいいか聞きにきたりと、役者さんが現場で快適に過ごせるように、微に入り細に入りフオローしてくれます。しかも、だいたいは現場にアシスタント・パ・アクチョーラムはひとりです。凄いですよね。
現場の行き帰りに関しては基本的に制作サイドが車で送り迎えしてくれます。役の大小や俳優さんのランクによっては最寄りの駅までだったりもしますが、だいたいは早朝家の前まで迎えに来てくれて、帰りも家の前まで送ってくれます。これは本当に楽です。朝起きて指定された迎えの時間に家を出ればそこに車が待ってくれていて、そのまま乗ったら現場に到着し、アシスタント・パ・アクチョーラムが迎えてくれて、そのまま衣装メイクを済ませて楽屋に入ると好みのコーヒーが用意されているという、俳優さんにとって何のストレスもない環境がロシアの普通の現場です。
それと日本とまったく違う部分は、朝必ずその日のシーンの台本が印刷されて楽屋に用意されているということです。これにはびっくりしました。台詞なんかは覚えているのが当たり前ですし、現場に台本を持ち込まない主義の俳優さんだっているのが日本です。しかし、ロシアの現場は必ずこれがあります。私の場合、せっかくのその日の台本は家に持って帰ってコピー用紙になるだけなのですが、これがないとアシスタント・パ・アクチョーラムに印刷してくれと言ってるロシアの俳優さんもたまにいます。
日本から俳優さんに来ていただいた場合などは、これにプラスして通訳がスタンバイします。なので、日本から来た俳優さん達は、現場での扱いの丁寧さやピリピリしない現場の雰囲気に、本当に心地よい時間を過ごすことが出来て芝居にも集中することが出来ます。スタジオ撮影の時はスタジオの楽屋ですが、ロケに出れば基本的に俳優さんは楽屋ワゴンが楽屋になります。これもロシアスタンダードです。こういう撮影の雰囲気は日本の俳優さんにぜひとも味わっていただきたい部分だといつも私は思っています。役者にとって良い環境で芝居することがどれだけ豊かで芸術的に精神が満たされるかという経験をしてもらいたいのです。
そして質問の多かったギャラの部分ですが、ロシアの俳優さんのギャランテイのシステムは「基本日払いという概念」です。ですからギャラの計算方法は「1日いくら」です。なので、契約書の段階でギャラに関して「1日いくら」で「撮影日数が何日間」みたいな形になります。この「1日いくら」の高い安いがすなわち俳優さんのランクです。主役になるほど1日の金額も高くなりますし、撮影日数も多くなります。なので必然的にギャラも多くなっていくのですね。
そして支払方法ですが、ここ1~2年は税務関係がどんどんロシアでも厳しくなってきて、銀行振込方式が主流です。しかし3年前くらいまではギャラ手渡しがほとんどでした。その日の撮影が終わるたびに毎回1日分を「手渡しでギャラをもらってサインする」というシステムでした。これも私には大いなるカルチャーショックでした。その日のギャラを撮影終わりで、現金で手渡しされるという状況に感動すら覚えました。最近の銀行振込システムでも、毎月何日間かあるそれぞれの制作会社の経理上の振込日に、必ずそこまでに撮影に行った日数分が振り込まれます。なんらかの事情で制作会社にお金がない場合に入金が遅れることはありますが、お金が普通に回っていれば基本的にはすぐに振り込まれます。
そして、日本には無いギャラのシステムとして「残業の概念」があります。基本的に入りの時間から12時間を超える拘束になると1時間10%の残業代がギャラに加算されます。2時間だと20%。2時間を超えるとギャラが2日分になります。スタッフにも残業代はあります。ただ、監督やチーフカメラマン、助監督など撮影の時間をコントロールできる立場の人には残業代はありません。むしろ契約によっては残業を出しすぎると罰金の対象になったりもします。
それから撮影隊が泊まりでロケに出たりしたら、スートチナヤという生活費が出ます。これも1日いくらで滞在日数分出ます。ゾルゲの撮影隊が上海に行った時は、スートチナヤが日本円で1日4000円相当でした。これは余談ですが、クリミア半島のロケなどの時には夜にいく場所も無いし、朝も早いのでスートチナヤを使う場面もなく、それはそれでお金が貯まっていったのですが、ゾルゲの時は日本人俳優さん達との再会が嬉しくて、ホテルの目の前の日本風居酒屋「桜木屋」で全部飲んで使っちゃいました。
日本からの俳優さんがモスクワなどロシアの現場に呼ばれる場合はギャラ以外に、飛行機代、宿泊費、滞在費(上記のスートチナヤ)、空港への送り迎え、通訳ギャラなどの予算がかかります。連続ドラマへの出演ともなると、何度か日本とモスクワを往復しなければならないので、ロシア在住の俳優さんに出演してもらうよりも予算が大幅に多くかかります。昨今のロシア経済危機の煽りもあって、中々それだけの予算を確保できる現場が少なくなってるのも現実です。ですから、日本から俳優さんに来ていただけるような現場というのは、必然的に予算も多くあって監督やロシアの俳優さんも超一流というような作品となります。ゾルゲの現場はまさにそのような現場でした。
3年前の突然のロシア経済危機以降、現場の数が減っているロシア。しかし、それによってロシア撮影界にプラスになってることもあると私は感じています。現場の数が減って予算も絞られる中、撮影のスピードも要求されるようになってきたので、よく動いてバリバリ働くスタッフ以外は生き残れなくなってきた、という側面です。ここ2年くらいで、現場のスタッフの動くスピードがかなり早くなってきたな、と私は強く感じています。よく働くスタッフはまた声がかかるので、常に忙しく働いていますし、仕事のないスタッフは全くひまという二極化がはっきりしてきました。日本よりもさらに狭いロシアの撮影業界ですから、働きぶりの評判はすぐに伝わりますし、制作会社のプロデユーサーも常に優秀なスタッフを確保したいですから、真面目でよく働くスタッフはすぐに目に止まり仕事が途切れることがありません。
旧態依然としたロシア風なのんびりした現場から、スピード感のあるロシアの現場へとどんどん時代が変わってるなとはっきり実感出来る昨今です。スタッフの年齢もどんどん若くなってきています。この移り変わりは見ていて本当に興味深いですし、ここで監督として彼らと一緒にどう仕事していくべきか、また役者としてどう個性を発揮していくかを日々考えられるのは本当に幸せな毎日だなと感じるロシアでの日々です。
世界に冠たる演劇大国ロシア。
その国の俳優さんと様々な立場でガチで仕事できる芸術的な素晴らしさを、機会があれば日本の俳優さんにもぜひとも味わってほしいと感じています。きっとその体験はその人にとって大いなる感動を巻き起こし、素晴らしき芸術的な人生の発展へと繋がっていくと信じています。
5回にわたり解説させていただいた「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ。たくさんの方に読んでいただき感謝しております。するどいツッコミとか個人的な質問とかいろいろいただきありがとうございました。それぞれの立場から賛否両論あると思いますが、ここに書かせて頂いた全ての事は、身銭を切って単身ロシアに身を投じた私が現場で感じた本当の事だけです。
これからまたさらにガンガンいきたいと思っています。
これから皆様と何かの縁を元に、世界のどこかで現場を共有できる日を楽しみにしております。
全5回最後まで読んでいただきありがとうございました。
また今回もfacebookにも連動させるのでそちらにいろいろ質問してくださいね。
ロシアで役者の仕事をするには④
「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ④は
「日本人の私たちはロシアの現場でどういう演技を求められるのか」
です。前回は書いてるうちに「日本人としてどうあらねばならないのか」の「海外日本人侍精神論」的になってしまいました。今回はロシア人の俳優さんたちとロシアの現場で一緒に仕事をする時に「日本人としてどういう演技を求められるのか」に具体的に言及していきたいと思います。
舞台芸術の国ロシア。そこの演劇大学の授業は「いかにそこに実際に存在するか」を極めていくことに終始すると言っても過言ではありません。お芝居も映画もそれは虚構です。しかしそこで演ずる俳優さんはそこに実際に存在しなくてはいけません。スタニスラフスキーの言葉の中に
「せめて舞台の上だけはお芝居しないでください」
というようなのがあります。まさにこれが役者の全てだと私は感じています。この言葉の本当の意味と深さを感じ、なるほど~、と思われたならそれは素晴らしい感性を持っている役者さんということだと自信を持ってください。そして後はいかにそれを映画や演劇の現場で体現していくかだけです。この言葉には演技論を超えた人間根本の無意識や意識の問題も関わってきます。
役者は肉体を使い、役を通してそれを体現していきますから、それに伴う様々な肉体トレーニング方法や精神の解放、コントロールなどの方法が世の中に存在しています。先生によってそれを行っていく様々な自分なりのメソッドがあり、ロシアの学生たちはそれに触れて大学の4年間や5年間でいつの間にか自然にそれが出来るようになっていきます。おそらくこの部分は日本でもプロでバリバリやっている俳優さんならば、それぞれに自分の編み出した肉体トレーニングや本番への集中の仕方などの「自分メソッド」をもっていると思います。
現場においては、ロシアの俳優さんは限りなく解放していくことで役にアプローチしていくのに対して、日本の俳優さんは限りなく集中していくことで役にアプローチしていく、という違いがあると感じています。研ぎ澄ませていく日本の俳優さんの本番へのアプローチと、どんどんオープンに開いて解放していくロシアの俳優さん。
この違いは本当に面白いです。ともすれば日本の現場はピリピリ感が支配し、大御所の神経質な俳優さんが現場に入ると空気がピーンと張り詰めて、無駄口など叩こうものなら即睨まれてクビになるような緊張感があります。ゆるい雰囲気だと「気が緩んでるぞ、お前。そんなので芝居ができるのか」くらい先輩の俳優さんや監督から叱られます。その点ロシアは、普段自分を縛るものや支配からなるべく解放されて、世間のしがらみなどを一切身に感じさせない状況で役に立つ、という解放メソッドですから、俳優さんにとっては人生のいろんな状況の中で最も束縛感のない場所が、撮影の現場であり、舞台の上だと言えます。
そもそもそこに大いなる違いのあるロシアと日本。精神の状態を学校の休み時間と授業中に例えると、現場が休み時間なのがロシアの俳優さん、授業中なのが日本の俳優さん、みたいなものです。なので、ロシアの現場で一緒になった俳優さんで、ビクビクしていたり緊張していたりする人を一度も見たことがありません。失敗したらどうしようとか、NGだしたらみんなに迷惑かけるな、とか微塵も思ってないし、日本のように評価を気にして芝居したりするということもありません。この部分は私にとっては本当にカルチャーショックでした。最初は適当に見えて腹も立ちましたが、解放されたリゾート気分でビーチにいる人に、お前何寝そべってるんだ、と言っても言ってる人が頭おかしいわけです。そもそも現場での精神状態のアプローチ方法が違うのです。
そういう中で日本人的にビシッと規律正しく集中して演技するメソッドは、逆にロシア人には本当に新鮮らしいです。
セリフも最初からほぼ完璧で、芝居の動きも言われた通りにパーフエクトに動ける日本人の正確な演技に監督もカメラマンも本当に驚きます。特に一度説明したら説明した通りに体現できる細かい動きは日本の俳優さんの世界に誇るテクノロジーです。こういうテクノロジーは日本の緊張感バリバリの現場でなければ鍛えられない部分の技術です。怖いカメラマンに怒鳴られたり、監督に何度も繰り返し現場でやらされたりする中で、若いころから現場で鍛え上げられた技術は日本の俳優さんの才能の一つ。実はこれは世界中でものすごく高く評価されています。
日本は競争社会ですから、日本の現場でそれが出来なければ次がありません。なので、全員必死で緊張感を持って現場で芝居しますから、生き残ってプロとして日本で仕事出来ている俳優さんは世界のどこに行っても、そのテクノロジーでやっていけるんだなと感じました。
それと、日本の俳優さんの演技はとてもナチュラルに外人には見えるそうです。
普段からゼスチャーの小さい日本人の動きや、周囲に合わせて感情をなるべくコントロールする日本人の日常性が芝居になると大袈裟さが無くて、外人から見ると丁度良い芝居になるんです。この部分は、「海外と比べて日本の俳優さんの演技が下手だ」と言ってる人とは逆の意見になると思いますから、ツッコミも山ほど来るかもしれません。これについて私は現場での事実を述べています。その証明として世界の名監督達は日本の俳優さんに対して私と同じことを言っています。実際に、ロシアの世界的な大監督であるソクロフもコンチャロフスキーも日本の俳優さんの技術が世界でもトップクラスだ、と全ロシア映画大学の特別講義で言っていました。
なので、ロシアの監督が日本人の俳優さんをキャステイングする時にはそういうイメージで見ながら、そこがどこまで出来る俳優さんかどうか、そして元々ロシア的なその場所で本当に生きて呼吸できているかどうか(これは世界中どこに行っても役者の根本的な部分ですね)、を見ています。
ロシアは第一弾で書きましたように、基本的にほぼオーデイションで役が決まっていきます。ということはそれを見て判断する人もたくさんオーデイションに触れているということです。ですから、そのあたりの選び方が自然に身についてますし、メインキャストは最終的に何重にもクリアしていかなけらばならないですから、意外に日本よりも役者さんの実力に対して真っ当に評価してくれている、というかきちんと実力通りにオーデイションが決まるなと私は感じました。
まとめておきますと日本人に求められるのは、
「日本人の俳優さんとしての集中力とテクノロジー。そこからくる微妙で繊細かつ正確な動き」
です。そしてもちろん役者としてそこに生きて存在する、というのは世界共通の役者としての条件です。ロシアの現場は何度かこのシリーズ内でも書きましたように、役者さんにとっては「解放していく」方向で時間が流れています。ですから、例えばセリフを間違ったとか、動きが反対になったとか、役者さんのNGでもう一回になったとしても誰も役者を責める人はいませんし、怒鳴る人もいません。日本のように現場で監督がネチネチ新人をいじめるとかいうことは皆無です。監督は役者さんに尊敬を持って接してくれますし、役者も監督にそういう態度で接します。なので、少なくとも役者さんにとっては束縛感が皆無な場所が舞台や映画の現場です。そういう現場だからこそ、普段ピリピリした教育的な現場で仕事している日本人の役者さんにとって、ロシアの現場は本当に安心して集中していける環境だとも言えます。日本から来た俳優さん達は口を揃えて「ロシアは本当に芝居だけに集中できて楽しい環境だ」と言ってくれます。
「日本人としてどういう演技を求められるのか」
に関して何となくでもイメージをつかんでいただけたでしょうか。一度でもロシアに来ていただいて現場で演技していただくと「なるほど、その通りだ」と思っていただけると思いますが、日本で仕事していると緊張感のない部分とかイメージが難しいかもしれません。
具体的な部分が具体的に伝わったかどうか微妙ではありますが「日本人の俳優さんの世界の中での特徴」の部分もかなり重要だと私は感じています。そこがなければ何人でも良いわけですから、やはり日本人の役者としての特徴は欲しいわけです。
また今回もfacebookにも連動させるのでそちらに質問してくださいね。
これで最終回と思っていましたが、俳優さんのギャラの条件とか現場がどんな感じかとかの部分にも質問があったので、次回はそれを解説したいと思います。やっぱりそういう部分はみなさん興味ありますよね。
今回も長い文章を読んでいただきありがとうございました。
「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ③
「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ③は
第1弾「ロシアで役者の仕事をするには」
第2弾「そもそもロシアではどうやって役者になるか」
で解説させていただいたような中でバリバリやっているロシア人の俳優さんたちとロシアの現場で一緒に仕事をする時に、
「日本人の私たちは何をしなければならないのか。どういう演技を求められるのか」
について今回の第3弾は解説させていただきたいと思います。
ロシアにおける日本人への評価はとても高いです。
これは役者や監督などの映画演劇の世界だけでなく、どの分野においても日本人のポテンシャルや人間性、また日本ブランドの車や電気製品、衣料などなどをとても素晴らしいものとして認めてくれています。誰に聞いても「日本が好きです」と言ってくれます。日本人というだけで、すでに一目置かれる存在でいられるのがロシアという国と言えます。これは、私がこの国で受けた最初のカルチャーショックでした。
何故、それだけ日本製のものが尊敬されているのか?
と聞くと「すべてがとても正確に動く」「ひとつひとつの機能が優れていて機能美も兼ね備える」「デザインが洗練されていて形式美と様式美がある」などとロシア人は答えます。
じゃあ、何故日本人は素晴らしいの?
と聞くと「約束を守り時間に遅れ無い」「ミスが少なく仕事が早い」「言った事に責任を持つ」「常に全体の事を考えて行動する事が出来る」「公共のものでも自分のもののように丁寧にあつかう」「とても礼儀正しい」「何事にも献身的に尽くす」などと、どんどん嬉しい事を答えてくれます。
しかし、上記のような事は私たち日本人にとっては小学校時代から教育されていて、当たり前のことというか普通の事です。そういう人格じゃなければ社会で働いていけませんし、たとえ働いたとしてもうまくいきません。特に日本の芸能界は1に挨拶、2に礼儀、3、4がなくて5に挨拶。というくらい、まめにあいさつをきちんとしなければ、あっという間に相手にされなくなります。日本の芸能界で不義理は最大の罪。ようく考えてみれば、あいさつも礼儀も全体の和を保つために大切なものです。やはり日本は全体の和を大切にする国だったんだと、ロシアに来て初めて、日本のこの特徴が素晴らしいものとして世界で評価されていると気付きました。だって、日本ではそれは当たり前でしたから。
そんな目で日本人を見ているロシア人。演劇や映画界の人も実は全く同じように日本人を見ているのです。私が全ロシア映画大学の監督科編集専攻に籍をおいていたとき、師匠のタプコワ先生は私に「私が世界で一番好きな俳優は三船敏郎。そして監督は黒澤明」といつも言ってくれて、本当に大切にしてくれました。師匠が大切にしてくれるので、周囲のクラスメートも当時ほぼロシア語の話せなかった私を本当に良く助けてくれました。クラスメートはみんな今では偉くなったので、とても心強いロシアでの同志です。彼らと1年に1回くらい師匠を囲んで飲み会をやるのですが、彼ら曰く「ジュンスケはやっぱり流石日本人、いつもまじめに授業に来て、必ず課題をきちんと期日どおりに出してた」と言ってくれますが、私に言わせれば実は全く逆でした。授業も緩いので、かなり適当にやってましたし、「日本ならこんな感じじゃヤバいよな、甘々だな、俺」とかいうレベルだと思っていたのに、ロシアではそれが超真面目なレベルなのです。
逆に言えば、それくらいロシアは緩いとともに、日本がどんだけ厳しい競争社会かという証明でもあります。日本で勝ち抜ければ世界中どこに行っても勝ち抜けるだけの競争力が身についてるんだ、と実感しました。
「日本人は何をしなければならないか。」という最初の問いの答えは、
「日本人的にきちんと事にあたる」
という事だと思います。芝居の技術や内容の前に「やっぱりさすが日本人だな」という人間的信頼をロシアでも発揮することが、意外にも重要なんだと悟りました。ロシア人は適当ですし、仁義も男気もほぼありません。粋という概念も皆無。目先の損得に流されやすいですし、遅刻も日常茶飯事。無責任なミスを責めると単純な言い訳を繰り返します。口約束などあってないようなものですし、他に美味しいことがあればすぐに悪気なく無自覚に裏切ります。そういうところだからこそ
「日本人としての矜持、侍的な精神」
を持って強い気持ちで立つことが重要なのです。それこそが、日本人であることの誇りですし、また世界で日本人として戦っていくためのコツなのだと感じています。これはおそらく演劇や映画の世界だけでなく、どの世界でも同じだと思います。
実はこの部分は私が最初ものすごく迷った部分でもありました。上記のように仁義も何もなく損得に流されるロシア人の中で、侍気質を出して何かに尽くすと応にして利用されてしまうこともありました。それに対して、ロシアの中だからロシア人のようにした方が良い、とアドバイスしてくれるロシアのこの業界に長い日本人もいました。ただ、私はそこでロシアに染まったらそれで終わりだと思ったので、騙されそうになって文句を言いながらも日本人的にすべてやるようにしました。そういう私に「損してるんじゃないですか、やりすぎですよ」と同じ人に言われたりもしました。
結果的には現在のところここ2年くらい、私は常にドラマかけもちで仕事させていただきながら、監督の話も順調に進行させることが出来ています。侍気質で生きていくのが、間違いではなかったということだと現時点では実感しています。
それと、私の尊敬する真田広之さんの何かのインタビューの記事に「ハリウッドの現場で日本に対して何かの質問があったり手助けを頼まれたら、撮影のない日でも無償で現場に行って撮影に協力することにしている。なぜなら私は日本人だから」とありました。真田広之さんでさえそういう姿勢なのですから、私がごちゃごちゃ言ってる場合じゃないな、と強く心に誓いました。
今回は何か「世界で日本人が戦うためのマインドセット」みたいになってきましたね。「どんな演技を求められているか」まで中々たどり着きません。それくらい、
まずは日本人としてどう在るか
が重要だと私は感じてるのです。ちなみにそれに共感してくれて、足掛け9ヶ月の「ゾルゲ」の撮影期間中、一瞬もブレる事なくそうあり続けてくれたウイーン在住の日本人俳優、瀬戸元さんやヒロイン石井花子役の中丸シオンちゃん、お父様のベテラン俳優、中丸信将さんのスタッフからの評価は絶大なる素晴らしさでした。そして私たちが師匠と呼ばせていただいているセルゲイ・ギンズブルグ監督もビデオの中でそういう部分を褒めてくれていました。
それは「日本人としての矜持。侍気質」が損得ではなく「物事や人に対する尊敬」
につながるからだと感じています。ロシア芸術の教育の中で重要なもののひとつに
「物事や人、作品に対する尊敬」
というものがあります。その精神と日本人の人を敬う精神が良い形で調和したのが「ゾルゲ」の現場だったと感じています。まさに
「ロシア芸術と日本の精神性の融合」
がそこにありました。「ゾルゲ」の現場はロシアで「日本人の矜持」を守り続けて来て本当に良かったなと感謝と感動すら覚えた芸術性の高い現場でした。
今回はとりとめの無い内容になってしまいましたね。しかもテーマを全部解説しきれていません。「日本人の私たちは何をしなければならないのか。どういう演技を求められるのか」の中の「日本人の私たちは何をしなければならないのか」に終始してしまいました。
世界を席巻している日本の物や人の素晴らしい部分は、やはり日本人であるところの勤勉さや仕事熱心さ、それを保つ精神性から来ています。日本にいたらそれが当たり前ですし、それが普通です。しかし海外に来たら決してそうじゃなくてもやっていけます。
私が先週まで参加していた「ホテル・エレオン」というロシアの超人気コメデイ連続ドラマシリーズは、監督の用意スタートの声のかかる寸前まで俳優さんたちはスマホ片手に何かやっていました。カメラマンさんが役者の立ち位置とか指定している時でもスマホ見てるんです。日本じゃ考えられないですよね。そういうのが普通の現場だってあります。そういうゆるゆるな現場こそ日本人としての自分が試されると思ってきちんと俳優としてそこに存在出来るか否か、が長い期間海外でバリバリに活躍していけるかどうかの分かれ目になると感じています。
そんなわけで、こういう内容だと賛否両論あってまたいろいろ突っ込まれる可能性大ですが、facebookにも連動させるのでそちらに質問してくださいね。
なので、次回第4弾は今回たどり着かなかった「 ロシアの現場で日本人はどういう演技を求められるのか」を必ず解説したいと思います。楽しみにしていてください。
今回も長い文章を読んでいただきありがとうございました。
ロシアで役者の仕事をするには②
「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ第2弾は、予告通り「そもそもロシアではどうやって役者になるか」すなわち「日本の芸能事務所主導型のシステムとロシアの芸術システムの中の役者の立場の違い」についてです。
日本で役者になろうと思ったら、その第一歩は無数の選択肢があります。どこかの芸能プロダクションや劇団の養成所に入るとか、誰かのワークショップに通うとか、小劇団や芸能プロダクションに所属するとか、誰かの付き人になるとか、他にもおそらくあると思います。東京の居酒屋やレストランに入れば、バイトで働いてる人の中に役者の人が何人かいる確率は高いです。裏を返せば、誰でも役者になろうと出来る、とも言えます。役者の仕事だけで食えてるかどうかは兎も角、役者の仕事に関わっている人の数は日本の場合、莫大なる人数になるでしょう。
そういう人たちに「何をやってる人ですか?」と問えば「役者です」とか「バイトしてますが本当は役者です。年に何回か舞台やっています」とか「本当は役者で、時々テレビ出ています」と言うかもしれません。なので日本では、自分が役者と言えば役者、なのです。資格も何もいりません。
じゃあ、ロシアではどうなのかと言えば、ロシアの俳優さんは全員国立の演劇大学を卒業しています。最近は子役や少年少女の役で若い頃から有名になって、そのまま役者としてやっていく人も出てきましたが、基本的にほぼ98%の俳優さんは国立の演劇大学で専門教育を受けて卒業した人です。国立の演劇大学は昔は5年間、最近は4年間、朝から晩まで日曜以外ほぼ毎日授業があり、その都度その都度の試験などをクリアしながら徹底的に鍛えられていきます。入学時にひとクラス30人くらいだったのが卒業時には20人弱くらいになります。入学試験時期にはものすごい数の入学希望者が大学の前にあふれて試験の順番待ちをしています。入学出来ただけでももはや演劇エリートの第一歩ですが、そこからさらに鍛えられて卒業しないと役者として認められないという厳しい道です。
そういう大学時代を過ごして卒業できた人だけが役者を名乗るのがロシアなのです。なので、今回のテーマである
質問「そもそもロシアではどうやって役者になるか」
答え「国立の演劇大学を卒業すること」
と言えます。国立の演劇大学は大手の4大学として、ギティス、シューキン、シェープキナ、ムハット、がモスクワにあります。モスクワには他にも全ロシア映画大学があり、そこにも役者科がありますから、役者になるための国立の養成カリキュラムを持つ大学がモスクワに5つあることになります。そういう大学はモスクワだけでなく地方都市にもあり、地方の国立演劇大学を出た人はそこの地方の劇場に所属し働くような流れになることも多いです。ただ、地方にいるとモスクワで製作されているテレビや映画のオーデイションに来ることも容易ではなく、必然的に地方の劇団での活躍となっています。なので、役者になりたい人は最初はモスクワの大手4つの国立の演劇大学が映画大学の役者科を目指して入学試験を受けようとします。
地方の劇団と言えば、井上雅貴監督の「レミ二センテイア」という映画は、ヤロスラブリというモスクワから300キロ離れた地方都市で全編撮影されました。この映画に出演していた俳優さんはヤロスラブリの劇団の俳優さんです。要するにロシアはそれぞれの地方都市に演劇やバレエ、クラシック音楽の劇場文化とそれを支える教育システムがきちんと根付いているとも言えます。
現場でロシアの俳優さんと一緒になった時に聞いてみると、だいたいはそのモスクワの5つの大学の卒業か、サンクトペテルブルクの演劇大学卒業かのパターンが殆どです。同様にクラシックバレエやクラシック音楽などの世界も国立の音楽大学やバレエの学校を出た人だけが、バレエダンサーであり音楽家として認められます。そして演劇もバレエも音楽も、ロシア人は基本的に授業料が限りなくゼロに近いです。なぜそれが可能かというと、国からの芸術の保護に関する予算が大きいからです。後述しますが、ロシアの劇団が少ないながらも役者やスタッフに固定給を払えるのも、国からの予算が降りているからです。
そういう芸術に関する専門教育や文化の根付いているロシアなので、俳優さんや監督も芸術家と呼ばれます。日本のように有名人とか芸能人とかいうあいまいな呼ばれ方はしません。芸術家として世間からその立場を認められているのが、ロシアの俳優さんであり監督なのです。
これは余談になりますが、ロシアでは部屋を借りようと思って家を見に行った時、そこに必ず大家さんが来ます。そこでいろいろ仕事についてなど質問されたり何だりするのですが、「私は監督です」とか「役者です」とか言うと一発でOKになります。むしろ、俺の家に住んでくれ、くらい言われます。それくらい、役者や監督というのは芸術家としてこの国では尊敬されているのです。日本で役者です、とか言ったら部屋貸してくれない場合も多々ありますが、ロシアでは社会的立場がそもそも「尊敬すべき芸術家のカテゴリー」に役者や監督はあるのです。
芸術の国ロシア、を支える国の支援。そしてそれを長く続けて来たことによって、一般大衆の中に根付いている演劇や劇場文化。演劇文化が根付いている中での役者になるための演劇教育であり、その後の芸術家としての役者人生なのです。
そういう恵まれた環境の中でロシアの俳優さんは生きています。
私に来る質問の中で時々ある「演劇大学に入るにはどうしたら良いですか」というのにもここで答えておきたいと思います。答えというか段取りとしましては、上記の演劇大学のサイトなどを見て、必要書類を揃えてやりとりしていくというスタンダードな方法しかないのですが、ロシアの大学のそういう段取りは極めて雑でストレスが溜まることが多く、ビザの問題もあり、なかなか前に進ま無いことも多々あります。なんとかそういう煩雑な手続きの部分をクリアしたら、外国人の場合は最初予備科に通って語学の研修やロシアの歴史の研修の授業を受けなければなりません。誰かそういうのに詳しいロシア語堪能な人をモスクワで雇ってお願いするのが賢明かもしれません。1年だけの短期の留学や大学院に通うなど、様々な形でロシアの演劇教育に触れることも出来ますが、それぞれに様々な条件があるので、しっかりと調べてから入学手続きを始められることをお勧めします。
そういう学生になると、モスクワに来てから居住するのはおそらく寮になると思います。寮は古い場合がほとんどなので、嫌な場合は自分でアパートを借りると良いと思います。寮は地方から来たロシア人たちと料金は同じで、安いです。ただ授業料は外国人の場合、4年生の演劇大学ならば年間100万円くらい、映画大学ならその半分くらい、かかります。1年間の留学や大学院などの詳しい金額はその都度変わるので自分で調べてください。
上述したような演劇大学を出た後、どういう道を歩むのかについても解説しておきたいと思います。
大学卒業後、どこかの劇団に所属できることができればそれは理想的なことです。劇団に所属すれば、日本円の今のレートで言えば10万円もいかない額ですが固定給が出ます。ロシアの劇団はレパートリー制ですから、その演目の中で自分の演じる役のリハーサルや本番を日々こなしながら、オーデイションを受けてテレビや映画に出るチャンスを虎視眈々と狙う日々が日常です。劇団に所属出来無かった場合は、フリーの立場でオーデイションを受けたりしながら日々を過ごします。フリーとは言っても最近はそれぞれにエージェントがいる場合がほとんどです。エージェントと役者の関係は前回の記事に書いた通りです。
今回のテーマの「日本の芸能事務所主導型のシステムとロシアの芸術システムの中の役者の立場の違い」の中の「ロシアの芸術システム」の部分が中心の解説になってしまいましたね。前回の記事と合わせて、その違いや芸術システムの部分を感じていただければ幸いです。
長くなってきましたので第2弾の今回はこの辺りで。今回解説させていただいたような教育システムの中でバリバリやっている俳優さんたちとロシアの現場で一緒に仕事をするときに、日本人の私たちは何をしなければならないのか。どういう演技を求められるのか、について次回の第3弾は解説させていただきたいと思います。
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今回もありがとうございました。