《何以笙簫默》 第6章 離合(2) | Silent Separation

Silent Separation

作者:顧漫

中国小説「何以笙箫默」(マイ・サンシャイン)の
日本語解釈文です。
ドラマとは若干異なっています。


テーマ:

Part.10 第6章 離合(2)


結婚3日目の晩、モーションはイーチェン宅の居間で、自宅から運びこんできた山のような荷物を前に頭を抱えていた。

こっちのものはキッチンに置いて、こっちは書斎に置くとして、まだこの撮影機材があるから、暗室が一間必要だわね……私の洋服はどこに置けばいい?主寝室?

電話をかけて彼に訊こうかしら?彼女は電話を凝視する。

メロディックなベル音が鳴り響いた。もし似たり寄ったりのベル音であったら、反射的に思わず電話を取ったことだろう。

ドアを開けて、モーションはぎょっとした。この全身部屋着に身を包んだ女を見知っている。シャオホンがよく話のネタにしていた「女狐」さんだ。彼女のほうも不可解な面持ちで、それとなくモーションを観察しながら尋ねる。 「イー……ホー先生はご在宅ですか?」

「出張に行きましたけど。どうぞ、お入りになりません?」 モーションは丁重に言う。

「ああ、それじゃあ遠慮なく」 彼女は入って来て、自己紹介する。 「私、ウエンといって、かつてホー先生のクライアントだった者です。下の階に住んでるんですよ」

彼女はモーションを目にして、疑問がわく。 「私たち、会ったことがあるかしら?」

この人、私をまるで覚えてない様子ね。モーションはうなずき、共通の知人の名前を口に出した。 「クー・シンホン」 これはシャオホンの本名だ。

「そうそう、あなた。彼女のお見合いに付き添ってた人でしょ!」 ウエンさんははっと思い出し、何か考えをめぐらす顔で告げる。 「あらま、あなたとホー先生がお知り合いだったなんて。なるほどね」

モーションは意味がわからず彼女を見る。

ウエンさんは肩をいからして言う。 「訴訟の件で私の仕事終わりにホー大先生自らわざわざ足を運んでくださってたのも無理はないって話。そうだったんだ、お目当てはよそにあったわけね。あなたのおかげだったのか」

彼女は手にした袋をモーションにほうる。 「私が作ったワンタンなんだけど、作りすぎちゃって持って来たの。なんだ、私の一人相撲だったとは」

この女性の外見は小悪魔的だが、シャオホンとの口論からもわかる通り、口ぶりはソツがなくあっけらかんとしている。モーションは肯定することができず、かといって否定するわけにもいかなくて、かなり気まずい思いをした。

ウエンさんは手を振る。 「じゃあ、私はこれで失礼するわ」 モーションは玄関まで彼女を見送るが、突然シャオホンのことを訊かれた。 「あの子、いまだに引きも切らずお見合いをしているの?」

モーションはその目の奥のかすかな関心を捕らえ、頭を振って答える。 「いいえ。もうすぐ決まりそうですよ」

ウエンさんの目が光る。 「ゲームソフトを作ってる人じゃないでしょうね?」

「ええ、外科医です」

「それならよかったわ」 ウエンさんはいかにも安堵した表情を見せた。 「ようやく踏ん切りがついたのね。私を恨まないでって伝えてもらえるかしら。あの男が愛してたのは私じゃないから」 ここまで話して一転、気が変わる。 「ううん、やっぱり今は伝えなくていいわ」

彼女は帰り、モーションは手にしたワンタンを見ながら、少しの間ためらうが、電話をつかむと、イーチェンの携帯番号を押した。

電話のベルが3回鳴った後、つながった。

「もしもし」 彼の低く沈んだ声が伝ってくる。

「もしもし」 モーションは一声発してから自分の声が普段と違うことに気づいて、急いで心を静め、努めて平静を装う。 「私ですけど」

「何か用か?」

「えっと、あのう……たった今、下の階にいるウエンさんがワンタンを持って来てくださったの。先日、あなたのおかげで助かったともおっしゃってた」 モーションは話し終えた瞬間、出だしから自らつまずいたと気づいたが、もはや後の祭り。

案の定、電話越しに数秒間の沈黙の後、彼のからかうような声が聞こえてくる。 「何を疑ってる?安心しろ。仮に俺がかつて彼女に対してどういう思いを抱いていたとしても、あくまでも‘未遂’だ」

言わんとするところ、「すでに釣った魚」の私には質問する資格がないということだろう。モーションは冷静に話題を変える。 「納戸を暗室に変えてもいいか、ちょっと訊きたくて」

「お好きに。他に重要な話があるか?」

「ええ……あの、私の荷物はどこに置けば?」

電話口でちょっと言葉を途切れさせた。 「奥さん、君の夫は心身共に健康だから、当分の間別居する予定はない」 彼は当てこすりを言う。

この電話でのやり取りはまったくメチャクチャだった。モーションは受話器をしっかり握って、最後に尋ねる。 「いつ帰って来る?」

「……金曜の夜」

「わかったわ。待ってます」 モーションは深く考えずにそう口走ったが、言い終えてからかなり意味深な表現であると気づき、思わず息を殺した。

電話の向こうでも沈黙があり、 「ガチャ」という音がしたかと思うと電話から話中音が聞こえてきて、モーションは唖然とした。彼は事もあろうにこんな風に電話を切ってしまったのだ!

ホー・イーチェンは携帯をしまい、ドアを開けて個室に入る。国際貿易会社のリー社長は彼が入って来るのを見るやいなや、立ち上がって酒を勧める。 「ホー先生、どこへ行ってらしたんです。さあさあ、もう一献差し上げましょう。今日の交渉は実に素晴らしいものでしたよ」

イーチェンは微笑んで応対し、グラスを合わせて、ぐいっと飲み干す。

お世辞と社交辞令にすぎない言葉を交えて、1時間余り食事した後、リー社長言う。 「ホー先生、どうやらみんなほとんど食べ終えたようですし、場所を変えませんか?」

男性陣はすぐさまピンときて、あいまいな笑みを浮かべた。

彼らの様子を見ればどういう場所か言うまでもなく推測できるので、イーチェンはすかさず答える。 「リー社長たちでどうぞ。私は先にホテルに戻りますから」

「ホー先生、それはあまり感心できませんな」 リー社長はわざと仏頂面をした。

イーチェンは苦笑して言う。 「実は家内が睨みを利かせてるもんで。ほら、今も電話をかけてきてチェックを入れられたばかりなんです。もう少ししてホテルに電話がかかって来た時、その場にいなかったら、おそらく帰宅後ただでは済まないでしょう」

男性陣はすぐさま同病相哀れむ表情になり、リー社長言う。 「ホー先生がそう頑なである以上、我々も無理強いできませんな。シャオヤンに送らせましょう」

シャオヤン運転手が立ち上がってイーチェンを送ろうとするが、やんわりと断る。 「お気遣いなく。ホテルは遠くありませんし、歩いて戻ります。道すがら夜景を見るのも乙なものですからね」

何とか抜け出せたものの、イーチェンはホテルに帰りたくなくて、踵を返すと反対方向へ歩いて行く。

広州はとてもきらびやかな都市ゆえ、いとも簡単に人の目を魅了し、方向を失わせる。イーチェンはある広場をぶらぶら歩き、高齢者、カップル、子供たちの間を突っ切って、喧騒の中の静けさをおう歌した。

突然、白い閃光が走り、イーチェンが振り返ると、そばで写真を撮っている人がいた。観光客らしき女学生2人が、広場で記念写真を撮っている。

なんの理由もなく彼女を思い出した。初めて彼女に会った時、やはり同じように白い光が放たれかと思うと、カメラを構えてニコニコしながらこちらを見ている1人の少女が目に入った。

誰であろうと盗み撮りされてご機嫌な人などいないだろう。しかし、彼はその時も黙ったまま、ただ眉をひそめて彼女を睨みつけるだけだった。

最初こそ彼に睨まれて少しびくびくしていたものの、すぐさま開き直って、後ろ暗さから先に打って出る。 「ちょっと、私が風景をじっくり撮ってたのに、どうして突然飛び出してくるのよ?」

彼はまだ少し腹が立っていたが、彼女の言い種を聞いたら、怒るべきか笑うべきかわからなくなり、彼女を無視してその場を離れるしかなかった。彼女が追いかけてきて問いかけるとは思いもよらない。 「ねえ、どうして行っちゃうの?」

もしも、ここで攻勢に転じられないようでは法学部の優等生の名が泣いてしまう。 「君は景色を撮りたいんじゃないのか?君に返してやる」

彼女はたちまち顔が真っ赤になり、しばらくしてモゴモゴ話す。 「わかったってば。あなたをこっそり撮ってたって認めます」

誤りを犯したことに気づいた点はまだ評価できると言えよう。イーチェンが歩き出すと、彼女はマイペースでついて来る。しばらく歩いていたが、イーチェンは我慢しきれずに振り返る。 「僕について来て何なんだ?」

「まだ名前と学部を教えてもらってないもん」 彼女は無邪気に言う。

「何で君に教えなきゃならない?」

「教えてもらわなきゃ、どうやってあなたに写真をあげるのよ?」

「いらない」

「ふうん」 彼女はうなずき、まるきり意に介さない。 「じゃあ、現像できたら、あちこち訊いて回るしかないか」

彼は信じられない。 「止まれ」

「どうして?私が見つけ出せないんじゃないかって心配なの?」 彼女は“慌てないで”という表情を見せる。 「学校全体には何万人もの人がいるけど、‘思う念力岩をも通す’って言うでしょ。一人ずつ訊いて回れば、どのみちあなたに行き着くに決まってる」

そもそも学内で巻き添えを食らう必要もないわけで、イーチェンは歯を食いしばる。 「ホー・イーチェン、国際法学部2年」 言い終わるとあっという間にその場を離れるが、はるか遠くへ行ってもまだ彼女の笑い声が聞こえた。

2日後、案の定彼女は彼を探し当て、宝物を見せるように写真を取り出した。写真の中の自分は夕日の下で深く考え込んでいる。 「ねえ、見て。光と影の効果をこんなにうまく処理したのは初めて!太陽の光が木の葉を横切ってるのが見える?」

彼は顔を上げ、彼女の顔に降り注ぐ日光を見た。理不尽にも、その日光は断りなく幾重にも重なる深い霧を突っ切って彼の心の奥まで入り込み、彼には拒む時間すらなかった。

彼女は彼の薄暗い人生の中の唯一の日の光だった。しかし、この日差しは彼だけを照らしたわけではなかった。

離れ離れだった7年間、もう一人の男が……

イーチェンは目を閉じる。

認めろ、ホー・イーチェン。お前は嫉妬でおかしくなってるんだと。

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