❏❏❏ 回顧録:2007年3月9日 東京 自宅

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この日、私は骨折の退院をした。

娘と息子は、まだ幼いので、パパが自宅に戻り、キャッ、キャッ、と喜んでくれる。

 

勿論、私も嬉しいのだが、心の中はどんよりしている。

癌(がん)の告知を受けたんだから。

 

夕方になっても熱は38℃台のままだった。

 

夕食を済ませ、妻と「家庭の医学」書を開く。

分厚い病気の辞書だ。

 

妻は、昨日のうちに該当しそうな病気を幾つか調べていた。

二人で改めて「精巣腫瘍」を調べるが、お互い首をかしげる。

 

記されている症状には、

「徐々に肥大し、場合によっては、くるぶし大になる」とある。

 

私の場合は、

「小石のように硬く、小さく」なっている。

 

辞書には、「石」のように硬くなることもあるとあり、診断内容に、同じ点と違う点がある。

 

違う点をみつけ、少し楽な気持ちになっているのがわかる。

 

そして、妻が言った。

「パパのは、この病気じゃないんじゃないの?癌じゃないような気がする」

 

「俺もそう思う」

 

二人とも癌という病名から全力で逃げようとしている。

 

取敢えず、気分的に楽になったので、ホッとしている。

 

明日、木村先生に会ったとき「精巣腫瘍は、精巣が肥大すると理解しているので、私は癌ではないと思う」と言えるからだ。

 

何としても癌(がん)という病気を受け入れたくない。

弱い人間だ。

 

でも、こんな状況になったら、みんなそうかもしれない。

俺は強い人間じゃない。

でも、仕方がないじゃないか!

 

自然と、口数が減って、一人で考えていた。

 

食後、解熱剤のロキソニンを服用した。

 

一旦、熱は37℃台前半まで落ちるので、すごく楽になる。

 

早く横になりたい。くたくたの一日が終わろうとしている。

 

今日だけで、3人の医師と会い、三種類の検査をした。

そして、最悪の告知を受けている。

 

ようやく、大変な一日が終わろうとしていた。